VISUAL BULLETS ー今日もアメコミ三昧ー

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闇のマルチバース、再び。 DARK KNIGHTS: DEATH METAL の予備知識

 現在、新刊が出ない状況が続いているアメコミ業界。
  DC では本来、5月から今年最大のクロスオーバーイベントが開始される予定でした。

 それは DARK KNIGHTS: DEATH METAL

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Art by Greg Capullo, Jonathan Glapion and FCO Plascencia, DC COMICS HP より引用
  
 ダーク・マルチバースの襲来を描いた2018年のクロスオーバーイベント DARK KNIGHTS: METAL の続編となります。

 前回クリエイター陣の中枢であったライターのスコット・スナイダーとペンシラーのグレッグ・カプロというコンビが続投。
 昨年の BATMAN: LAST KNIGHT ON EARTH で(1つの)バットマン・サーガを完結させた2人ですが、今回は更に JUSTICE LEAGUE なども担当したスナイダー1人にとっても現時点における総決算的内容にもなるとか。

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 そこで今日の記事では来るべき一大イベントに備えるため、本作を読むのに必要な予備知識をさくっと解説してみようと思った次第。

 今回も中々に複雑な内容です。いつも通り端折りすぎや間違いあったらごめんなさい。悪しからず。

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DAWN OF X がフルスロットル! X−MEN の今


House of X/Powers of X

 かつてはマーベルを牽引するほどの一大勢力であったにも関わらず、近年は大人の事情で不遇の扱いを受けていた X-MEN
 ネズミがキツネを食べたことでようやく映像化権のいざこざにケリがつき、昨年からようやくまともな扱い受けられるようになりました。

 ただ長らく冷遇されていたが故にすっかり読者が離れてしまっていたので、生半可なテコ入れではかつての栄光を取り戻すことは難しい。

 そこで招かれたのがジョナサン・ヒックマン
 かつてマーベルで FANTASTIC FOUR AVENGERS 、メガクロスオーバー SECRET WARS のライターとして高い評価を受けた方です。ここ数年はマーベルを離れ、イメージでSFを中心にいくつかのオリジナル物を手がけていた彼ですが、 X-MEN を再びマーベル随一のタイトルに押し上げるべく凱旋。

  X タイトルは彼の監修下に置かれ、 DAWN OF X (俗に”ヒックバース”とも)呼ばれる時代が始まりました。

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BANG! (DARK HORSE)


BANG! #1 (English Edition)

  英国秘密諜報部 MI-X の敏腕エージェント、トーマス・コード。
 持ち前の機転と卓越した身体能力を駆使し、彼は今日も困難な任務を遂行する。世界的犯罪組織ゴールドメイズから謎のペーパーバックを奪取した彼だが、その直後・・・。

 ところ変わって MI-X の本部。トーマス・コードという名の凄腕エージェントが新たな任務を与えられる。それはとあるエージェントが命を賭して回収した謎のペーパーバック、その作者を確保しろというものだった。

 同じ名前のエージェント、ありえない筈の記憶、拭いきれない違和感・・・現実と虚構の境界が曖昧になったコードの前に、著者フィリップ・ヴァーブが姿を現す。

 MING MGMTDEPT.H などで知られるカナダ出身のクリエイター、マット・キントウィルフレド・トーレスらのアートと共にダークホースから送る最新作。発表当初はジェームズ・ボンド+タンタンのような冒険活劇という触れ込みだったのですが、蓋を開けてみればボンド的スパイをはじめとした様々なテンプレキャラメタな陰謀に巻き込まれていくサスペンス・アクションでした。

 こういうメタな視点が交じる物語は苦手な方もいるようですが、個人的には大好物です。
 伊藤計劃の短編『女王陛下の所有物 On Her Majesty's Secret Property『 From the Nothing with Love 』なんかを思い出しますね。

 謎のペーペーバックの著者として登場するフィリップ・ヴァーブという人物にしても、キントがこれまで手がけてきたオリジナル作品に必ずと言ってよいほど登場している謎のキャラクター。本作でも物語の鍵を握る存在として重要な位置を占めるようです。
 

 アーティストでもあるキントの絵柄がすごくツボなので本作でも彼の絵を堪能したかったため、ウィルフレド・トーレスの絵については正直最初「うーん・・・」と首を傾げたのですが、読み進めるにつれてこれはこれでありかと思い直すようになりました。キントとはかなり違う作風ではあるものの、小気味よいアクションなどが中々上手。


 #2ではまた別の人物に焦点が当てられ、『ダイ・ハード』のジョン・マクレーンや『スピード』のジャック・トラヴェンといったアクション映画に出てきそうな活劇野郎系キャラ、ジョン・ショーが登場します。

 こうしたテンプレキャラ同士が今後どう関わり合っていくのか。そして彼らが立ち向かうべき陰謀とは一体どのようなものなのか、今後が気になる作品です。

PUNISHER: SOVIET (MARVEL)


Punisher: Soviet (Punisher: Soviet (2019-)) (English Edition)

 舌の根も乾かぬうちに連載終了した作品を取り上げる当ブログでごめんなさい。
 でもガース・エニスパニッシャーは語らずにはいられない。
 ましてアートが NEONOMICON ジェイセン・バロウズ。取り上げないわけにはいかないのです。

 #6までのミニシリーズなのでご容赦を・・・。

 とある冬、ニューヨークで勢力を拡大しつつあるロシア系マフィア、プロンチェンコ・ファミリーの拠点が何者かの襲撃を受けた。綿密な計画、的確な射撃、確実な死・・・だがそれはパニッシャーの所業ではなかった。かつてソ連のアフガン侵攻で男が見た地獄とは。

 直近でエニスが手がけた PUNISHER: THE PLATOON はまだ兵士だった頃のフランク・キャッスルを描いていたんで、面白くはあったものの、正直「こりゃパニッシャーじゃねえな」という感じだったんですが、今回は都会のインフラから人間関係まで使えるものはなんでも使えるアーバン・ゲリラ。皆が期待する通りのフランクです。

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 かつて伝説的な連載を手がけた人物でも久々に同じキャラや世界観を扱うとどうもしっくりこないってのはコミックのみならず漫画や小説でもよくある話なんですが、ことエニスに関しては全くそんなことなく。むしろキャラクターの動かし方に磨きがかかっているとさえ思われます。

 追い詰められても眉一つ動かさず事務処理的にコトをこなしていくパニッシャーの一挙一投足がしびれる。なんだろうね、この「絶対追い詰められたフリして罠張ってんだろうな」と分かってても、いざ罠が炸裂するとぞくぞくするカタルシス。

 今回パニッシャーと共闘してマフィアを相手にするヴァレリー・ステパノヴィッチもいい味出してます。パニッシャーよりやや軽めな性格ながら戦闘では勝るとも劣らない動き。ダンディズムが滲み出てるけれど小洒落た感じはしない。
 いいおじさん。とてもいいおじさんです。


Punisher: Soviet (2019-) #2 (of 6) (English Edition)

 
 あとエニスのライティングは戦争ものが絡むと一際冴えます。
 今回はタイトルにソビエトとあるとおり、ソビエトのアフガン侵攻が物語に大きく絡んできます。
 戦争ものは下手な人が描くと、なんとなく人情ドラマがあってキャラクターがバタバタと死ぬ醜悪なデス・ポルノみたくなりがちなんですが、エニスはあくまで自身の詳細な下調べに基づく描写で戦場の恐ろしさと不毛さを伝えてきます。
 
 バロウズのアートもこれに一役買っていて、彼の絵ってぱっと見、華がないんですよ。アクションが派手だとか、キャラの造形が美しいとか、そういう特徴はない。かなり淡々と描くタイプの絵師だと思うんです。けれど、だからこそというか、そういった大仰な武器を持たないからこそ描ける対象の幅が広い。
 これができる人って実はかなり少なくて、例えばアクションを得意とする人だと会話シーンを描かせるとかなり退屈な絵になっちゃうなんてことは結構あるんですけれど、バロウズの場合はアクションも会話も均等な面白さで読みこなせるんですよ。こういう絵柄はこと必ずしも派手なアクションが求められないパニッシャーのような地に足の着いたキャラクターを手がける際には必須スキルとさえ言えるかと。


 そして極めつけはラスト。単なる人殺しではないパニッシャーの真骨頂が見られる。

 ガース・エニスのパニッシャーは MAX 時代の連載が象徴的過ぎて最近の作品は話題に上りにくいのですが、作品のクオリティは今も上がり続けています。
 ぜひご一読あれ。

FRIDAY (PANEL SYNDICATE)

 しばらく閑古鳥が鳴いていたパネル・シンディケートからの新作はトップ・クリエイター陣による意欲作。


 クリスマス休暇を利用して故郷のキングス・ヒルに帰ってきたフライデー・フィッツュー。しかし、駅に着くや否や、彼女は幼馴染で警察の捜査を手伝うランスロット・ジョーンズと共に近くの遺跡から出土した石刃を盗んだ犯人を追跡することに。森のなかで下手人を発見した一行だったが、その錯乱した様子にフライデーは尋常でない気配を感じ取る。地域に言い伝えられる生贄との関連はあるのか。そしてかつて少年探偵とその助手として活躍したランスロットとフライデーとの間に溝を生んだ過去の出来事とは・・・。


 本日突如パネル・シンディケートから発表されたできたてほやほやの新作です。脚本は CAPTAIN AMERICACRIMINAL といったクライムサスペンスを数多く手がけてきた、エド・ブルベイカー。アートは AMAZING SPIDER-MAN なども手がけ、サイトの発起人でもあるマーティン・マルコス。カラーにはマルコスと頻繁にタッグを組むムンツァ・ヴィセンテ


 パネル・シンディケートについては以前何度かこのサイトでも取り上げましたが、マルコスが SAGA などで知られるブライアン・K・ヴォーンらと共に2013年に設立した電子コミックサイトで、最大の特徴はコミックの購入価格を0円から自由に設定できるという点。1ドルからとかなら結構やってるところ多いんですが、完全無料でもOKという方針のサイトは他では未だにこのサイトくらいかと。
 それでも多くのクリエイターがかなりの額の収益が挙げられているということなので、思わず投げ銭したくなる作品のクオリティは推して知るべし。

 そんな PS でしたが2019年はほとんど更新がなく、久々の新作となった今回の FRIDAY ですが、少し前からツイッターや他のクリエイターからのニュースレターなどで新作が出ることは察知していたものの、まさかブルベイカーが出てくるとは思いもよりませんでした。
 この勢いで PS には再びデジタルコミック界に大きな波を引き起こしてもらいたいところです。

 さてさて。
 本作を制作した背景に関して、ブルベイカーが#1の巻末コラムでちょろっと解説しています。それによると、かつて彼がカートゥニストとして活動していた頃にしばらくはまっていたヤングアダルトノベル(日本の感覚だとラノベよりも青い鳥文庫とかそっちらへん)から強く影響を受けているというらしく、本人の中でかなり長い間温めてきた企画なのだそう。
 本作の少年探偵とその助手という設定からは確かにナンシー・ドリューなど YA ミステリーの雰囲気が感じられます。

 また、サスペンスの第一人者としてのブルベイカーらしい導入ではあるものの、他方で人身御供の伝承にまつわるオカルトちっくな気配もあり、また同コラムでも本作はここからぐいグイぐいっと面舵いっぱいするような話があったので、2018年に完結した KILL OR BE KILLED みたいに軽く斜め上の展開は期待できそう。

 少なくともヤングアダルト物から着想を得たからといって本作もそうかと問われれば決してそんなことはないのでご安心を。


 アートについては、マーティンムセンテのアートは相変わらずいい味出してますね。
 クライム物ではフランク・ミラーダーウィン・クック、あるいはショーン・フィリップスなんかが有名で、そういった方達は重量感ある絵柄であることが多いのに対して、本作のアートはややシャープな印象を受けます。かといって雰囲気が損なわれているなんてことは決してなく、ノワール物としては中々新しい絵柄かもです。


  PS の作品は結構気まぐれな刊行ペースなので#2以降がどのくらいのペースで出るのか正直まだ判然としないのですが、今みたいに新作が枯渇している時期にこうした話題作が出ることは嬉しい限り。
 

 今回の騒動でウェブコミック界は大きな変化を遂げるかも。今後も見逃せません。


パネル・シンディケートのウェブサイト
panelsyndicate.com

BASKETFUL OF HEADS (DC/BLACK LABEL)


Basketful of Heads (2019-) #1 (English Edition)

 コロナウイルスの影響によりダイヤモンドが米国内におけるコミックの流通を停止してからそろそろ1ヶ月・・・新刊がほぼない状態が続き甚大な被害を被っているコミック業界ですが、現在収束後に起こりうる不安要素の1つとして危惧されているのが「これを機に一度離れてしまった読者が流通再開後もコミックを読まなくなってしまうこと」だと言われています。

 そんな動きに少しでも歯止めをかけられればと考え、本ブログでも普段は完結してる作品とか、少なくとも単行本単位でまとまっているものを中心にレビューしているところを、しばらくは現在連載中で追いつきやすい作品も紹介していきたいな・・・なんて思った次第。

 さてさて。
 昨秋、 DCBLACK LABEL から LOCKE AND KEY (コミック)や NOS4A2 (小説)などで知られる人気ホラー作家ジョー・ヒルを監修に迎えて送り出されたラインナップ、 HILL HOUSE 。現在5作品がリリースされており、2020年4月の段階で全てが6号以下(全て独立した物語)なのですぐに追いつくことができます。
 
 その中で最初に刊行され、現在クライマックスを迎えているのが本作BASKETFUL OF HEADS


 嵐が間近に迫った小さな町で、彼氏の家に滞在していた少女が脱獄犯の襲撃に遭遇。コレクションで家に飾ってあったヴァイキングの斧で侵入者を撃退した彼女だったが、胴体から離れた相手の首は息絶えることなく・・・というのがあらすじ。

 ヒルが脚本を担当。アートは中身をイタリア出身のアーティスト、レオマックスが、カバーはファンタジーやホラーを中心に活躍する村上玲子が手がけています。

  
 タイトルを意訳すると「カゴいっぱいの首」。あらすじやカバーなんかからもわかるとおり、首がぽんポンぽんと飛んでく話なんですが、劇画チックでない素朴な絵柄に加え、会話を中心にした話のテンポが良いこともあり、あまりどぎつい印象は受けません。むしろ会話する生首達がコミカルに見えることもあり、グロ苦手という人でも案外イケるかも(保証はできないけれど)。
 
 また、ヒルはホラーの帝王ことスティーブン・キングの息子としても有名ですが、”ショーシャンク”という単語が飛び交うなど彼の作品ならではなニクい演出も。


 個人的に主人公ジュニーの性格が大変好みです。襲撃にあったり、首を刎ねた直後とかはそれっぽくパニクるんですが、ちらほら計算高い性格が伺え、ここぞという場面では躊躇なく斧を振っちゃいます。
 ただ追い詰められて窮鼠猫を噛むだけではないホラーヒロイン。タフというのとはちょっと違う。こういうの意外と見たことないかも。

 あと、本作を通してカッパってファッションアイテムとしてすげえ有効なんじゃないかと思い始めてるんですが、皆様いかがお過ごしでせうか。


 本作は現在#6まで刊行されており、最終章である#7は4月22日刊行の予定ですが、おそらく当分見合わせることになると思われるので、追いつくなら今がラストチャンス。


 一応、 HILL HOUSE 作品は全て読んでるんで逐次記事にしていく予定(は未定)です。