VISUAL BULLETS

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THE MIDWICH CUCKOOS

最近読んだ小説。

1957年にジョン・ウィンダムが著したSFホラーの名作。
いつか読もう読もうと思って早数年。最近購入する機会に恵まれまして遂に読みました。

英国の小村ミドウィッチにある日、謎の飛行物体が飛来し一帯にいる全ての人間が昏倒。翌日になり目を覚ますと、村では女性住民全員が一斉に妊娠していた。
やがて生まれた黄金色の瞳を持つ子供たちが巻き起こす騒動の顛末を描いた作品です。

良い。
大変良い。

分量的にも内容的にもさっくり読めながら、しっかりした読後感を得られる満足度の高い作品。

物語は1人の(元)村人の視点からルポルタージュ記事のように語られます。
まずこのドキュメンタリー性に満ちた文章が個人的にツボ。目の前に広がる異常事態を俯瞰的中立的に語ろうとしつつ、当事者としての臨場感も併せ持つ語り口が一見荒唐無稽な物語をきゅっと引き締めます。

また、冷戦を背景にしたセッティングなど時代性を感じる描写はありつつも、物語自体は現代の寓話として十分通用し、ソーシャル・フィクション好きの自分に刺さりました。奇怪な出来事、その裏にある事実に加え、やや想像力のたくましさを感じさせる言説のやり取りがあるのはいかにもなSF感。なんとなくウエルズなどに代表される英国SFらしさがありますね(といっても英国SFにそんなに詳しくはないんですが)。
子供たちの行為がエスカレートしていく背景がしっかりと描かれており、パズルのピースがはまっていくような心地よさもありました。

タイトルのCUCKOOSは鳥のカッコウのこと。他の鳥の巣に卵産みつけて育てさせるという自然のえげつなさをぎゅぎゅっと凝縮したような生存戦略"托卵"で有名なヤツです。
そこからわかるとおり、本作に登場する子供達は謎の飛行物体によってミドウィッチの住人達に"托卵"された異質な存在。
中身読むまで気づかなかったんですが、要するにこれ侵略物なんですね。

そんなわけで子供達がとにかく不気味。
まず纏ってる雰囲気からして怖いし、やることも容赦ない。服についた虫を払うように村民をマインドコントロールで排除。口を開けば物騒な物言いだし、当然ながら死傷者に対する良心の呵責はまるでありません。生みの親にさえ親しみの感情を持っているか怪しい。
無邪気なのは見た目だけの異生物。
んでそういうのがわんさかいる。男の子31人に女の子30人(正確な数ではない。色んな意味で)。
怖い。
恐怖ってのは大体無知から来るものだって話を以前どこかで聞いたことありますが、こいつらは知れば知るほど異様さが際立つ仕様。
気づいたら背中にじんわり冷や汗をかいてるタイプの不気味さです。

派手な物語ではないものの、静かな緊張感の高まりが病みつきになる作品でした。とってもおすすめです。

…それにしても、海外だとちょいちょい話題に上るし個人的には知名度の高い名作クラシックという認識だったんで邦題(「呪われた村」)を調べるにあたってちょっと驚いたんですが、日本だと本作はかなりマイナーなようで、ジョン・カーペンターの映画『光る眼』の原作として知ってる人は知ってるという程度らしい…。

勿体ねえ勿体ねえ、ということでもっと知られてほしい1冊です。