VISUAL BULLETS

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STARTLING STORIES: BANNER(MARVEL, 2001)

スーパーヒーロー物に馴染みのないクリエイターを招いてジャンルに新しい風を吹き入れようという試みとして創始したSTARTLING STORIESという2001年から2003年にかけて制作された作品群の一つ。

DCがヴァーティゴとかでたまにヒーロー物扱ってたけど、位置付け的にはあんな感じ。
エディターもヴァーティゴ出身で後のマーベルEiC(エディター・イン・チーフ=編集長みたいなもん)のアクセル・アロンゾだし。

STARTLING STORIESでは他にもスパイダーマンやファンタスティック・フォー、シングを扱った作品が作られました。売り上げが芳しくなかったのか短命に終わってしまったものの、本作含めどれも割と評価は高く、FANTASTIC FOUR: UNSTABLE MOLECULESなどはアイズナー賞も獲得しています。

本作BANNERではアングラホラーコミックの大家として知られる故リチャード・コーベンをアートに招き、100BULLETSなどで知られるブライアン・アザレロが脚本を手掛けました。

大筋は割とストレート。
田舎に出現したハルクを捕獲するためロス将軍とドク・サムソンがあの手この手で挑んではぶっ壊され挑んではフルボッコされ。奸計を用いてようやく捕まえて…?といった感じ。
ただ作品名がHULKでなくBANNERとなっていることからも察せられる通り、ハルクの存在に悩まされるブルース・バナーがクローズアップされており、クライマックスにおけるドク・サムソンとのやりとりがこの作品の肝。
自殺に関する描写があるのでそういうのが苦手な方はご注意願いたいものの、ブルース・バナーとハルクの二面生について、特にブルースの視点から描こうとするとどうしても避けられないところはあります。
さくっと非人道的なことしまくる軍隊がスパイス。

評価が二分される要因はやはりリチャード・コーベンのアートかと。
コーベンのオンリーワンな絵柄は他作品で見慣れている自分にしてみればご褒美みたいなもんなんですが、彼のことを全然知らず本作が初邂逅という方はその独特な誇張や点刻を用いた陰影などにやや面食らうかもしれません。
特にハルクについては普段見かける雄々しい印象と異なり、"でっかい赤ん坊"とでも言ったようなずんぐりむっくりなお姿。暴れる様子もどこか癇癪を起こした子供が積み木を崩すような感じで、普段の"スーパーヒーロー"的な格好良さは正直あんま感じられません。
ここらへんは珍味を味わうが如く。「慣れろ。慣れたらすげえいいから。」としか言いようがないのがもどかしいところ。他方、コーベンのハルクとかファンにしてみりゃ垂涎ものの組み合わせ。#2のVS米軍シーンとか目で味わうウニみたいなもんです。

DCもマーベルもちょいちょい思い出したように本作みたいなの出すんですが、できればもっとやってほしいし、花火を一発あげてそれで終わりじゃなく、色んな可能性をもう少し掘り下げてほしいところ。

ところでこの作品、去年閉鎖したBOOK DEPOSITORYというサイトで最後に入手したものだったんですが最後までとても良い買い物でした。
価格も良心的なら在庫も豊富だったし、パッケージングも良かったのでとても良いサイトだったのになあ…。