VISUAL BULLETS

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RADICALIZED (2019)

コリイ・ドクトロウ。

以前から方々で名前が囁かれていたのは知ってたんですが読むのはこれが初めて。

めっちゃ良かったです。

居住区域が所得格差で分断されたアパートを舞台に、部屋のスマート家電をハッキングした女性がささやかな自由のため奮闘するUNAUTHORIZED BREAD。
長年米国で活動を続けてきたスーパーヒーローが白人警官から暴行を受ける黒人市民を守ろうと立ち上がったことに端を発し騒動が巻き起こるMODEL MINORITY。
妻のがんを治療するための先進医療に保険会社からノーを突きつけられた男性が過激思想の交流サイトにのめり込んでいく表題作RADICALIZED。
社会が混沌としていくのをよそ目にシェルター内で共同生活をコミュニティの崩壊を描くMASQUE OF THE RED DEATH。
以上の4つの中編小説で構成されています。

自分はSFの中でも現実の三歩先くらいの未来を通して社会を描こうとする類の、俗にいう"ソーシャル・フィクション"がすごく好きで、もっと言うなら数時間から数日かけて読む必要がある長編よりも短いスパンでテンポ良く読み進められる短編中編の方が割と好みです。そう言う意味でも本書はドンピシャでした。

この手の作品は「世界がキャラクターにどれだけ意地悪か」というバランスが味の大きな決め手となるようなところがあり、バランス調整のためにSF的なギミックが存在している面さえあると思います。
本作の例を挙げるとするなら、格差社会による不平等と搾取構造を示すため、主人公の住む高層アパートでは貧困層と富裕層とで明確に居住区が分けられており、貧困層は富裕層が乗っている間はエレベーターを使用することができなかったり備え付けのトースターでは特定の割高なブランドの食材しか温められなくなったりしているといった具合です。

こうした作品はやろうと思えばドラマBLACK MIRRORみたく徹底的に登場人物をいじめ抜くこともできますし、逆にIT企業の作るCMみたいな超甘やかしモードにすることもできます。本作に収録されている作品はどれも割と攻撃的ではあるもののまだ救いがある方です(無論、バラツキはある)。ただそれだけにリアリティがあるのでハラハラするというのはあります。
特に一作目のUNAUTHORIZED BREADは近い将来自分にも起こりそうなこととして、三作目のRADICALIZEDは明日にでも自分に起こりそうなこととして終始緊張感をはらんでいました。
スーパーヒーロー作品に親しんでいる身としてはスーパーマンのオマージュ的ヒーローが登場するMODEL MINORITYについても「本物のスーパーマンだったらもっとうまく立ち回れたのだろうか…」としばらく考え込んでしまいましたね。
四作目の作品についてはエドガー・アラン・ポーによるTHE MASQUE OF RED DEATH(邦題『赤き死の仮面』)のオマージュ作品なんですが、あらかじめそちらも読んでおくと良いかも(自分はだいぶ前にさらっと読んだだけで忘れてた)。

なんにせよコリイ・ドクトロウ、どの作品も楽しめる考えられるしで久々にどハマりしそうな予感がする作家なので今後他の作品も追いかけようと思います。