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THE EATERS(DC/VERTIGO, 1995)

「人喰い家族VS.アップルパイ協会」なのに喉越し爽やか。

あらすじはこんな感じ。

クィル家の4人は人肉を食べる。ちゃんと調理して食べる。
最近はちょっと食材が足りないのでしゃーない、パパは娘の彼氏を屠ろうかと目論む。
両親と弟は何の疑いも持たず人肉料理を平らげる一方、(前の彼氏を食卓に出され次の彼氏も殺されかけた)長女のキャシーだけは他と異なる食生活に疑問を呈す。何でだろうね?
そんな家族のもとへある日、アップルパイ協会員の男がやってくる。何やら彼らが主催する「全米一のアメリカンファミリー」の賞にクィル家が選ばれたとか。
それはともかく久々の丸々太った食材。
フルコースに舌鼓を打つ家族を前に、父アダムはロードトリップを提案する。

以前「カニバリズムは日本の漫画でしか表現できない」みたいなこと言ってプチ炎上してた漫画家だか国会議員だかがいましたが、確かその頃に入手して「タイムリーだな」と思った記憶があります。

ライターはピーター・ミリガン。まあ、ミリガンならこのぶっ飛んだ発想できっちり物語落としてくるのも少し納得です。
メインアートはディーン・オームストン。どっかで聞いた名前だと思ってたらあれでした、BLACK HAMMERの人。派手じゃないものの、ラフで素朴で親しみやすい絵柄です。
こういう人は多少ショッキングなシーンでもさらりと描きます。
今回もハンニバル・レクターがうきうきしそうなシーンとかあるんですが、読み流してから「あれ、もしかして今のかなりヤバくなかった?」と見返すことがありました。そういう意味ではあんまグロくないです。

キャラクターについてはマトモな人いません。
一番マトモそうなのは長女だけど「人食べるのってどうなんよ?」とか言いながら多分前の彼氏もしっかり食べてるし。道中で出会った新しい彼氏と頭皮ストロガノフとか太もものムニエルとか作ってるし(全部ママのレシピ)。
同僚の死を不審に思い家族を追うもう1人のアップルパイ協会員も全裸になって体にアップルソース塗りたくる変態です。

世界観からキャラから異常な要素だらけなのにホラー感はまるでなく、むしろ読後感は何故か心地良いアメリカン・ニューシネマ。傾いた木の電柱から電線がだらりとぶら下がるど田舎で埃っぽい平原に挟まれ延々と続くカントリー・ロードを車で移動するってシチュのせいかも。

カニバリズム要素については全くグロくないといえば嘘になるものの、上でも述べたとおりそこまでショッキングな絵ではないかと。基本調理されてるし。終盤にちょろっと解体シーンがある程度。

それ以外のストーリー上の重要な展開とかでも敢えてシーンを劇的にするような見せ方を控えるのは視覚に訴えるメディアとしては一見不可解にも思えますが、物語自体に盛り上がりを託すことでリッチな読み応えをもたらしてくれます。唐突なクライマックスとビターな余韻を残すエンディングも刺さる人にはぐっと刺さると思います。

自分が手に入れたのはオリジナルの16年後にヴァーティゴが過去の埋もれた逸品を集めたVERTIGO RESURRECTEDというラインナップの一冊で、他にもミリガン脚本による短編が4本(アートはそれぞれ違う人が担当している)収録されています。どれもTHE EATERS同様、ぱっと見の派手さはないものの満足度の高いストーリーです。

万人におすすめできる作品ではないものの、読める人には是非とも読んでほしい作品です。

…って、ここまで書いてから調べて気づいたけど、この作品電子化してないんかあ。勿体ねえ。

DC公式サイト内の作品リンク
VERTIGO RESURRECTED: THE EATERS #1 | DC