「第二次世界大戦でナチスが超人兵士の開発に成功していたら」というifを描いたキーロン・ギレンの架空戦記。
第1シリーズが#27までなので本号はシーズンフィナーレの前段階といったところ。
前号#26がナチスを中心に描いていたのに対し、本号はどちらかといえば連合国やソ連の現状を描いていた感じ。
1945年9月(正史の終戦時期はとっくに過ぎてる)、ナチスは連合国側による海上封鎖の報復としてベルギーのアントワープを皮切りに市街地の焦土化作戦を開始。
チャーチル首相を失った英国は極秘裏に超人”HMHチャーチル”ことリア・コーエンの能力開発を急ピッチで進行中。
(”HMH”とは本世界観における超人兵士の総称で”Her Majesty's Humans”の略)
ついでに原爆の開発はサボタージュにより失敗し、ナチスの侵攻を防ぐことに成功したソ連も唯一の超人マリアをコントロールできず手をこまねいて(ながら色々やっている)いるというような状況。
一見すると圧倒的に枢軸国側が優勢なように見えますが、実はナチスもヒトラーが死亡しており自体は混迷を極めています。
このシリーズは戦闘シーンについて、普通のドラマっぽく描く時とドキュメンタリータッチで描く時とを切り替えながら話を進めていくんですが、この切り替えが非常に上手。
特に後者の手法については、大規模な戦災に対し敢えて少し退いた位置から言及することでむしろその被害の大きさや惨たらしさを際立たせます。
キャプテン・アメリカをはじめ、スーパーヒーローと戦争を絡めたような作品やキャラクターというのはままあるんですが、本作のように超人たちを”兵士”と”兵器”という2つの側面から描く作品はあまり類を見ません。
一瞬にして大勢の人間を跡形もなく吹き飛ばしてしまう力と、等身大の精神。
その二面性は当然ながら戦局に影響を及ぼしますし、戦争というもののグロテスクさを炙り出します。
描写が描写だけに万人に進められる作品ではないものの、こんな時代だからこそなるべく多くの人に読んでもらいたい作品です。
出版元であるアバターの大人の事情から数年に渡り休刊している本シリーズ、そろそろ何かしらの形で完結を見たいなあ。