VISUAL BULLETS ー今日もアメコミ三昧ー

アメコミをはじめとした海外コミックの作品紹介や感想記事などをお届け

名作アメコミ100選(仮)

ずっとやりたかった企画。

アメコミ作品の中から名作と呼べそうな作品を独断と偏見で選んでみました。

いざやってみると100作ぴったり選び抜くのってきついですね。

当初背景的なことを諸々書き足そうと思ってたんですが、野暮なんで前置きはさくっと終わらせて紹介に移ることにしました。

あ、大体アルファベット順に並べたつもりです。

THE ADVENTURES OF JIMMY CORRIGAN: THE SMARTEST KID ON EARTH

by Chris Ware, Pantheon Books

名作を挙げろと言われた際にはほぼ必ず名前が上がるタイトル。

うだつの上がらない中年ジミー・コリガンが長年音信不通だった父親に会いに行くという現代の物語と、1893年の万博を控えたシカゴを舞台とする彼の曽祖父ジェームズ・コリガンの少年時代の物語が重ねるように展開します。

ピクトグラムを思わせるシンプルなタッチで描かれるイラストと独特のコマ割りが文学的なストーリーと絶妙にマッチ。
独特なコマ割りなど、やや実験的な演出に慣れるまで多少の読みづらさはありますが、一度慣れてしまうと現実的な人間ドラマがちょっとしたファンタジーを読んでいるような不思議な読書体験に変わります。
単調なテンションが逆に登場人物の心情を際立たせ、余白が情緒をもたらす演出は少し漫画的かも。

現代アメリカンコミックスの極北ともいうべき作品です。

A.K.A. GOLDFISH

by Brian Michael Bendis, et al., Image Comics/DC Comics

ブライアン・マイケル・ベンディスの作品で選ぶとしたらマーベル界隈とかもっと脂がのってからのオリジナル作品とか色々あるかと思ったんですが、なんだかんだ一番魅力が凝縮されているのは初期作だなと。

そんなわけで詐欺師の男が街を牛耳るギャングのボスとなった元恋人から息子を取り戻すために権謀術数を張り巡らせる本作。
ベンディスの源流はやはりクライム・フィクションにあり、本作は後の彼につながる長い台詞回しや力強いストーリーなどが凝縮されています。

初期作と侮るなかれ、ひりつくようなサスペンスの中に少量のコミカルさを含む彼の持ち味は初期作といえど既に完成されています。
絶望と希望をない混ぜにして読者の感情をぐちゃぐちゃにしてくる終盤の展開もならでは。

また、あまり知られていませんがデビュー当初はアートも手がけていたベンディスの手腕も本作で見ることができます。
やっぱ陰を上手く操れるクリエイターは強いです。

作品によっては賛否両論あるベンディスですが、特にオリジナル作品については文句無しで今も業界トップレベルの才能だと思います。

ALL-STAR SUPERMAN

by Grant Morrison, Frank Quitely et al., DC Comics

”超人”としてのスーパーマン、その最終到達点を描いた作品。

宿敵レックス・ルーサーの罠により余命僅かとなったスーパーマンが残った時間の中で成し遂げる12の偉業を描きます。

業界トップレベルの発想力で読者を驚かせ続けるグラント・モリスン、確かな描写力と卓越した演出力を兼ね備えるフランク・クワイトリーらが手掛けた本作。

主にベースとなっているのは時として”牧歌的過ぎる”と揶揄されることもあるシルバーエイジの連載ですが、そこに散りばめられていた想像力を現代神話としてアップデートしたことでそのイメージを翻すことにも成功。
ファンは勿論のこと、スーパーマンを全く読んだことがない人にもおすすめできる作品です。

とりあえずスーパーマンが読みたい方はこれ。

AMAZING FANTASY #15

by Steve Ditko, Stan Lee, Marvel Comics

本当は単行本かシリーズ物だけに限定していた今回の100選ですが、これだけは例外。

スティーブ・ディッコスタン・リースパイダーマンのオリジンを描いた本作は、僅か11ページながら単行本1冊分の密度を有する化け物作品です(…というか、実際に本作をリメイクした ULTIMATE SPIDER-MAN は単行本まるまる1冊かけて同じストーリーをやりましたね。)
ピーター・パーカーが科学実験の事故により大きな力を手に入れ、ベンおじさんの死を機にスパイダーマンとして”大いなる力には大いなる責任が伴う”ことを悟るまでの過程は1コマ足りとも無駄がなく、イントロダクションとしては完璧。
後続作品がどれほど現代風にリメイクしようとほぼぶれることのない普遍性を備えています。

シルバーエイジはこの1作を生み出すための時代であったと言っても過言ではないほどの集大成感がある1作です。

ANT COLONY

by Michael Deforge, Drawn and Quarterly

全米で大ヒットしたカートゥーン『アドベンチャー・タイム』のキャラクターデザインなどにも関わったダニエル・デフォージが、とある巣を舞台にそこで働くアリ達の生態を群像劇的に描いた初長編作品。

シンプルながらサイケデリックなイラストと、あっさりした語り口で紡がれる哲学的なストーリーは”センスが良い”などという言葉では片付けてはいけません。
派手さはないのにページにエネルギーが充満しており、気がついた時には心に突き刺さっています。

病みつきになること必至の1作です。

ASTERIOS POLYP

by David Mazzucchelli, Pantheon Books

以前見た CBR の読者投票ランキングで数多くの秀作名作を抑えてトップを飾ったこともある1作。

天才的な頭脳ながらややエキセントリックな性格のアステリオス・ポリープ
離婚後自堕落な生活を送っていた彼が火事で家を失ったのを機に新たな出会いなどを経て少しずつ再生していく物語です。

四角や丸といった幾何学的な図形をふんだんに取り入れた演出で、過去と現在が交錯するストーリーを展開。
音楽を聴いているような独特のテンポが楽しく、気がつくとほっこりするラストに辿り着いています。

画風がかなり違うのでぱっと見気づきにくいかもしれませんが、作者のデヴィッド・マツケッリ BATMAN: YEAR ONE DAREDEVIL: BORN AGAIN なども手掛けた人物。

劇的な物語ではないものの、史上ベストと呼ばれるだけの確かな読み応えです。

BLACK HOLE

by Charles Burns, Pantheon Books

1970年代のシアトルを舞台に若者達が陥る心と体の“罠”をボディホラーに仕立て上げた傑作。

性行為を媒介して伝播し、罹患者の肉体に変化をもたらす謎の性病。
ある者には尻尾が生え、ある者の喉にもう1つの口が、またある者は脱皮するようになり…。

チャールズ・バーンズがそのベットリとした筆致で描く恐怖は単にこうした怪物的な肉体の変化だけではありません。
それに起因して露わになる若者達の暗い心の中も描きます。
それはどす黒く、しかしどこか惹かれる妖しさ。
バーンズの強烈な絵柄は繊細な言葉と共に読むことでどこか色っぽさを帯び、どんどん読む者をのめりこませます。

なるほど、これは読者にとっても「ブラックホール」なのだと唸らせる、納得の没入感です。

BLACK PANTHER BY CHRISTOPHER PRIEST

by Christopher Priest, Max Texeira, et al., Marvel Comics

ブラックパンサーは初期のジャック・カービィの連載からレジナルド・ハドリン&ジョン・ロミータJrの連載、最近のタナハシ・コーツの連載と何気に粒揃いなんですが、ベストの連載といえばやはりクリストファー・プリーストの連載だと思います。

長い歴史を持つキャラクターに新風を巻き起こそうという試みで始まった MARVEL KNIGHTS というラインナップの1つとして98年に始まったこの連載。
外交目的でブラックパンサーことティチャラが米国を訪れるところから始まり、ワカンダの長としての役割を務めつつ、メフィストによって張り巡らされた罠をくぐり抜けたり、クレイヴン・ザ・ハンターやキルレイヴンをはじめとしたヴィランと対決したりします。

それまでの連載ではやや欠けていたアフリカの思想や文化を盛り込みつつ、テンポの良いストーリーやバランスの良いドラマとアクションで物語を進行。
後半戦で主人公がティチャラから米国人警官キャスパー・コールへ移行する展開はやや賛否両論を読んだものの、物語のクオリティは高いまま連載を終えました。

BLOOM COUNTY

by Berkeley Breathed, Idea & Design Works

1980年代の連載で大きく人気を博したユーモア作品。
田舎町にある下宿を中心にそこに暮らす奇天烈な連中の珍騒動の毎日を描くコミックストリップ。

当初は人間のキャラクターが物語の中心でしたが、徐々に喋る動物達の描写も増え、特にペンギンのオーパスが人気となり、後にスピンオフが作られるにまで至りました。

そこそこ風刺の効いた作品で、一度読み始めると中々止められない中毒性。
社会風刺に特化したカートゥーンを評価するピューリッツァー賞のエディトリアル・カートゥーン部門も受賞しました。

近年はウェブコミックなどで新作が発表されており、特に最近は新聞連載時に人気を二分した CALVIN AND HOBBES とのクロスオーバーが話題を読んでいます。

BONE

by Jeff Smith, Cartoon Books

児童向けファンタジーカートゥーンの金字塔。

村を追い出された3人のボーン達がとある村1人の少女と出会ったことをきっかけに、ラット・クリーチャーと呼ばれる獣達の脅威に晒され陰謀渦巻く王国の激動と深く関わっていく物語。

主人公のフォーン・ボーンには著者のジェフ・スミスが幼少時に思いついたキャラデザ(めちゃくちゃシンプル。故に完成系)をそのまま採用(一応人間なのかそれとも別種の知的生命体かは不明)。
普通の人間といかにも”カートゥーン”なボーン達が入り混じった結果、独特の世界観が成立しました。

ユーモアもあれば手に汗握る展開もあり、1度読み始めるとページをめくる手が止まらなくなること間違いなし。
少々インパクトはありますが、シリーズを1冊にまとめた鈍器本で買うのがおすすめです。

ちなみに私はこれでキッシュという料理を知りました。
うめえ。

THE BOYS

by Garth Ennis, Darick Robertson et al. Dynamite Entertainment

現在実写ドラマ版も好評を博しているアンチスーパーヒーロー作品。

謎の男ブッチャーに率いられた5人と1匹がセレブ化しパリピ集団となったスーパーヒーロー達に制裁を加えていきます。

ガース・エニスならではの痛快なエンターテイメント性に加え、”スーパーヒーロー”をモチーフに新自由主義や宗教政治に塗れた現代アメリカ社会を皮肉ったテーマ性が高く評価されました。
メインアーティストがダリック・ロバートソンジョン・マックレアといった過去でタッグを組んだことのある方達なので、ある意味エニスの当時までにおける集大成的位置づけにもあります。

連載初期は DC 傘下の WILDSTORM というレーベルで連載していたものの、そのあまりの過激さに打ち切られて出版社をダイナマイトに鞍替えして再開したという逸話からどれくらい突っ込んだ内容かはまあ察してください。

CALVIN & HOBBES

by Bill Watterson, Andrews McMeel Publishing

4コマ形式のコミック・ストリップ作品でランキングとか作るとほぼ必ずトップに君臨する名作中の名作。

想像力豊かでいたずら好きの男児カルヴィンと、彼にだけ生きたトラに見えるぬいぐるみホッブスの日常を描いた作品。

両親とのやり取りやベビーシッターとのバトルなど、身近にある段ボールなどの道具を想像で SF ガジェットにしたり…かと思いきやある日突然アライグマのエピソードで心を抉ってきたり。
軽い笑いからほろりとするエピソード、さらには深く考えさせるエピソードまで多種多様。
ストリップという短い形式でここまでやれるのかと恐ろしささえ感じます。

著者が映像化やグッズ化を拒否しているためか日本などではいまいち知られていないものの、米国での人気はダントツです。

上でも述べたとおり、当時新聞連載で人気を二分していた BLOOM COUNTY とは著者同士が友人で、最近はあちらの新作にゲスト出演しています。

COPRA

by Michel Fiffe, Bergen Street Press/Image Comics

個人的な考えではここ10年で刊行された中ではベストだと思っているシリーズ。

百発百中のマークスマンやパワードスーツに身を包んだオタク、怪力を有する謎の女など、癖のある危険な連中からなる政府の極秘部隊”コプラ”
とある任務でかつての仲間の裏切りに遭った彼らが報復のため、未知のエネルギーを秘める破片を手に世界各地を巡るところから始まる復讐系アクションエンターテイメントです。

著者のミシェル・フィーフェはオーストランダー&イェール時代の SUICIDE SQUAD の大ファンで本作はその二次創作を元にしており、あのマーベルキャラやこの DC キャラを彷彿とさせるキャラが登場。

しかし、単なるパロディの類と勘違いすることなかれ。
本作はオマージュを起点にしつつ、ガシガシと世界観を押し広げ、キャラの深みをぐいぐい掘り下げ、リッチで手に汗握るストーリーを展開します。

また、スティーブ・ディッコロブ・ライフェルドなどの影響を独自の手法で昇華させたフィーフェのアートスタイルは他に類を見ないもので、芸術性とエンターテイメント性の見事な両立に成功。
ページ単位で読む者の度肝を抜いてきます。

CONTRACT WITH GOD

by Will Eisner, WW Norton & Co

”グラフィック・ノベル”の元祖といわれる、歴史的にも重要な1作。

現実の荒波に呑まれる中で1人の敬虔なユダヤ人が信仰を捨て、俗物に堕ち、再び信仰を取り戻そうとする顛末を描いた作品。

フランク・ミラーやダリック・ロバートソンをはじめとして数多くのクリエイターに多大な影響を及ぼした名匠ウィル・アイズナーの代表作の1つです。

アメコミ界のアカデミー賞ともいわれる”アイズナー賞”でその名前をご存知の方でも彼の作品は読んだことがないという人も結構多いのではないでしょうか。

心情はリアリスティックに、演出はダイナミックに。
市井を描かせたら右に出る者はいないと言われるアイズナーの実力は本作でも存分に発揮されています。
誰もが認める名作です。

CRIMINAL

by Ed Brubaker, Sean Phillips, Image Comics

エド・ブルベイカーショーン・フィリップスによるクライム・フィクションの金字塔。
犯罪物のアメコミといえばまずこちらを読んで欲しい。

臆病なほど慎重な天才犯罪者を描いた「 COWARD 」や、不審死した弟の死の真相に迫るうち裏社会に引きずり込まれていく男を描いた「 LAWLESS 」など。
様々な形で犯罪に関わる人間達の姿を緩く繋がった群像劇形式のエピソードで描いていきます。

チャンドラーやハメットといった往年のノワール・フィクションの面白さを現代にアップデートした懐かしくも新しいネオノワール。
現在も不定期で連載中で、新作が刊行されるたびにファンを賑わせています。
アメリカンクライムフィクションが好きな方には絶対オススメ。
アメコミといえばスーパーヒーローというイメージがありがちですが、クライム・フィクションの本場もまた USofA です。
面白くないわけがない。

案外誰にでも勧められる万人受け作品だと思っています。
極上のいぶし銀作品です。

CRISIS ON INFINITE EARTHS

by Marv Wolfman, George Pérez, et al., DC Comics

DC ユニバース最大のクロスオーバーとして知られる作品。

並行世界を次々と消滅に追いやるアンチモニターに対抗するべく、様々な世界のスーパーヒーロー達が集結。
スーパーマンバットマンといったヒーローはもちろんのこと、ジョナ・ヘックスワイルドキャットといった人物にも活躍の場が与えられています。

長い歴史の中で複雑になり過ぎた DC ユニバースをリセットする役目も果たしながら、数多くの名場面を残しました。

よく大型クロスオーバーは「世界を揺るがし、あらゆるものを変えてしまう」という宣伝文句を謳いますが、現在まで本当の意味で影を落とし続ける作品はこれくらいではないでしょうか。
製作経緯も経緯だし、はっきり言って初心者向けの作品ではないですが、ある程度 DC ユニバースに詳しい人であればその世界観を最大限に楽しむことができる不朽の名作です。

THE DARK KNIGHT RETURNS

by Frank Miller, Klaus Janson et al., DC Comics

ご存知、WATCHMEN MAUS と共にアメコミ全体の評価を数段階底上げした DC 屈指の名作。

犯罪が蔓延し警察国家化した近未来の米国を舞台に、一度は引退したブルース・ウェインが再びバットスーツに袖を通し、新たな悪、かつての宿敵、そして最大の親友と対峙します。

全編通して無駄の一切ないストーリーテリングに、アイコニックなシーンの数々。
80年代に刊行されて以来、 今読んでも色褪せることのない面白さはまさに伝説級。
現代の我々が「戦うシニア」を格好良いと思うようになったのには、間違いなくこいつが一枚噛んでいると思いますです、はい。

私自身、アメコミを読み始めて比較的初期に読んでハマった、思い入れのある作品です。

DAYTRIPPER

by Fábio Moon, Gabriel Bá, et al., DC Comics

南米風の魔術的リアリズムをアメコミに取り入れて読む者を心酔させた、ブラジル出身の兄弟ガブリエル・バーファビオ・ムーンによる作品。

1人の男性の人生を様々なタイミングで切り取り、そのそれぞれで彼が迎える”死”を描きます。

死を繰り返す度に主人公や周囲の新たな事実が明らかになったり、可能性が拓けたりするのはループものを読んでいるような感覚。
そこにひとさじの幻想を加えた人間ドラマが次々と重ねられていくという。

時に暖かく、時に無慈悲。
万華鏡のようなコミックとはまさに本作のような作品を指すのだと思います。

バーとムーンの2人でアートもストーリーも担当しており、ちゃちゃっと読み流してしまうとどこで作画が切り替わってるのがわからないほどシームレス。
ゆっくりと味わうように読んで欲しい作品です。

DONALD DUCK

by Carl Barks, Fantagraphics Books

誰もが知っているカートゥーンはコミックもやっぱりすごい。

ご存知ドナルド・ダックが3人の甥っ子達ヒューイ・ルーイ・デューイと巻き起こす様々なハチャメチャを描いた作品集。

ディズニー・コミックスでもこの人ありと謳われる人物がカール・バークス
かのウィル・アイズナーから「コミック界のアンデルセン」と呼ばれた人物です。

彼が手がけるドナルド・ダックの活躍はカートゥーンに勝るとも劣らないクオリティだとして、当時ディズニーでは基本的にクリエイターの名前は(無論ウォルト・ディズニー以外)表記しないスタンスで匿名だった頃から、多くのファンに「 The Good Duck Artist (良いアヒル描き)」と渾名され賞賛を浴びました。

特に功績として挙げられるのは、スクルージおじさんの存在です。

カートゥーン「ダック・テールズ」などで知られる人気キャラクターのスクルージですが、実は彼こちらのコミックから映像へ逆輸入されたキャラクター。
ディズニーが好きな人は是非。

ELEKTRA LIVES AGAIN

by Frank Miller, Lynn Varley, et al., Marvel Comics

上で既に挙げた DARK KNIGHT RETURNS もそうですが、こういう名作セレクトをするとフランク・ミラーの作品ってどうしても多くなってしまいがち。
本作も RONIN とどっちをこのリストに載せるか迷った末の選出です。

ブルズアイの手によりかつての恋人エレクトラを失ったマット・マードック。
彼女の復活を予感した彼が今度こそその命を救おうと奔走する。
切なく残酷なストーリーが堪らない、喪失と贖罪の物語です。

ストーリーも秀逸ですが、何より本作で注目すべきはアート。
コマの大きさを大胆に拡縮する手法や、大ゴマで浮世絵のような描写する戦闘シーン。
ミラーらしさを感じさせる演出が見受けられる一方、他作ではあまり見ることのない細かい作画を見ることもできます。
アーティストとしてのミラーの本気を堪能したい方には特にオススメ。

クライマックス、終わりから6ページ目のアートは来るものがあります。

ENIGMA

by Peter Milligan, Duncan Fegredo, et al., Vertigo/DC Comics, Dark Horse Comics

このブログでも常日頃からパンクな作風で”当たり”と”大当たり”しか生み出さないとべた褒めし続けている稀代のストーリーテラー、ピーター・ミリガンの代表作の1つ。

自分が幼い頃に読んでいたスーパーヒーローコミックのキャラクターが現実で騒動を巻き起こしていると知った青年が真実を追い求めるうち、逆に自らの内面に肉薄していきます。

スーパーヒーローの“アイデンティティ=自己同一性”という要素に絡めて、「自らの再発見」をテーマにした作品です。
トリッキーなストーリーに振り回されながら、最後にはストンと落としてくる手腕は流石のひとこと。

絵柄がかなりラフなのでぱっと見わかりにくいですが、アーティストはヘルボーイでも有名なダンカン・フェグレードで、本作は変幻自在な絵柄を持つ彼の代表作としても知られています。

正直1度読んだだけではわからない、でも2度目3度目と読むに十分な引力を備えた摩訶不思議作品です。

FABLES

by Bill Willingham, Mark Buckingham, et al., Vertigo/DC Comics

DCはVERTIGOレーベル後期の代表作ともいうべき作品。

”帝国”からの弾圧を逃れて我々の世界へ移住してきたおとぎの国の元住人達。
ニューヨークの一角にフェーブル・タウンという町を築いた彼らが繰り広げる現代ファンタジー。
現代社会に溶け込むオオカミや白雪姫をはじめとして、知名度問わず様々なキャラクターが活躍する群像劇です。

グリム童話などはもちろんのこと、千夜一夜物語や東欧系の童話など世界中の民話童話にインスパイアされたあらすじやキャラクターが数多く登場。
原典では全然関係ないキャラクター同士が実は家族だったという設定なども面白い試み。
手に汗握る緊張感ある展開とユーモアに満ちた展開のバランスが非常によくどんどん読み進められます。

ビル・ウィリンガムのストーリー、マーク・バッキンガムの作画、そしてジェームズ・ジーンのカバーアート。
どれも高く評価されました。

次に読む作品に迷ったらとりあえず手に取ってほしいシリーズです。

FANGS

by Sarah Andersen, Andrews McMeel Publishing

吸血鬼と狼男の恋愛模様を描いた作品。
各ページ1エピソード形式で別種族同士な2人の日常を時にしっとり時にコミカルに描きます。

吸血鬼のエルシーがとにかく可愛い。
吸血鬼のエルシーがとにかく可愛い。
重要なことなので2回言いました。

シンプルで愛嬌のあるエルシージミーのやり取りの中にふとほの暗さが挿し込むギャップがとても好きです。
…というかこれジミー、お前狼というより犬だな?

なんにせよ英語も簡単だし、絵柄も日本の漫画っぽいところがあるので普段アメコミ読まない人にもおすすめ。

なんにせよエルシーが可愛い。

FEAR AGENT

by Rick Remender, Tony Moore, et al., Dark Horse Books/Image Comics

サム・ウィルソン版キャプテン・アメリカを世に送り出したことでも知られるライター、リック・リメンダーの初期代表作の1つ。

とある事情から宇宙の辺境を自堕落に彷徨っていたテキサス男児が、ひょんなことから全宇宙ひいては時空を巡る陰謀に巻き込まれていきます。

カウボーイ気質の野郎がレトロ SF な宇宙服を着込んで、トカゲっぽかったり脳みそっぽかったりする宇宙人とレーザーを撃ち合うわけですよ。
しかもそれを THE WALKING DEAD の初期アートを手掛けたトニー・ムーアがやるわけです。
そう、あの拳銃持ったキャラ描かせたら業界五本の指に入るトニー・ムーアさんです。

名作にならないわけないじゃないですか…。

リメンダーは基本的に溜めが長いライターで、最初は”普通に面白い”レベルで話を膨らませ(いや、それができるだけでも十分すごいんですが)、ある時突然ドンッと急上昇します。
本作も過去編に入ってくるあたりで面白さが飛躍的に上昇。

読んだ後、激しいロスに苛まれること必至の超エンターテイメントです。

FOURTH WORLD SAGA

by Jack Kirby, et al., DC Comics

ファンタスティック・フォーをはじめ、ハルクもキャップもこの人が生みの親。
ジャック・”ザ・キング”・カービィ御大。
マーベルは勿論のこと、シルバーエイジ以降のスーパーヒーロー業界の土台を作ったこの方が、色々あった後にマーベル(というかスタン・リー)と袂を分かって、ライバル社の DC へ移籍。

そこで4誌(+完結編)にまたがって描いた世界観がいわゆる「フォース・ワールド・サーガ」です。

長きに渡り争いを続ける2つの惑星、ニュージェネシスアポカリプスの神々が「非生命方程式」を巡って地球を舞台に戦いを繰り広げます。

時としてリアリティをかなぐり捨ててでも迫力を最優先するアートと大風呂敷のストーリーは、これぞまさにカービィ神話!
ポップカルチャーと神話が絶妙に溶け合い、新鮮さと荘厳さを兼ね備えた世界観が成立。
コミック界のキングの手腕にただただ脱帽です。

マーベルで銀色全裸のサーファーを生み出した王は、本作で宇宙をゲレンデとする鉄兜スキーヤーを生み出しました。

ちなみにニューゴッズの“ニュー”とはマーベルのアズガルドの神々の次に来た存在であることに由来しているという裏設定みたいなものがあったり。

FRITZ THE CAT

by Robert Crumb, Fantagraphics Books

1970年代にコミックスコードオーソリティの陰で栄えたアンダーグラウンド系コミック、いわゆるコミックス( COMIX )
その大きな貢献者として知られるカートゥニスト、ロバート・クラムの代表作の1つ。
ラルフ・バクシ監督によるカートゥーン映画も有名です。

猫のフリッツをはじめとした擬人化動物が登場。
人種や性、薬物といった内容をユーモアを交えて扱い、70年代の青年文化を生々しく体現します。

主流派から距離を置いた本作だから突っ込める鋭い皮肉が読んでいて清々しい。
時代性を感じるジョークが逆に今読むと新鮮で思った以上に笑いました。

一見すると手抜き感のあるアートですが、あの緩い筆致で何が起こっているのか瞬時に読み取れるような描写力はむしろすごくね?という、逆説的にクラムの実力を垣間見ることのできる作品です。

FUN HOME

by Alison Bechdel, Mariner Books

アリソン・ベシュデルが亡くなった父親との近くて遠い親子関係を淡々とした筆致で描いた自伝作品。

同性愛者である彼女と、同じく同性愛者であることがその死の少し前に明かされた父親と。
なんとも言えない様子が素朴な言葉とイラストで描かれます。

こうしたアイデンティティに関する作品は特に最近だと珍しくなくなってきましたが、本作は性自認に至るまでの過程であるとか、それと関係あるのかないのか怪しい諸々の行動とか、表現するのがかなり難しいことにまでかなり突っ込んでいます。
下手にドラマチックに描かないことが逆に2人のリアルでアンニュイな関係を空気感として醸し出しており、ページをめくるごとに味わい深さが増してきます。

これ、ミュージカル化されたっていうんだけれどどうやったんでしょうね…?

GHOST WORLD

by Daniel Clowes, Fantagraphics Books

イニッドレベッカという2人の少女の漫然とした(?)日々を描いたダニエル・クロウズの代表作。

小さな町に住む2人の井戸端会議的なやりとりからストーリーが発展。
時に興味津々だったり時に皮肉屋だったりと、子供以上大人未満な精神性がなんだか面白い。

ジャンル的には“日常系“なんでしょうがきらきらした感じはないですね。
イキった感じはあります。
青春の汗〜みたいのもないかな。
汗臭さならあるかも。
でもそれが良い。
他人の黒歴史を覗いているような気分になれてほくそ笑むことができます。
なんだかよくわからないテンションで読み進め、なんだかよくわからないけれど読んで良かったと思わせる作品。

…わかりにくいかもしれませんが、ここまで全部褒め言葉です。

GIANT DAYS

by John Allison, Lissa Treiman, et al., Boom! Studios

3人の大学生の日常を描いたコメディ作品。
皮肉屋のスーザン、やや純粋すぎるデイジー、そしてトラブルクイーンのエスターらが、学業やら人間関係やらに大忙しの毎日をご提供。

こちらも日本の漫画でいういわゆる“日常系”作品。
上の GHOST WORLD よりかはよっぽどキラキラしてます(繰り返しますが褒め言葉です)が、どちらかというとコメディ色強めです。

アメコミ、特にストリップとかでない連載ものでこのジャンルはかなり珍しい部類でしたが、見事読者に受け入れられ、新たなジャンルの開拓に大きく寄与しました。

初期の連載でアートを担当していたリサ・トレイマンはディズニーのアニメーターとして活動した経験もあり、親しみやすいデザインとダイナミックな描写が楽しい作品となっています。

GRENDEL

by Matt Wagner, et al., Dark Horse Books

ネオノワールの名手として知られるマット・ワグナー
VERTIGO の裏サンドマンこと SANDMAN MYSTERY THEATRE をはじめとして、数多くの秀作を手がけている人物です。

そんな彼の代表作でもある本シリーズは時代と共に幾度も現れる怪人グレンデルの暗躍を描きます。
初代を描いた HUNTER ROSE 編では街の闇社会を牛耳る謎の怪人グレンデルの権謀術数、その宿敵である獣人アージェントの壮絶な戦い、そして2人の間に板挟みとなる少女ステイシーを含んだ奇妙な三角関係。

ヨーロッパ系ノワールサスペンスの材料をぎゅぎゅっと詰め込みつつ、白黒赤の3色のみで描かれた本作はワグナーにしか描けないリッチな世界観を魅せてくれます。
また同編では最初にざっと終わりまでの流れを概要的に描き、その後様々なアーティストと共に手がける掌編エピソードで間を埋めていくという斬新な構成でも知られています。

初期シリーズの後も様々な形で新たにグレンデルの名を継いだ者達の姿を描く形で連載は続き、今では近未来 SF の新作にまで至っています。

HARK THE VAGRANT

by Kate Beaton, Drawn and Quarterly

ケイト・ビートンがウェブで連載していたコミック・ストリップ(現在は完結し、書籍化もしています)。

歴史や文学を題材にしたユーモアが展開され、ナポレオンだのジェーン・オーステン小説のキャラクターだのが珍妙なやりとりを繰り広げます。
ラフなアートや文字量の多さに最初はやや面食らうこともあるかもしれませんが、その分読み応えも大。

原典である歴史や小説を知っていればいるほど楽しい作品です。

HARVEY KURTZMAN’S JUNGLE BOOK

by Harvey Kurtzman, Dark Horse Comics

業界を代表するユーモア誌 MAD を立ち上げたことやその名を関した”ハーヴェイ賞”などで知られるクリエイター、ハーヴェイ・カーツマン

本作は彼が EC コミックス倒産後、世に送り出した4つの短編からなる作品集です。
西部劇やクライムフィクションを起点にしつつ、カーツマンならではの皮肉と風刺を多分に盛り込んでいます。

ストーリー、アート共にかなり実験的な手法がとられており(というか罫線とか見えるしノートに描いている?)、どれもなかなか歯ごたえのある作品。

グラフィック・ノベルの先駆的作品ともいわれており、商業的には失敗だったものの刊行当時からファンの間でカルト的人気を誇ってきました。

HAWKEYE

by Matt Fraction, David Aja, et al., Marvel Comics

ホークアイ(ホークガイ?)ことクリント・バートンの人気を爆上げした名連載。

ニューヨークの下町に引っ越してきたクリントが近所を牛耳るギャングらを相手に奮闘。

マット・フラクションの淡々とした語り口と小気味よいテンポが、デヴィッド・アジャらアート陣のさっくりした画風とマッチしています。

それまでヤングアベンジャーズの一員という扱いだった二代目ホークアイことケイト・ビショップをクリントのパートナーとして、また1人のヴィジランテとして大きくクローズアップした作品としての顔もあり。

アート、ストーリー共に最高のカッコよさと最高の面白さを兼ね備えています。

クリントに命を救われ飼われることとなった犬”ピザドッグ”ことラッキーの活躍をラッキー自身の視点から描いた #11 “PIZZA IS MY BUSINESS”は特に秀逸なエピソードとして高く評価されました。

HEAD LOPPER

by Andrew Maclean, Mike Spicer, et al., Image Comics

タイトルと中身のギャップゼロ!
青い魔女の首を携えたムキムキおじさんがひたすら巨大な怪物の首を刎ねていく作品です。

まあ実際の中身はもっと権謀術数的な内容もちらちら盛り込まれてるんですが、はっきり言ってそれらはほぼ背景です。

本作で重要なのはただ「おっさんが怪物の首を刎ねる」というただこの1点のみ。
このためだけにできた作品です。

デフォルメの効いた絵柄で繰り出されるアクションは何のためか。
おっさんが首を刎ねるためです。

幽霊とか邪悪な魔術師とか王族とかが登場するのは何のためか。
おっさんが首を刎ねるためです。

息もつかせぬスピード感とスケール感、そして随所に盛り込まれるユーモア要素は何のためか。
おっさんが首を刎ねるためです。

おっさんがあっちの首を刎ねるシーンからこっちの首を刎ねるシーンを埋めるためにストーリーが存在するのがこの作品。
是非、おっさんが首を刎ねる様子をその目で確かめてみてください。

HELLBOY

by Mike Mignola, Dave Stewart, et al., Dark Horse Books

日本でも知っている方は多いと思います、マイク・ミニョーラの代表作。
地獄から召喚されオカルト研究対策機関B.P.R.D.のエージェントとなったヘルボーイが様々な怪事件に立ち向かううち、自らの出自や世界の運命を巡る陰謀に肉薄していきます。

アクション満載の活劇もあれば、おとぎ話を読んでいるような不思議な譚も。
ストーリーもさることながら、ミニョーラをはじめとしたアーティスト達によって描かれるアートも必見。
色んな画風の方がゲストアーティストとして参加していますが、不思議と世界観が統一できています。

個人的には故リチャード・コーベンがアートを担当した THE CROOKED MAN とか好きです。

途中から枝分かれするスピンオフシリーズ B.P.R.D. にて最終的に完結するのでこちらも併せて読みたいところ。

HENCHGIRL

by Kristen Gudsnuk, Dark Horse Books

悪の手先(英語で言うところの”ヘンチマン”)として活動する少女の活躍を描いた作品。

元は著者がウェブで連載していたのを単行本化。
親しみやすい絵柄はいかにも子供向けを思わせますが、ほのぼの系と思ったなら大間違い。
中身は結構思春期系のどろどろした展開や不意にシリアスな内容も。

とはいえ主人公は常に希望に満ちており、誤りを犯しつつもなんとかそれを正そうとする姿は(喩えそれが逆の結果に終わったとしても)思わず応援せずにはいられません。

軽いノリの中、不意に混じる毒が心地良い一冊です。

INFINITY GAUNTLET

by Jim Starlin, George Pérez, Ron Lim, et al., Marvel Comics

CRISIS ON INFINITE EARTHS が DC 最大のクロスオーバーだとすればマーベル最大のクロスオーバーはこちらかと(異論は認める)。

インフィニティ・ガントレットを完成させて全宇宙の生命の半分を消滅させたサノスに対抗すべく、シルバーサーファーアダム・ウォーロックに率いられたマーベルのスーパーヒーロー達が一同に集結。

MCU 映画の原案となったことでも知られる作品ですが、作風はかなり違います。
無限の力を手に入れたサノスの物語でもある本作は、スーパーヒーローを使って神話を描こうとしたジム・スターリンの手腕が遺憾なく発揮。

それを描き出したジョージ・ペレスとロン・リムの鮮やかでダイナミックなアートも必見です。

全編に渡って迫力と神々しさとがみなぎっています。

INVISIBLES

by Grant Morrison, Steve Yeowell, et al., Vertigo/DC Comics

業界を代表するクリエイターであると同時、オカルティストとしても知られるグラント・モリスンがコミックという媒体を使った”魔術儀式=ハイパーシジル”として生み出した代表作。

世界を恐怖と力で統制しようとする勢力に対抗し、混沌と自由をもたらそうとする集団インビジブルズ
本作はそんなインビジブルの実働部隊の1つで、キングモブという男に率いられるチームの活躍を描いた作品です。

SF、オカルト、ポップカルチャーと様々な分野からの知識をふんだんに盛り込み、ジャンルの垣根を超えたケイオティックな作風。
アクションエンターテイメントであると同時にモリスンの思想書でもある本作は、正直哲学的な内容も多く読み始めこそとっつきにくさがあるものの、その分読む度に新たな発見があります。

過激さと深遠さを併せ持つアメコミでも有数の奇書。

JOHN CONSTANTINE: HELLBLAZER

by Jamie Delano, John Ridgway, et al., Vertigo/DC Comics

DC VERTIGO の歴史と常に隣り合わせで歩み続けたシリーズ。
様々なオカルト事件に巻き込まれる魔術師ジョン・コンスタンティンの活躍を描きます。

名前は知っているものの読んだことはないという人も案外多いのではないでしょうか。
下手に DC ユニバースの一端として読んでしまうと他作と比べてやや地味な作風であることは否めないものの、いっそ独立した作品として読むと(というか実際かなり独立していて DC 要素は時折スワンプシングが登場するくらいです)コンスタンティンが悪魔や他の魔術師の張り巡らす権謀術数を持ち前の機転や胆力でくぐりぬける姿はひたすら面白いです。

長いシリーズですが比較的担当ライターごとに仕切り直されているので気になるクリエイターの作品のみピックアップするというのもありかと。
もっぱら取り沙汰されるのはキアヌ・リーブス主演の実写版映画の原案でもあるガース・エニスの連載ですが、個人的には重厚感のあるジェイミー・デラーノによる序盤の連載や、いい感じにタガの外れた終盤のミリガンの連載もおすすめです。

様々なクリエイターが担当しているものの、安定して高いクオリティを最後まで保ち続けました。

KABUKI

by David Mack, et al., Dark Horse Comics

独特のアートセンスで知られるデヴィッド・マックの出世作にして代表作。

“ノウ(能?)”と呼ばれる秘密政府が統治する近未来の日本を舞台にその治安維持などの任務に努めるエージェント、“カブキ”というコードネームで知られる女性の姿を描きます。

マックが大学生の頃に始め、当初は別にアーティストを雇うつもりだったものの結局自ら手がけることになったという本作。
序盤は比較的特徴のなかった絵柄が少しずつ陰影に工夫が施されたり、コラージュをはじめとした技巧を凝らしていったり。
読み進めるうち徐々に現在のマックらしいスタイルを確立していく変遷を眺められるのはファンにとって垂涎もの。

アクションから心のドラマへと物語の軸が移るにつれて、描写が大きく変わってきます。

日本の文化とサイバーパンクが見事に融合した世界観とストーリーが最高に刺激的です。

KILL YOUR BOYFRIEND

by Grant Morrison, Phillip Bond, et al., Vertigo/DC Comics

グラント・モリスンに青春ストーリーをやらせるとこうなる。
平凡な日常に退屈する少女が偶然出会った青年に唆されて逃避行を繰り広げるロードムービー。

モリスンのポップで自由奔放な作風と、やや演技めいた動作で読者を翻弄するフィリップ・ボンドの作風が絶妙にマッチ。
上で紹介した自作 INVISIBLES のパロディみたいなキャラクターも登場し、軽く自己批判してたりもします。

短いながらも過激でポップで心に刺さる。
そんな逸品です。

KINGDOM COME

by Mark Waid, Alex Ross, et al., DC Comics

日本国内でも有名なので読んだことはなくとも、名前くらいは聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。

アレックス・ロスマーク・ウェイドが手掛けた本作ではスーパーヒーローの活動が過激さを増し、社会に脅威を与えるようになってしまった近未来を舞台に、とある事件がきっかけで一線を退いていたスーパーマンが再びジャスティス・リーグを率いて世界に姿を現します。

様々な形の正義のぶつかり合いと、その果てにある絶望と希望。
迫力に満ちたロスのアートと、エンタメ性とメッセージ性を両立したウェイドのストーリーが作品全体を壮大に仕上げています。

ストーリー自体も秀逸ですが、全ページに散りばめられたおびただしい数のイースターエッグを探すだけでも楽しいスルメ作品としても知られます。

KINGS IN DISGUISE

by James Vance & Dan E. Burr, WW Norton & Co

大恐慌時代の米国を舞台に、貧困から単身世間の荒波に放り込まれた1人の少年が途中で出会った中年男と共にカリフォルニアから”父親のいる”デトロイトを目指すロードムービー。

人間味溢れるキャラクターに、大恐慌の余波やアンチ共産主義が蔓延し緊張感を醸しつつどこかゆったりとした世界観。
リアリズムとデフォルメのバランスが非常に良い絵柄で描かれ、黄金時代のハリウッド映画を観ているような印象の作品です。

文字は比較的多いものの、テンポのよい言葉遣いや人間味溢れる台詞回しによりすいすい読んでいくことができます。

LIBERTY MEADOWS

by Frank Cho, Image Comics

動物向けの保養地「リバティ・メドウズ」を舞台に、愉快な動物達と彼らに振り回される人間のラブコメ模様を描いたコミック・ストリップ作品。

パワフルで美しい女性と猿を描かせたら右に出るものなしと謳われるフランク・チョーが大学新聞で連載していた作品がベースになっています。

スターウォーズをはじめとしたオタク文化を頻繁に取り扱ったり、積極的に他作品をパロディしたりと結構やりたい放題(チョーのイラストとかを見たことがある人はあのノリそのままだと思って頂ければ)。
とにかく楽しい作品で全編笑いっぱなしです。

惜しむらくはすごく中途半端なところで単行本化が止まっているということか…。

LITTLE NEMO

by Windsor McCay

アメコミ界の始祖鳥。

就寝少年ニモ君が夢の中で誘われるファンタスティックな世界を鮮やかに描いた作品。

作画、色使い、話の運び、演出手法とどれをとっても最高級の作品でウィンザー・マッケイの想像力と描写力にただただ脱帽するばかり。
奇妙できらびやかな夢の世界を描いた各ページはひたすら豪華で、コミックとしても一枚絵としても見ることができます。

マッケイはアニメーションの黎明期に多大な貢献をした人物としても知られており、本作も何度か彼自身の手で映像化されている他、1989年には日米合作という形で劇場アニメ作品が制作されています。

実は元々 DREAM OF RAREBIT FIEND (モノクロですがこちらも秀逸な作品)という作品に起源を辿ることができるスピンオフ的作品。

永遠に人々を魅了し続ける名作です。

LOVE AND ROCKETS

by Gilbert, Jaime, and Mario Hernandez, et al., Fantagraphics books

有名な割に説明するのがものすごく難しい作品。

ギルバートハイメマリオヘルナンデス3兄弟が手がける SF ? ファンタジー?作品。

“魔術的リアリズム”などと紹介されたりもしますが、難しく考えず、基本的にある程度共有した世界観を描きつつ、やりたい内容をやりたいようにやっているという認識で良いと思います。

代表的なのは中南米の村を舞台にそこの住人達の日々や時たまおこるイベントを描いたパロマー編、そして近未来?のカリフォルニアを舞台にメカニックなどを務めるマギーと彼女の親友であるホーピィをはじめとしたキャラクターのやりとりを描くホッパーズ13編

中南米文学のような不思議がまかり通る世界観や、パンクなどエネルギッシュな若者文化を反映したキャラクター、そして小気味よいユーモアが絶妙にマッチ。
気がつくとのめり込んでしまっている作品です。

MARVELS

by Kurt Busiek, Alex Ross, et al., Marvel Comics

マーベル・ユニバースの見え方をガラリと変えた1作。

1人のカメラマンの視点からヒューマン・トーチの出現に始まりグウェン・ステイシーの死までを俯瞰的に描いていく作品です。

やもすると安っぽいメロドラマみたいになることもあったマーベル作品を極めて客観的中立的な視点から捉え直し、「マーベルズ=超人達」と一般人との関係性を再定義しました。

アレックス・ロスのアートはその写実性ばかりが注目されがちですが、彼の本当のすごさはその構図。
主人公のカメラマン、フィル・シェルドンから見えるキャプテン・アメリカやスパイダーマンといった存在を的確に捉えています

あとアートが同じロスが手掛ける KINDOME COME 同様、こちらもイースターエッグの多いスルメ性を発揮。
ゴールデンエイジからブロンズエイジあたりまでの歴史の縮図でもあるため、マーベルの全体像をざっと掴みたいという方にもおすすめです。

MAUS

by Art Spiegelman, Pantheon Books

名作といえばほぼ必ず名前が挙がる、ピューリッツァー賞受賞作品。
日本でもそこそこ大きな図書館であれば大概邦訳版が置いてある3冊のうちの1冊。

ハンガリー出身である作者の父親が体験したホロコーストの記憶を、著者がインタビューする形でストーリーが進行。
主人公である作者の父親をはじめとしたユダヤ人はネズミ、ナチスは猫などと擬人化動物として描かれており、誇張による生々しさが際立ちます。

昨今差別に関する話題が多い中、今だからこそ改めて読んでおきたい作品です。

THE MAXX

by Sam Kieth, et al., Image Comics/IDW Publishing

エッジの効いた画風で現在も高い人気を誇るアーティスト、サム・キースのオリジナル作品。

精神的に不安定なずんぐりむっくりのヴィジランテ、マックス
そして彼のケアワーカーでもある友人のジュリー
2人が徐々にこの世界とは異なるもう1つの世界アウトバックの真実に肉薄していきます。

心理をテーマにした作品を好むキースの本領発揮といいますか。
過激な描写やひねくれたキャラとかはいかにも90年代を感じさせる作風である一方、一皮むけば幻想的な演出と、精神をディープに掘り下げるストーリー。
不思議な興奮を読む者に与えます。

MIND MGMT

by Matt Kindt, et al., Dark Horse Comics

独創的な発想で良質な作品を数多く手がけるマット・キントが送る異能力サスペンス。

旅客機の乗客乗員全員が記憶喪失に陥るという前代未聞の事件から数年。
落ち目のノンフィクション作家が事件の真相を追ううち、超能力で歴史を影から操る極秘組織を巡る陰謀に巻き込まれていくという内容です。

素朴ながら深みのあるデザインと、水彩画のような淡い色遣い、そして枠外や装丁にも工夫を凝らす演出などで知られるキント。
ライターとしても一風変わったサスペンスを得意とし、本作はその中でも特にミステリアスな世界観と息もつかせぬサスペンスが堪らなく唆られる1冊となっています。

MONSTERS

by Barry Windsor-Smith, Fantagraphics Books

個人的には現段階における2021年のベスト。
マーベルでウルヴァリンが改造洗脳される様子を描いた WEAPON X などの作品を手がけ一世を風靡したバリー・ウィンザー・スミスが35年近い時をかけて描いた作品。

米軍の実験に巻き込まれ異形に生まれ変わってしまった青年と、彼を中心とする周囲の数奇な運命を描きます。

当初、ハルクの物語として着想された内容が起源となっており、科学の濫用、巻き込まれる若者、家庭の闇といった(ある意味マーベルでお馴染みの)要素が複雑に絡みつつ、パズルのようにぴたりぴたりとはまっていく様は見事。

全編モノクロで描かれた本作では、グロテスクさと力強さが冴え渡るスミスのアートにとにかく圧倒されます。
これは白黒ならではの迫力です。

マーベルでは描くことのできない、キャプテン・アメリカやハルクのもう1つの姿がここにある。

MS. MARVEL

by G. Willow Wilson, Adrian Alphona, et al., Marvel Comics

2010年代を代表するスーパーヒーローといえばこの人ですね。

インヒューマンとして覚醒して体の一部を巨大化させるなどの特殊能力に目覚めた少女カマラ・カーンが新ミズ・マーベルとして活躍、ジャージー・シティの平和を守るため奮闘します。

マーベル初のムスリム系ヒーローであることが強調されがちですが、そういうの抜きにしても現代的な新鮮さとテンポが良く希望に満ちた作風がひたすら楽しい。

RUNAWAYS で知られるエイドリアン・アルフォーナの絵柄も親しみやすさと自由さが両立した絵柄で先進性があり、アート面でも新たな可能性を感じられます。

日常とヒーロー業との間でバランスを取るカマラの姿は初期のピーター・パーカーを思わせるようなところがあり、その人気ぶりも頷けます。

MULTIPLE WARHEADS

by Brandon Graham, Image Comics

自由な作風の SF 作品で知られるブランドン・グレアムの代表作。

臓器の運び屋をする女の子と、彼女の恋人で狼のペニスを縫い付けられ狼男となってしまったメカニックの青年。
ひょんなことから旅立つことになった2人の姿を描きます。

グレアムは日本をはじめとした各国の漫画やコミックから影響を受けつつ、それを独自に進化させているのが特徴。
シャレをふんだんに取り入れるなど工夫に満ちた世界観とか、柔らかいタッチで想像力満載で描かれる画風とか、とにかく病みつきになる面白さがあり、1ページを舐めるように読みたい作品です。

MY FAVORITE THING IS MONSTERS

by Emil Ferris, Fantagraphics Books

刊行間も無く各方面から激賞を浴びた話題作。
1960年代のシカゴを舞台に、とあるアパートの一室で殺害された女性の謎に迫る怪物大好き少女の姿が描かれます。

著者のエミール・フェリスは40歳の時に感染症により半身不随となり、その後一念発起し6年近くかけて作り出したのが本作です。

主人公である少女の一人称視点で描かれ、ノートにボールペンで描いたようなページ。
誇張が少し盛られたリアルな人物や怪物の描写は画力の高さを窺わせつつ、独特の空気感を醸し出し、読むこちらをぐいぐい引き込んできます。

NEW FRONTIER

by Darwyn Cooke, Dave Stewart, et al., DC Comics

2016年に急逝した故ダーウィン・クックが DC シルバーエイジの黎明期を描き直した不朽の名作。

冷戦による国家間の緊張が高まり、否応なしに翻弄されるスーパーヒーロー達。
そんな中、かつてない規模の脅威に晒された彼らが立場を超えて1つにまとまる姿を描いた名作。

シルバーエイジを意識したカラフルなイラスト。
映画を意識したような幅広のコマに、大胆なアップを多様した迫力ある演出。
こうした要素が見事に融合し、全く新しい表現が全ページに炸裂しています。

ストーリーも冷戦の影響で国全体が緊張状態にあった50年代の米国をしっかり反映させつつ、迷いながら光の差す方向を目指すヒーロー達の希望に満ちた姿を描き、ゴールデンエイジからシルバーエイジへの過渡期を見事に描き切りました。
どんな時代でも前へ進み続ける大切さを教えてくれる名作です。

NICK FURY vs. S.H.I.E.L.D.

by Bob Harras, Paul Neary, et al., Marvel Comics

映画「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」の裏原作として知られる作品。

何者かの陰謀により S.H.I.E.L.D. の長官としての任を解かれたニック・フューリーがかつての部下や友人からの追跡を交わしながら真実に肉薄していくという内容です。

ボブ・ハラスポール・ミーニーによって描かれる本作は知名度こそやや控えめ目ですが、知る人ぞ知る名作としてファンの間では知られています。

張り巡らされた罠や仲間の裏切りに遭いながらも軍隊譲りの胆力と元長官らしい明晰な頭脳による判断で敵の追跡をかわしていく姿は読んでいて惚れます。
本作では普段サポートキャラとしての印象が強くなりがちなフューリーの本領発揮といいますか、「こんなフューリーが見たかった」という姿をドンピシャで見せつけてくれる作品です。

NIMONA

by Noelle Stevenson, Harper Collins

人気作品 LUMBER JANES で知られるノエル・スティーブンソンがウェブで公開していたものをまとめたファンタジー作品。
元々は大学の卒業制作も兼ねていたとか。

剣と魔法系ファンタジーの世界観を現代風にした世界を舞台に、悪事を働くブラックハート卿のもとに突如出現した少女ニモーナ
変幻自在の能力を有する彼女に隠された秘密とは…?

テンポの良いストーリーと、平面的で親しみやすくもスティーブンソンの絵柄。
ですが、子供向けだと油断しているとシリアス展開に度肝を抜かれます。

ノージャンルな魅力がいかにもウェブコミックらしさを感じさせ、もっとこんな作品を読んでみたいと渇望させる底無しの魅力があります。

ON A SUNBEAM

by Tillie Walden, Avery Hill Publishing/First Second Books

柔らかなタッチの絵柄とシンプルで詩的なストーリーテリングが魅力なティリー・ウォールデンが送る SF ロマンス。

星々を巡り建造物を修復する仕事を請け負う船に新しく乗り込んだ少女ミアの姿を描きます。

元々はウェブコミックとして発表された作品を書籍化したもので、荒れ果てた建造物、魚型の宇宙船、淡く彩られた宇宙…と、細部までウォールデンのこだわりが垣間見え、ウォールデンの豊かな想像力がページいっぱいに広がっている作品です。

100 BULLETS

by Brian Azzarello, Eduardo Risso, et al., Vertigo/DC Comics

ブライアン・アザレロエデュアルド・リッソによるネオノワールの傑作。

謎の男グレーブスから渡されるアタッシュケース。
その中に入っているのは自分を不幸にした人物に関する情報を記した書類と一丁の拳銃、そしてどのように使おうと罪に問われぬ100発の銃弾。
群像劇のように話を進めつつ、徐々にグレーブスの大掛かりな仕掛けが明らかになる作品。

アザレロによる一切容赦のないストーリーと、リッソの灼けるような空気感のアートが最高にマッチ。
無慈悲で残酷で、しかしどこか惹かれる男女が次々と登場。
スラングやアクセントを巧みに操る台詞回し、陰影を効果的に使った演出。
どちらも痺れます。

PALESTINE

by Joe Sacco, Jonathan Cape

当時第1時インティファーダの最中にあったウェストバンク(ヨルダン川西岸)とガザ地区を訪れたジョー・サッコがそこでの体験を描いたジャーナリズム・コミックの傑作。
ルポルタージュの形をとった本作は混沌とする現地で暮らす人々との交流を描きます。

コミックならではの演出、誇張の強い画風、迫力のあるカメラワークに力強く連ねられる言葉。
単なる事実の羅列に終始することなく、自分でしっかり消化=昇華した上で描かれる現地や人々の姿は時に親しみ深く、時に迫力を伴って描かれます。

コミックという媒体で行われるジャーナリズムの可能性を大きく切り拓きました。

PAPER GIRLS

by Brian K. Vaughan, Cliff Chiang, et al., Image Comics

ブライアン・K・ヴォーンクリフ・チャンらと送るタイム・トラベルサスペンス。
早朝の新聞配達中に奇妙な連中と遭遇したことで1980年から時空を巡る抗争に巻き込まれた4人の少女の姿を描きます。

先史時代からはるか未来まで派手に時間を移動し、あちこちに伏線を張り巡らせるストーリーであるにも関わらず複雑さを一切感じさせないどころか、むしろストレートな印象を受けるのは流石ヴォーン。
皮肉めいたことを言うかと思えば根拠のない前向きさを発揮したりする“若さ”を感じさせるキャラクターや、その場しのぎのシーンを挟むことなく伏線回収や派手な活劇で読者の興奮を冷ますことなく進行するひたすら上昇気流の展開も流石。

緊張感を絶やさないまま、しかしそこかしこに思春期らしい情動が挿し込まれた青春 SF としても秀逸な作品です。

PEANUTS

by Chales M. Shultz, Fantagraphic Books

日本3大「図書館とかで見つけやすいアメコミ」の1つ。
同時にアメコミ随一のタイトルを勘違いしている人が多いであろう作品。
「スヌーピー」はキャラ名で作品名じゃないですよ?

チャーリー・ブラウンをはじめとしたキャラクターの日常を描いたコミック・ストリップ。
さりげない一言に世の中の真理めいた格言が紛れ込んでいてはっとさせられることが多く、子供が楽しめることはもちろんですが、むしろ大人になってから読む方が刺さるエピソードも多いかもしれません。

学生時代に谷川俊太郎による邦訳版も読んだんですが、あちらも訳者との相性の良さからか読みやすいです。
二か国語版(?)みたいのも刊行されているので、初めて購入するアメコミとしてもおすすめ。

愛され系ビーグルとして扱われがちなスヌーピーですが、実際に作品を読んでみると結構生意気で印象変わるかもです。

PHONOGRAM

by Kieron Gillen, Jamie McKelvie, et al., Image Comics

多分後に同じキーロン・ギレンジェイミー・マッケルヴィーが手掛けた THE WICKED + THE DIVINE の方が純粋な完成度としては高いと思うんですが、荒削り的なところも含めて名作という意味では敢えてこちらを推したい。

音楽、特にブリットポップを用いて奇跡を起こす魔術師、フォノマンサー達の姿を描いた作品。

これまでシリーズは単行本で3冊刊行されていますが、どれもかなり毛色が違います。

神と人がダンスフロアで共存しており、音楽で結びつく中で様々な奇跡を引き起こす。
改めて考えると非常に原初的というか納得感のある関係性が、“ブリットポップ”を介することでこうも新鮮に見えるものかと驚かされます。

音のないコミックという媒体でオノマトペばかりに依存せず音楽を表現する手腕は見事。
コミックの新たな可能性を予感させてくれます。

なお本作に登場する楽曲は全て実在するので、読んだ後には音楽の方も併せて聴くとなおよし。

POGO

by Walt Kelly, Fantagraphics Books

何気に各方面へ多大な影響を与えているウォルト・ケリーによるコミック・ストリップ。

とある沼地を舞台にオポッサムのポゴを中心に、その家族や友人など様々な動物の日常を描いた作品。
環境問題を大きなテーマにしており、程よい皮肉とユーモアが全編通して冴え渡っています。

業界人にもファンが多く、 LIBERTY MEADOWS など本作の影響下にある作品も少なくありません。
アラン・ムーアのスワンプシングでも#32の POG というエピソードは本作にインスパイアされています。

作品のクオリティは文句なしですが、ただ台詞の南部訛りがきついのである程度英語慣れしている人向けかも(はっきり言って英語の勉強には不向き)。

PRETTY DEADLY

by Kelly Sue DeConnick, Emma Rios, Jordie Bellair, et al., Image Comics

ヒット作 CAPTAIN MARVEL などでもタッグを組んだケリー・スー・デコニックエマ・リオスが送る西部劇風ダークファンタジー。

紆余曲折を経て解き放たれた死神と人間との間に生まれた娘“デスフェイス・ジニー”と、ある目的から彼女に追われる盲目の男と少女の逃避行を描きます。
骸骨兎から蝶に向けて語られるスタイルで進行する本作はフォークロア的要素を盛り込んだアクションドラマ。

リオスの描く荒野の風景は時に自然が舞い語らう幻想的であり、また時には派手な戦闘が繰り広げられる舞台にもなります。
こういうの大好き。

謎に満ちた死神の娘ジニーをはじめとして強烈なキャラクターが数多く登場。
伏線の張り方も見事です。
ストーリーもアートも酔いしれてしまいそうなクオリティの1作。

PREACHER

by Garth Ennis, Steve Dillon, et al., Vertigo/DC Comics

ガース・エニス&スティーブ・ディロンによる名作中の傑作。
神と悪魔の子をその身に宿した男が元恋人や吸血鬼と共に、玉座を放り出して行方をくらませた神を探します。

同タッグが過去に担当した HELLBLAZER の連載に着想を得ているという本作。
頭のタガが外れた連中が次から次へと登場し娯楽性を確保しつつ、宗教や人の性といったテーマに鋭く切り込んでいきます。

故スティーブ・ディロンの素朴で力強い画で描かれる、過激ながらどこかユーモアを含むバイオレンスもひたすら楽しい。
人間の毒々しさにむしろ愛着さえ抱かせるストーリーテリングは見事という他ありません。
味わい深いロードムービーで、痛快な現代西部劇で、普遍的な人間讃歌。

惚れます。

ROYAL CITY

by Jeff Lemire, et al., Image Comics

ESSEX COUNTY で読者を驚かせたジェフ・レミーアが描く幻想的な人間ドラマ。
過去に三男を喪ったことに苛まれ各々問題を抱える家族が、父親の入院を機に再会し、少しずつ絆を取り戻していく物語です。

ラフで素朴な筆致と、現実との境界が曖昧な幻想的描写に定評があるレミーアは本作でもその才覚を遺憾なく発揮。
亡くなった三男の幻想をそれぞれの形で抱えたパイク家面々のエピソードが導かれるように収斂していく展開は流石という他ありません。

SWEET TOOTH などを経て熟練さを見せつつ、地に足のついたドラマは ESSEX COUNTY のような初期作を思わせ彼のファンにとっては古巣に帰ってきたような安心感があります。

SABRINA

by Nick Drnaso, Granta

コミックとしては初めてブッカー賞にノミネートされた人間ドラマ。

ある日突然失踪、その後殺害されてしまったサブリナ・ガロ
凶行になす術ないまま大切な人を奪われた恋人や妹が、その後メディアや陰謀論に晒され苦悩する姿を描きます。

物語は基本縦6×横4というコマ構成で進行。
犯罪そのものではなく、その報道や SNS による拡散にスポットライトを当てており、事件が陰謀論としての輪郭を形作っていく生々しい変遷を辿ります。

かなりシンプルなキャラ造形で特にドラマチックな演出のない淡白さは却って誰が何を考えているかわからない緊張感があり、読む側の心にグサグサ刺さってきます。
何かと陰謀論や過激な言説が飛び交いがちな今だからこそ、読みたい作品です。

SAGA OF THE SWAMP THING

by Alan Moore, Stephen Bissette, John Totleben, et al., Vertigo/DC Comics

アラン・ムーアが本格的に米国のコミック業界へやってくるきっかけとなった伝説的連載。

薬品と沼の力により全身植物の怪物“スワンプ・シング”となってしまったアレック・ホランド
しかし、彼は自分の中に隠されていた真実をまだ知らなかった。

一般的にクローズアップされがちなのはシリーズ全体のどんでん返しとなった2話目の#21ですが、この話はムーアがその後の話をやりやすくするための言ってみれば地ならしに過ぎず、本格的に面白くなっていくのはむしろその後です。
復活する宿敵アーケインとの死闘、 DC オカルト界隈全体を巻き込んだ決戦、そして恋人アビーを救うため世界さえ敵に回すアレック…と、見せ場が盛り沢山。
“植物”としてのスワンプ・シングの存在を大きく発展させ、併せてその精神性も丁寧に描いています。

また、スティーブ・ビセットリック・ヴィーチジョン・トートルベンなど豪華アーティスト陣に彩られる本作。
スワンプ・シングといえばバーニー・ライトソンという認識が一般的ですが、上記のアーティスト達も負けず劣らずの蠱惑的な画で読者を圧倒してきます。

SANDMAN

by Neil Gaiman, Sam Keith, et al., Vertigo/DC Comics

VERTIGO レーベルの立役者にして業界内外から今も絶賛される伝説的ダークファンタジー。

長らく囚われの身となっていた夢の権化ドリームことモーフィアス
解放された彼が夢の国の復興に取り組むところから物語は始まります。

ニール・ゲイマンの神がかったストーリーテリング。
サム・キースやジル・トンプソンをはじめとした描き手によるアートは時にポップ、時に過激、そして時に幻想的。
この場で語り尽くせいない魅力は、もうただ読んでくれとしか言いようがありません。

また、それまでコミック読者ではなかった女性読者を大きく取り込んだことや、ある程度話が進むと単行本形式で刊行するスタイルを広めたことなど、作品の中身以外でも業界に大きな影響を及ぼしています。

SCALPED

by Jason Aaron, R. M. Guéra, et al., Vertigo/DC Comics

DC VERTIGO 末期の名作。
数十年前に2人の FBI 捜査官が殺害された事件に関与したと思われるネイティブアメリカン人権団体に潜入捜査をするべく、サウスダコタにある故郷へ戻ってきた捜査官の姿を描くクライム・フィクション。

ネイティブアメリカンを題材として扱った本作はライターのジェイソン・アーロンが1975年に起こった実在の事件に着想を得たと言われており、組織犯罪や貧困が蔓延する保護区の姿をまざまざと描き、各方面から絶賛されました。
ドライな雰囲気と生々しい感情のぶつかり合い、そして荒々しい暴力描写からなるサスペンスがひたすら刺激的な作品です。

SCOTT PILGRIM

by Bryan Lee O’Malley, Oni Press

エドガー・ライト監督による映像化作品も有名な作品。
ラモーナ・フラワーズという女性と付き合うことになった青年スコット・ピルグリムが、試練として彼女の元カレ軍団と戦う羽目になるという内容。

日本の漫画からの影響が色濃く、抜群のノリと勢いが全ページに炸裂。
ただ軽いノリで読んでいると、スコットが二股かけた末に一方的な別れを告げられた少女がパンクヤンデレ化したり、結構イケメンな元カレを騙し打ちしてコインにしちまったり。
少年漫画のテンションで誤魔化してますが、人間関係はいかにもアメリカンなティーンドラマで何気にエグいです。

SCUD THE DISPOSABLE ASSASSIN

by Rob Schrab, et al., Image Comics

現在は主に映像方面で脚本家をしているロブ・シュラブが手掛けたカルトヒットシリーズ。
自販機で販売されている使い捨て暗殺ロボ SCUD シリーズの一体が任務を達成したら最後、自爆してしまう仕様であることに気づいたことに端を発し、それを防ごうと奮闘するはちゃめちゃアクションコメディ。

94年から98年にかけて連載した後、物語はクライマックスで一時中断。
08年にようやく完結編も含んだ単行本が刊行されました。

ページいっぱいに炸裂するアートや、突拍子もない方向へ飛躍していくストーリー展開はいかにもアメリカン・カートゥーンといった風。
かと思いきやほっこり感動のラストへ落としてきて不意に涙腺を突かれます。

現在人気放送中のカートゥーン『 RICK AND MORTY 』で知られるダン・ハーモンも一部ライティングを担当。
実は彼がライティングを担当した未完のスピンオフが存在します。

SECRET SIX

by Gail Simone, Dale Eaglesham, et al., DC Comics

ブロガー出身にして業界屈指のライター、ゲール・シモーヌの代表作の1つ。

DC マルチバースを危機に陥らせたインフィニット・クライシス事件の最中、”モッキングバード”を名乗る正体不明の雇用主に雇われた6人のヴィランからなるチーム、シークレット・シックス
ヴァンダル・サヴェッジの娘スキャンダルに率いられる彼らは、ヒーローからは勿論、ヴィランのコミュニティからも距離を置き、様々なミッションをこなしていきます。

ヴィランからなるチームという点やデッドショットが主要メンバーである点など、スーサイド・スクワッドとややネタが被るものの、作品としては負けず劣らずのクオリティ(クロスオーバーもした)。

B級どころか名前も知らなかったヴィランも数多く登場しますが、どれも良い感じに癖ありわけありな連中ばかり。
とりわけ以前はパクリ系弱小ヴィランに過ぎなかったキャットマンを本家ダークナイトとまともにやり合えるほどの手練れにして人気を押し上げた功績は大きいと思います。

連載終盤はやや当時の DC における NEW52 開始の混乱により駆け足っぽくなりますが、それでも読者の心に残るラストでした。
スーサイド・スクワッドが好きな人は本作も是非。

SHUTTER

by Joseph Keatinge, Leila Del Duca, et al., Image Comics

「おもちゃ箱をひっくり返したような」という言葉がぴったりなファンタジーアクション。
喋る動物やロボットなどが自由に闊歩するファンタスティックな世界を舞台に、かつて冒険カメラマンとして活躍していた女性が家族の騒動に巻き込まれ再び冒険に赴きます。

ライオンの暗殺者に幽霊忍者にロボット紳士に…と、とにかく世界観がリッチ。
レイラ・デル・デュカのアナログ的なタッチの絵もどこか懐かしくどこか新しさを感じさせます。

ストーリーもアップビートなノリとダークな緊張感のバランスが丁度良く、手に汗握ったりじんときたりとにかく感情が忙しい作品です。

SILVER SURFER: PARABLE

by Moebius, Stan Lee, et al., Marvel Comics

INCAL などで知られるフランス出身のクリエイター、メビウススタン・リーと共に手掛けた作品。

再び地球を訪れたギャラクタスを前にある者は逃げ惑い、ある者は大衆を扇動しようとする中、人々の中に紛れていたシルバーサーファーがかつての主人と対峙します。

副題の PARABLE とは「寓話」という意味ですが、なるほど現実の様々なシーンを風刺しているようなところもあり、読んだ後に考えさせられる作品です。

メビウスの描くサーファーやギャラクタスは見応え十分。
個人的にはバンドデシネを英訳した作品では味わえない、彼のレタリングによる英語の台詞が読めることが非常に嬉しいです。

マーベルユニバースとは独立した1つの SF 作品としても傑作だと思います。

SIN CITY

by Frank Miller, et al., Dark Horse Books

犯罪物のアメコミといえばこの作品をまず挙げる方が多いのではないでしょうか。
フランク・ミラー自身がロバート・ロドリゲスと共に監督を務めたことでも有名ですね。

ミラーがアメリカのコミックと日本の漫画をハイブリッドしようという試みで始めた本作。
『子連れ狼』など日本の劇画の影響もそこかしこに垣間見えます。

基本白黒のアートにぱっと挿し込まれる鮮やかな赤や黄色がポイント高いです。
ごりごりのクライムアクションですが、ところどころ笑ってしまうような演出や誇張が紛れ込んでいて、「あ、やっぱこれコミックなんだ」と気付かされることもしばしば。
自身で監督した映像版も秀逸でしたが、コミックにはコミックならではの魅力があります。

SMILE

by Raina Telgemeier, et al., graphix/Scholastic

今アメコミ業界で最も熱いと言われる児童向けコミックを代表する作家ライナ・テルゲマイヤーの出世作。
ニューヨーク・タイムズベストセラーランキングの Paperbak Graphic Books 部門で240週に渡りランクインし続けたという化け物作品でもあります。

転倒した際の怪我により歯列の矯正治療をすることになった少女時代の著者が、それを機に周囲の友人関係などを見つめ直す様子を描いた作品。

平易な言葉遣いや親しみやすいアートでさくさく進む物語のテンポ。
私もアメコミは日本の漫画よりも読むのに時間がかかる傾向がありますが、本作はほとんど同じくらいのスピードで読み進められました。

肝心の中身についても、かつて歯列矯正をしたことある人は共感できるところ多し。
痛かったり見た目が気になったりと矯正にまつわるエピソードが盛り沢山となっています。

とはいうものの、単にそれだけで留めるのではなく、それを軸に展開される友人との関係や当時起こった地震に関する反応などは、思春期らしいみずみずしさ心情に満ちています。
老若男女誰でも読める、初めてのアメコミとしておすすめ。

SPAWN

by Todd McFarlane, et al., Image Comics

ご存知90年代に業界を席巻したエッジィなノリと雰囲気、その集大成ともいうべき作品。

奸計に嵌り命を落とした元軍人アル・シモンズが地獄の使者”スポーン”として現世に帰還、やがて天界までをも巻き込む陰謀に巻き込まれていくトッド・マクファーレンによる一大サーガ。

オリジナル作品としてかれこれ30年近くほぼ休みなく続いている上に、多少の浮き沈みこそあれコンスタントに売れ続けているという事実だけでも結構な怪物作品ですが、加えて今になってスピンオフとかぽんぽん生み出して話題を呼んでいることにはただただ驚かされます。

マクファーレンのストーリーとアートは勿論のこと、途中からアートを手がけるようになったグレッグ・カプロのイラストも不気味ながらスタイリッシュでとても魅力的。
カッコよさはここにある。

SQUADRON SUPREME

by Mark Gruenwald, Bob Hall, John Buscema, et al., Marvel Comics

「スーパーヒーローの存在意義」を真正面から問う、謂わばマーベル版 WATCHMEN 。
後にグルエンワルドが急逝した際にはその遺灰が本作単行本のインクに混ぜられたという逸話は有名です。

ヴィランの洗脳から目覚め、秩序が乱れてしまった自分達の世界を目の当たりにしたスコードロン・スプリームの面々。
彼らは自分達の手で「より良き世界」を目指して犯罪や病など種々の問題を解消すべき動き始めるが、ただ1人ナイトホークだけその動きに反発する。

スコードロン・スプリームは元々ジャスティス・リーグをパロディとして誕生したチームでしたが、マーク・グルエンワルドのライティングによりスーパーヒーローの存在意義を問う傑作へと昇華しました。

「なんでスーパーヒーローは戦争とか飢餓とかにもっと介入しないのー?」と一度でも疑問に思ったことある方はとりあえず読んでみてほしい作品です。

STARMAN

by James Robinson, Tony Harris, et al., DC Comics

90年代に多数の熱狂的ファンを生んだカルトヒット作品。

初代スターマンの父親からコズミックスタッフを受け継いだ青年ジャック・ナイトがオーパルシティの新たな守護者として成長していく物語です。

新しいヒーローの成長譚としても面白いですが、当初ヒーロー活動などまっぴらごめんと否定的だったジャックと、自らのレガシーを軽んじる彼を苦々しく思いつつもその身を案じる父親テッドとのバディ物としても秀逸。
ヴィランも一筋縄でいかないかなり癖のある連中ばかりで影を操る怪人シェイドは後にスピンオフが作られるほど人気を博しました。

アメコミならではの世代をまたがるヒーロー物語を読むことができます。

STRAY BULLETS

by David and Maria Lapham, Image Comics

デヴィッド&マリア・ラファン夫妻による犯罪作品の超名作。

様々な形で犯罪に携わるヤバい連中を描く群像劇作品。
1970年代後半のバルチモアを起点に地元の犯罪組織やその関係者など多彩なキャストが登場。
麻薬に溺れて組織の幹部の愛人として囲われてしまった友人を助け出そうとするベス、普段は組織の冷酷な用心棒だが幼馴染で片思いしているベスにだけは甘さを見せる”モンスター”、想像力豊かな家出少女エイミーなど。
強烈な個性の利害が混じり合い、時系列にして20年近くに及ぶ広大な犯罪タペストリーを紡ぎ出します。

基本縦4×横2のコマ割や、トーンさえ使わないモノクロのイラストなど、ストイックなラファンの画風が本作のドライな世界観にマッチ。
ずるずると犯罪に加担したり巻き込まれていく登場人物達の姿に堪らなく惹かれます。

2005年に一度中断したものの、散発的な短編の発表を経て2014年に再始動。
無印の完結に続き、新シリーズ KILLERS 、さらに続編 SUNSHINE & ROSES が刊行され2020年に閉幕。
現在は第4シリーズ VIRGINIA を準備中とのことです。

SUICIDE SQUAD

by John Ostrander, Kim Yale, Luke McDonell, et al., DC Comics

シルバーエイジの同名作品をB級ヴィランのチームとして復活させた画期的連載。

ジョン・オストランダー故キム・イェールがライティングを手掛けた本作では、アマンダ・ウォーラーの手で集められたB級ヴィランからなる極秘チームが刑期の短縮と引き換えに命がけのミッションへと繰り出していきます。

実は私自身ちょっと前に読み終えたばかりなんですが、いやすげえよこれ。
映画にしたら1本分ありそうな内容を1〜数号で畳み掛けるスピード感。
にも関わらず繊細にキャラクターの内面を掘り下げつつ、アクションを邪魔しないバランス感覚。
任務も異国への介入のようなありがちなものばかりでなく、異次元であるとか惑星アポカリプスだとか DC ユニバースを縦横無尽に巡ります。

宇宙人から異次元人から腕利きスナイパーまで、贅沢な材料の揃っている広大な世界観を使いこなすというのはこういうことなんですよ!といった感じ。

実写化もあってここ最近は知名度を飛躍的に伸ばしたものの、まだやや扱いが地味というか。
もっと評価されて良いと思います。

THIS ONE SUMMER

Jillian and Mariko Tamaki, First Second Books

ジリアン・タマキマリコ・タマキの姉妹が送る一夏の物語。

夏休みの家族旅行で湖畔の別荘を訪れた少女ローズ
毎年遊ぶ親友のウィンディと湖水浴を楽しむ中、垣間見える親や周囲の事情。
いつもと少しだけ違う夏が大人への一歩を促します。

ジリアンがアートを、マリコがストーリーを担当する本作。
ややかすれた感触のあるタッチで描かれるジリアンの滑らかなアートが水の中の表現を美しくします。

児童向けの作品としては300ページ超とやや肉厚な本ですが、多感な少女の情動がテンポ良く描かれ、気がつくともうラスト。
きれいにまとまりつつ、ちくりと切なさを残し、しばらく間を開けてもう一度読みたい作品です。

THROUGH THE WOODS

by Emily Carroll, Faber & Faber

エミリー・キャロルがウェブで公開していた短編をはじめとした作品を集めた単行本。

白状しますと、実は今までコミックとか読んでても怖いと感じた作品ってあんまないんですが、これは怖かった。
画風、コマ割り、レタリング、キャラデザイン、全てがゴシックホラーのベクトルを向いて工夫を凝らしています。
どれが一番怖かったとか選ぼうとしても、どれもぞっとするシーンが少なくとも1つはあっても選べませんでした。

読んで欲しい。
特に夜中に1人で読んで欲しい作品です。
ぶるっときます。

ULTIMATES

by Mark Millar, Bryan Hitch, et al., Marvel Comics

なんだかんだ言って「911後のアメコミヒーロー」の完成形として、その後続く数多くの作品の原型となったことは認めざるを得ません。

マーク・ミラーブライアン・ヒッチがアベンジャーズの誕生物語を舞台を現代に移して語り直したアルティメット・ユニバース版アベンジャーズ。

MCUにも多大な影響を与えており、これがなければおそらくサミュエル・L・ジャクソンニック・フューリーもなかったでしょう。

米軍の特殊部隊としてフューリーらに集められた特殊能力者達“アルティメッツ”
スーパーヒーローが現実に存在したらどう展開し、どう社会経済にどう関わっていくかを克明に描きます。

UMBRELLA ACADEMY

by Gerard Way, Gabriel Bá, et al., Dark Horse Comics

ロックバンド MY CHEMICAL ROMANCE のボーカルとしても活躍したジェラルド・ウェイがアーティストのガブリエル・バーと共に手掛けたスーパーヒーロー作品。

世界各地で同時に生まれた43人の子供たちの中からハーグリーヴス教授によって集められた選りすぐりの7人からなるチーム、アンブレラ・アカデミー
成長するに従いバラバラになっていた彼らが、育ての親であるハーグリーヴスの訃報を機に再び集結。

単純なスーパーヒーローものにはとどまらず、ウェイのアイデアがふんだんに詰め込まれた1冊。
奇妙さと派手さが絶妙にマッチする1作です。

UNDERSTANDING COMICS

by Scott McCloud, et al., Harper Perennial

日本でもそこそこ大きな図書館であればほぼ必ず邦訳版が置いてあるであろうスコット・マクラウドの作品。

”COMIC”の定義から始まり、時間の流れ方、フキダシやオノマトペ、演出や色など多岐に渡る内容をぎゅぎゅっとわかりやすく解説。

中身が濃ゆいのでぱっと見とっつきにくそうですが(自分も学生時代に何度か図書館で手に取ったもののほとんど読まなかった)、実際読み進めていると想像以上に読みやすく気がつけば没頭してしまうような作品です。

コミックのことを学ぶ参考書としては打って付けであることはもちろん、単純に1冊の本としても充実した内容となっています。

USAGI YOJIMBO

by Stan Sakai, IDW Publishing

最近アイズナー賞も受賞したスタン・サカイによる時代劇作品。

一流の剣の遣い手である浪人ミヤモトウサギが放浪する先々で事件に巻き込まれ、それらを切り抜けていく姿を描いた作品。

親しみやすいサカイの絵柄ですいすい話が運んでいき、流血描写なんかもほぼほぼありませんがちょっと待って何気に死人が多いじゃんという、子供向けの皮を被ったバイオレンス作品だったりします(いや、普通に子供に読ませられる内容だけれど)。

比較的まっとう(?)な時代劇をやってますが、たまにタートルズと共演したり SENSO という特別編では宇宙人なんかが登場したり突飛な内容もないではないです。
ただそれも含めて面白い。

U.S.S. STEVENS

by Sam Glanzman, et al., Dover Publications

太平洋戦争時に自らも艦隊に乗り込んだサム・グランズマンが終戦後に DC の戦争系雑誌などに掲載していたシリーズ。
実在の艦 U.S.S. STEVENS を題材に乗組員の姿を群像劇的に描いた作品で、アメコミの戦争ものが単純な活劇になりがちな中、戦艦に運命を託す若者たちの日々をリアルに描いた描写が秀逸。

グランズマンは本作をはじめとして海を舞台にした作品が多く、特に艦隊の描写は今の水準でも他より頭一つ飛び抜けています。

VISION

by Tom King, Gabriel Walta, et al., Marvel Comics

2010年代のマーベルではおそらくトップのクオリティを誇る作品。

アベンジャーズの一員であり、かつてはスカーレット・ウィッチの夫でもあったアンドロイドのヴィジョン
ワシントンの郊外に自分と同じアンドロイドの家族を作った彼が、やがてそれを失っていく過程を描きます。

「アメリカ合衆国」という国を分析し、それをモチーフとして作品に取り込む手法を得意とするトム・キングですが、本作では「アメリカン・ドリーム」を題材にその欺瞞と崩壊を描きます。

ゲイブリエル・ワルタのアナログ感ある作画がヴィジョンの不幸を際立たせ、異色のマーベル作品として存在感を放ちます。

どんなに人間を模倣しても人間になることができない現代のピノキオ物語であると同時に、互いにすれ違う想いが不幸を呼び込むトラジコメディです。

THE WALKING DEAD

by Robert Kirkman, Tony Moore, Charlie Adlard, et al., Image Comics

知らない人は少ないであろう、ロバート・カークマンの代表作にして今では各界のゾンビブームを牽引する存在にまでなった終末系作品。

ある日世界中で屍者が再び歩き回るようになってしまった世界を舞台に、元警官のリック・グライムスが家族や仲間と共に生き抜くため奔走します。
                
切れの良いダイアログやタイミングの良さですいすいページが進みます。
ストーリーにばかり目がいきがちですが、昨今のアメコミ連載作としては珍しいモノクロという手法を使用したことや(最近カラー版が刊行され始めた)、まだまだシリーズが続くかのフリをしながらある日突然連載を終了させるなど、刊行面でも諸々の話題を読んだ実験作品としても秀逸です。

実写ドラマ版も秀逸ですが、カークマンの過激な悪ノリ感が楽しめるのはコミックならではだと思います。

WATCHMEN

by Alan Moore, Dave Gibbons, John Higgins, et al., DC Comics

アメコミの名作といえばまずこの作品のことを挙げる人が多いのではないでしょうか、ご存知ヒューゴ賞も受賞したアラン・ムーアデイヴ・ギボンズらによる名作。
1人の元ヴィジランテの死から始まるマーダーミステリー。

上述の DARK KNIGHT RETURNS MAUS などと共にアメコミを「大人の鑑賞にもたえうる」エンターテイメントに押し上げました。

内容とか3×3のコマ割りにばかり目がいきがちですが、他にもモンタージュ的な演出や暗喩に満ちたカメラワーク、コマ割りが号全体で線対称となっている#5とか、コミックならではの仕掛けが盛りだくさん。
ムーアも勿論ですが、これを描き切ったギボンズの構成力画力も驚嘆もの。

時代や価値観の変化に伴い度々再評価の対象となり、現在も頻繁に SNS などで議論されているのを見かけるのは名作の証といえるかと。

WHAT IT IS

by Lynda Barry, Drawn and Quarterly

リンダ・バリーが創作を志す全ての人に送る指南書風作品。

バリーが自らの経験を交えつつ、皆の中にある創作意欲を如何にして形にするかを優しくかつクリエイティブに教えます。

本を開くとコラージュや学生の図工作品を思わせる意匠のデザインなどに彩られており、コミックというよりはアートブックのような作品です。

バリーの何気にすごいところはアーリーティーンの少女が描いたようなイラストの画風にあります。
彼女の絵を見て”ヘタウマ“などと称するのはあまりに早計、この生っぽさを感じさせる画風でも何が起こっているかはっきり「読み取れる」絵はむしろすごい。
また彼女の語り口には“若さ”というか“未成年っぽさ”がひしひしと感じられ、熟練のクリエイターがこの味を維持するというのは並大抵の業ではありません。

こうしたバリーの絵と言葉で綴られる本作はあの手この手で自分の内なる創作家を引き出すための工夫に満ちています。

読んだら自分でも何か作りたくなること必至の1冊です。

WHY I HATE SATURN

by Kyle Baker, Quality Jollity

変幻自在の画風と卓越したユーモア感覚を併せ持つ稀代のストーリーテラー、カイル・ベーカー
DC の PLASTIC MAN やマーベルの TRUTH: RED, WHITE & BLACK などの挑戦的な作品で数多くのファンを魅了してきた彼ですが、その初期代表作の1つが本作。

ある日自らを「土星のレザー・アストロ・ガールズの女王」と名乗り始めた妹に頭を抱える辛口コラムニストの憂鬱を描いた作品です。

当時 DC やマーベルの編集者から作風がアングラ過ぎると言われて嫌気が差したベイカーが、米国シットコムのノリを目指したという本作はペシミストの主人公アンの一人称で語られる形式をとり、共感ポイントとユーモアポイントが盛りだくさん。
今で言えば個人ブログを覗いているような感覚でどんどん読み進めてしまいます。

シンプルなラインで愛嬌のあるキャラクター同士のやりとりに気を取られていると、急に突拍子もない展開になって笑いが止まりません。

WILL EISNER’S THE SPIRIT

by Will Eisner, et al., DC Comics

ウィル・アイズナーといえばスピリットです。

犯人との格闘の末、薬品を浴びて仮死状態になってしまったデニー・コルト
目覚めた彼が素性を捨て、新たに悪事を追う私立探偵スピリットとして活躍する姿を描きます。

同じ時代の作品と比べてもストーリー、アート共にずば抜けており、今読んでも全く色褪せることがないどころか、そんじょそこらの作品より余程面白い。
僅か8ページ前後でこんなにも骨太の物語が作れるのかと驚かされます。

タイトルページなども意匠が凝らされており、コミックの可能性を飛躍的に大きくさせた紛れもない傑作シリーズです。

XKCD

https://xkcd.com/
by Randall Munroe

おそらくウェブコミック系ではトップクラスの知名度を誇る長寿ウェブコミック。
シンプルな棒人間のキャラクターや図表を積極的に用いたストリップ風作品。

著者ランダル・モンローによる大学時代の落書きから始まった本作は、その後徐々に天文学や IT 関連などの理系ネタがマシマシのユーモア作品として発展し、各方面で話題を呼ぶようになりました。
モンローは元NASA職員だった経歴もあり、かなりその手の知識に関する造詣が深く、「楽しく学べる」を地でいってる感があります。

単行本化はされていないものの、同じようにイラストや図表が挿絵として載っている同著者の『 WHAT IF 』などはベストセラーになりました。

X-MEN: GOD LOVES, MAN KILLS

by Chris Claremont, Brent Anderson, et al., Marvel Comics

ある意味で最も X-MEN らしい作品、おそらく多くの方が X-MEN に求めるものが全て詰まった作品といえるのではないかと。

ライターはもちろん X-MEN といえばこの人ありと謳われるクリス・クレアモント
アーティストは当初ニール・アダムズが予定されていましたが、色々あってブレント・アンダーソンが担当。

差別主義者の宗教家ウィリアム・ストライカーらの襲撃を受けプロフェッサーXらが行方不明になる中、残された X-MEN の前に現れたマグニートーが利害の一致を鑑みて協力を申し出るというあらすじで、映画『X-MEN 2』の原案としても使われました。

X-MEN の最も重要なテーマの1つでありながら意外と普段あまりスポットライトが当たらない「人種差別」という要素にがっつり取り組みつつも、派手な能力アクションが展開。

悪魔のような風貌のナイトクローラーを指して「これを我々と同じ人間だと認めろというのか」と主張をする差別主義者に対するサイクロップスやキティ・プライドの反駁は歴史に残る名シーンだと思います。

実は長らく正史に含むか位置付けが曖昧のままで、刊行から20年近く経ってから『X-MEN 2』の公開時期に合わせて展開した続編を以て正史入りしたという経緯があったり。

Y: THE LAST MAN

by Brian K. Vaughan, Pia Guerra, et al., Vertigo/DC Comics

業界内外から大絶賛された終末 SF の最高峰。

謎のウイルスにより世界中で Y 染色体を有する生物が次々に死亡。
何故か生き残り人類最後の男となった青年ヨーリックが離れ離れになってしまった恋人を求めて世界中を旅する物語です。

“人類最後の男”という字面からあるいはハーレムものかと勘違いしてしまう人も出るかもしれませんが(出るか?)とんでもない。
本作は極めて冷静にこの設定を分析した世界観を提示。
利己的な目的で彼を利用しようとするような者、旧き男根社会の残滓として消し去ろうとする者、彼の存在を戯曲化しようと試みる者。

単純なファミニズム SF で完結することなく、災厄を生き抜いた主人公や周囲の心理を巧みに描き出し、リアリティとオリジナリティの絶妙なバランスが高く評価された作品です。

個人的にラストシーンはアメコミ史上屈指の名場面だと思ってます。

ZITA THE SPACEGIRL

by Ben Hatke, First Second Books

子供から大人まで楽しめる作品でおすすめを1冊挙げろと言われたらまず本作を紹介します。

ひょんなことから謎の機械により転送されてしまった友人を探し求め、地球人の少女が宇宙の果てで奔走する児童向け冒険活劇。

実は著者のベン・ハッキの妻であるアナが学生時代に作ったコミックを元にしている本作。
その後いくつかのウェブコミックを経てようやく長編化したものがこの三部作です。

宇宙の果てに投げ出されたジータが知恵と行動力で危機を乗り越え、巨大ネズミをはじめとした仲間と共に星の危機を救う姿は可愛らしさと勇ましさが両立しており、読んでいて本当に本当に楽しい。
子供向け作品だからと侮ってはいけません。
児童向けだからこその明るさとスピード感を備えつつ、無理のないストーリー展開で大人が読んでも抜群の読み応えです。





以上、名作アメコミ100選でした。

今回紹介した作品は別に「必読」というわけではなく、何読むか迷った際に参考にしてもらえればいいな位のノリで作ったものです。

最初にも述べた通り選出の基準とか背景的な諸々はまた別の記事でやろうと思います。

以上。