VISUAL BULLETS

アメコミをはじめとした海外コミックの作品紹介や感想記事などをお届け

PARADISE X #3 (MARVEL, 2003)

適当に本棚から取り出した本を紹介しようシリーズ。

続くんなら”RANDOM PICKS(ランダム・ピックス)”というコラム名でいこうかと。

さてさて。

良くも悪くも共同作業が中心となる米国コミックの世界。

それは何もライターやアーティストで役割分担していることばかりを指すのではなく。

単にライターのみでもクロスオーバーをはじめとした他タイトルの動向を伺いながらストーリーを展開する必要にしばしば迫られます。

こうした態勢は時に作家の強烈な個性を削いでしまうことにもなりかねず、期待していた人気クリエイターのメジャータイトルがイマイチ振るわないことの一因になる場合も。

先日紹介したメレディス&デヴィッド・フィンチによる WONDER WOMAN の連載に関しても、当時そんなにDCユニバースの動向に合わせなくてもいいんじゃないかなーと思っいながら読んでた覚えがあります。


そうした中、たまにマーベルやDCは”別世界扱い”でクリエイターの好きなように世界観の独自解釈を許すことがあります。

パッと思いつくものだとクリス・クレアモントの X-MEN: THE END 三部作とかショーン・マーフィーの BATMAN: WHITE KNIGHT とか。

広義ではフランク・ミラーのTHE DARK KNIGHT RETURNSとかも含みますかね。


本作も KINGDOM COME や MARVELS といった代表作でトップアーティストとして知られるアレックス・ロスが、ライター(兼カバー担当)としてマーベル・ユニバースを独自解釈した EARTH X というシリーズに端を発する三部作シリーズ(最近前日譚となるMARVELS Xという作品も刊行されました)。

正確にはロスの独自解釈を元にライターのジム・クルーガーが脚本の執筆を担当しています。

今回紹介する本はそんな三部作の2作目UNIVERSE Xに続く最終作PARADISE Xの第3章。

PARADISE Xの話をする前にまずEARTH Xシリーズの世界観について軽く説明しておくと、本シリーズでは我々がよく知るマーベル・ユニバースから少し先の(やや屈折した)未来を描いており、ほぼ全ての人類がインヒューマン化しています。

本作PARADISE Xではだいぶ緩和されていますが、EARTH X開始時はスパイダーマンを辞めたピーターがメタボ体型になっていたり(その後だいぶ持ち直しますが)、ローガンもただの中年オヤジになってたりと、多くのヒーロー達が迷走気味になっており、ややディストピア感が漂います。

先程KINDGOM COMEの名を挙げましたが、DCのKINGDOM COMEに対するマーベルの答えが本シリーズと考えるとややイメージしやすいかも。


自分にとってはコミックを読み始めて割と初期に存在を知って、以来ずっと欲しいなと思ってるシリーズなのについつい新装版出る度に買い逃しちゃう作品です。この間出たオムニバスも気づいたら売り切れてたし。

なので私はこのシリーズについてはセールで購入したPARADISE Xをリーフで5,6冊持ってるだけ。

全体的なストーリーを十分把握しないまま読んだんですが、それでも読み応えあります。


本章についてもイマイチ話の流れを把握しきれてないんでわかる範囲で書くんですが、#3ではキャプテン・ブリテンとインヒューマンズのメデューサの政略結婚(?)が話の中心となり、それに参列する形で各方面から面子が集まっているといった感じ。

この世界の住人のみならず、DAYS OF FUTURE PAST のローガンや吸血鬼化したブラッド・ストームとかの姿もあるのでマルチバースからも参列者が出ています(これについては確か特殊な事情があった筈)。

同じ頃、ネガティブゾーンでリードが何かやらかした(と誤解された?)せいでアナイラスなどが激怒し侵攻開始。

一方、死を司るデス自身が死んでしまったことにより死後の世界では何らかのトラブルが発生しているらしく、キャプテン・アメリカがヴィラン含め誰もが己の理想の世界で幸福を享受できる新たな天国を開発中?といった具合。

あと自分がもう死んでいることに気付いたパニッシャーのメンタルが崩壊し始めてます。

どうやらこのPARADISE Xという作品ではEARTH X三部作の最後となるということもあり、マルチバースや死後の世界、セレスシャルズといったマーベル・ユニバースでも高次の題材を扱っている模様。

背景となる情報を掴むのにやや手間取るものの、少なくとも本章では序盤のX-51(かつてのマシンマンで現ウォッチャー)とカイル・リッチモンド(元ディフェンダーズのナイトホーク)のゴリゴリ会話劇を乗り切れれば残りは普通に読めるし、面白い。

自分がこういったディストピア系の話好きだからというのもありますが、非常に唆られます。

続きが気になるのは当然のこと、改めてこのシリーズに手を出したくなりました。

マーベル、オムニバスかエピックで新版出してくれ…!