VISUAL BULLETS

アメコミをはじめとした海外コミックの作品紹介や感想記事などをお届け

THE SLEEPER(DC/WILDSOTRM, 2002-05)

大昔に前半の単行本を読んだ感想を上げてた気がしてたんですがその後待てど暮らせど後半の単行本が刊行されず。なんなら書いた記事も見つからん。気がついたら全部まとめたオムニバスが刊行されていたのでそちらを買い直したので改めて感想です。

ホールデン・カーヴァーはスーパーヴィランで構成される犯罪組織の幹部だ。
表向きは。
だがその正体は組織のトップ、タオに接近し情報を得る目的で政府から送り込まれた潜入捜査員。
ところがそのことを唯一知る上官、ジョン・リンチが狙撃され意識不明となったことで事態は一変。孤立無援となったホールデンは正体がバレずに組織を抜け出すことができるのか。

若きジム・リーが1998年に生み出し、2010年にNEW52に吸収されるまで存続した"ワイルドストーム・ユニバース"から生まれた作品。ファンの間ではCRIMINALなどで知られるエド・ブルベイカーとショーン・フィリップスの初期タッグ作品としてそこそこ有名ですが、いかんせんオリジナル物ではないせいか後続作品より普及してない印象。

全体の物語は大きく3つに分かれます。
WILDC.A.T.S.のヒットマン、グリフターことコール・キャッシュがジョン・リンチ狙撃事件の犯人を追う、シリーズのプロローグPOINT BLANK。
リンチの後ろ盾を失ったホールデンが組織を抜け出そうと奮闘するシーズン1。そして続くシーズン2。

プロローグだけアーティストがコリン・ウィルソン(カバーはサイモン・ビズリー)。
今回は舞台が現代なのであまり見ることはできないものの近未来的な背景描写に定評がある方で、北米コミックのみならず英国やフランスなどの作品でも活躍する国際派の人物です(というかヨーロッパでの方が知名度高いかも)。

ブルベイカー&フィリップスによる作品とか、あるいはブルベイカーがライティング手がけてるFATALEとかキャプテン・アメリカの連載とかなんか一つでも読んでいる人であれば本作のクオリティの高さはおおよそ想像できるかと思います、はい。
極上のネオノワールです。

この手のジャンルはストーリーがキャラクターに対して残酷であればあるほど良いものです(グロい描写という意味ではなく。念の為)。
潜入先の同僚との友情や愛情といったプラスの人間関係、あるいはハッピーエンドの予感。んなもんは避けられない破滅のためのスパイスに過ぎません。でも状況に救いがなくなっていくほど掴んだ藁が強靭なロープに思えてくる。ホールデンもまた偶然とも必然ともわからぬ状況をもがいてもがいてエンディングへ突き進みます。
そうして辿り着くビターなエンディングはストーリーテリングの完全勝利。シーズン2の中盤からはページをめくる手が止まらず一気でしたね。
流石です。

ホールデンの物語自体は本作の中で完結しているものの、リンチやキャッシュといった一部の登場人物については出自を知っておいてもいいかも。
この場でさっくり説明すると、ホールデンの正体を知る唯一の人物が彼の上官ジョン・リンチ。彼はマーベルで言うところのニック・フューリーみたいなポジの人。かつてチーム7という特殊部隊を率いており、コール・キャッシュやマーク・スレイトンはその元チームメイトです。
一方、ホールデンの潜入先である国際犯罪組織のトップに就くタオは人造人間で一時キャッシュの所属するWILDC.A.T.S.のメンバーだったものの実は裏切り者だったことが判明し、死を偽装し逃亡。
このあたりわかってれば大丈夫かと思います。

日本のアマゾン検索したら4万円くらいという通常のオムニバスの2倍くらいしてたのでもう在庫切れしてんのかと一瞬思ったんですが、そっちは2013年に刊行された旧版の方で「sleeper omnibus 2022」とかで検索するともっと安い新版のが出てきます(それでもオムニバスなので1万5千円くらいしますが…)。