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元祖スーサイド・スクワッドが想像の斜め上だった件

この間、80-90年代のオストランダー版 SUICIDE SQUAD をようやく揃えたんですが、その時に一緒に SUICIDE SQUAD SILVER AGE OMNIBUS VOL.1 も購入しまして。


結構前に読み終えて何度か感想記事書いてみようと試みてはいたんですけれど、もう2回くらい原稿をボツにしてはゴミ箱から取り出してを繰り返してます。

何か色々と予想外でした。

概要

先に基本情報から。

本書は50年代終盤から60年代序盤にかけてあちこちで描かれた元祖スーサイド・スクワッドことタスクフォースXの活躍を収録しています。

SUICIDE SQUAD というチームが初登場したのは1959年の THE BRAVE AND THE BOLD 誌において。

同誌はそれまでロビン・フッドなど中世系キャラクターにフォーカスしていたものの、#25から様々なキャラクターをフィーチャーするアンソロジーに方針転換。

その最初を飾ったのがこのスーサイド・スクワッド、またの名をタスクフォースXというチームです。


連載当時の時代を舞台にリック・フラッグ率いる職能集団タスクフォースXが様々な危険ミッションに繰り出すという内容。

リック・フラッグはオストランダー版にも登場する名前ですが、ここに登場する人物の設定は後に父親と息子とに分裂するので若干ややこしいことになってます。

ちなみにスーサイド・スクワッドの次に#28で初登場したのがジャスティス・リーグです。


その後、同チームはいくつかのエピソードを重ねた後、 STAR SPANGLED WAR STORIES 誌へ移行し、太平洋戦争時に存在した同名部隊の活躍を描くようになります。

こっちは何らかの理由でいがみ合う2人組が恐竜が生息する島へ辿り着き、なんやかやしつつも任務をこなすというのが基本フォーマット。

これはこれで語りたいことがたくさんあるんですが、まだ考えがまとまってないし、一緒くたに語ろうとするとややこしいので今日はひとまず置いとく。


とにかく、本書は上記の2つの連載を収録しており、大体ボリュームとしては半々くらい。

VOL.1 とは銘打っているものの、多分これ1冊で全部です。

ほぼ全てのエピソードについて、クリエイター陣はライターのロバート・カニガーとペンシラーのロス・アンドリュー、インカーのマイク・エスポジートという顔ぶれ。

一部のエピソードでジョー・キュバートなどが参加しています。

オリジナルチームは科特隊

現在のB級ヴィランのチーム含め、どれも”スーサイド・スクワッド”という同じチーム名ですが、任務の中身が”自殺的なほど危険”であること以外はかなり毛色が違います。

とりあえず最初に名乗ったのはリック・フラッグらが登場する現代編なのでこちらを”元祖”と呼ぶことにするとして。


まず、ぱっと目につく大きな違いとして挙げられるのは、元祖はメンバーが非ヴィランで単純に各方面のプロフェッショナル集団であるということ。

あと、ミッションの多くが怪獣退治

デビュー号からして敵は火の玉から生まれ、触れるもの全てを凍てつかせ、終いに森林から葉緑素まで奪い取ってしまうという巨大生物。

その後も巨大な芋虫とか異次元のテレパシー恐竜軍団とか(逆に自分達が小さくなるパターンも含め)でかい脅威がどかどかと登場し、リック・フラッグ率いる職能集団が知恵と火力で立ち向かうわけです。

終盤は異次元人とか人を金像に変える変態芸術家とかも登場しますが、なんにせよウルトラQみたいな雰囲気。

オストランダー版以降のスーサイド・スクワッドが特攻野郎Aチームだとするなら、元祖は科特隊というところですかね。

今夏の実写版で「フリーキン・カイジュー」ことスターロ君が登場するのもこの辺意識しているのかもしれません。


これについても色々と語りたいところなんですが今日は置いときます。

サバイバーズ・ギルト

さて、元祖スーサイド・スクワッドのメンバー4人は様々な方面からかき集められた面子ですが、全員がある1点で共通しています。

それは彼ら1人1人が「生存者」であること。

隊長にしてパイロットのリック・フラッグは航空部隊に所属していた戦時中に部隊でただ1人任務から生還した過去があります。

その右腕的存在であるカリン・グレイスも同じく戦時中に看護師として従軍していた際、船が沈没し看病していた患者と甲板の上にしがみつくタイタニック状態になった後、デカプリオした彼の犠牲の上に生還しています。

物理学者のジェス・ブライトと天文学者のヒュー・エヴァンスも実験中の爆発事故で他の研究員が命を落とした中、自分達だけ生き残ったという経験の持ち主です。


全員が全員、死んだ仲間達から呪いのような「想い」を託されて生還し、サバイバーズ・ギルトを原動力に命を顧みず危険な任務をこなしていきます。

トラウマによる破滅願望を利用しているというだけでも見方によっては結構危ういチーム。

ですが、彼らはさらに巨大な爆弾を抱えています。

オタサーの姫

実はチームの男どもは3人が3人とも紅一点であるカリンに好意を寄せています。

そしてそのことを彼女自身は百も承知。

言ってみればカリンはオタサーの姫なわけです。

ジェスやヒューはちょっとした際に彼女の気を惹こうとアプローチします。

しかし彼女はなびきません。


それもその筈。


彼女は既にリック・フラッグと両思いなのですから。


ですが2人は「自分達がカップルであることを他の2人が知ったら失恋のショックでチームが瓦解する」ということを理由に互いの想いを他のメンバーから隠します。

この時点でもう結構お腹がきりきりする。


そしてさらにこっそりデートをしたり、見えないところでいちゃついたり。

少し距離を縮めては「自分達の関係がバレたらチームが終わる」と確認し合って距離を取るという焦らしムーブを毎号繰り広げます。


痛い。

実に痛い。

イケメン部長とこっそり付き合うオタサーの姫に、何も知らずに淡い恋心を抱いた部員達がアピールする。

嫌な予感しかしない。

サークルクラッシュのカウントダウンは既に始まっています。


…が、幸いなことに本書ではロマンス要素など刺し身のタンポポ程度の添え物なのでそこらへんの人間ドラマは大して掘り下げられません。

安心した?

安心した?

私も安心しましたよ。

地獄に叩き落されるまでは。

私、本書を読み終えた後すぐに80年代オストランダー版の連載を読み始めたんですね。

これがまずかった。

トラウマ認定

連載のプロローグとなる SECRET ORIGINS #14 の前半で、このトラウマと情欲で保たれていた元祖スーサイド・スクワッドのラストミッションが描かれます。

………。

いやあ、見事なサークル崩壊でした。


端的に言えば上で述べた人間ドラマのフリをした時限爆弾が見事に引き金となってチームは内部崩壊。

燦々たる終わりを迎えます。


一応言っておくと駄作ではないんです。

むしろストーリーテリングはクオリティが高く、多分元祖を直前に読んでなかったらそこそこエンジョイできたと思います。


でも高品質だからこそ逆にエグい。

シルバーエイジの彼らの活躍をそこそこエンジョイしていた身としてはそこそこ絶望できます。

『アトムの最後』とか『劇画・オバQ』とか、あのへんに近い種類のダメージです。

誰も傷つけたくなーい。

そんなわけで元祖スーサイド・スクワッドの活躍を収録した THE SUICIDE SQUAD SILVER AGE OMNIBUS VOL.1 です。

作品自体は面白いものの、このチームに入れ込むと後に自爆へ突き進む彼らがたどり着く地獄を垣間見ることになります。

スーサイド・スクワッドの”スーサイド”は任務の危険度だけのことではありませんでした。

人にオススメできるか問われると非常に悩ましい…。


ぱっと見は痛快な冒険活劇ですが、一度裏側のドロドロしたものに気づくとあとは心の地獄へ直行です。

読む際は色々と覚悟しときましょう。

特に本書を読んだ後すぐに何も知らないでオストランダー版を読み始めると軽く病めます。

ご注意を。


もし読んじゃった場合はすぐにダーウィン・クックの THE NEW FRONTIER を読むと多少ショックが緩和できます。

あっちのタスクフォースXはまだ救いがある。(少なくともリックとカリンは)


わたしゃもう寝るよ。


ではまた。