誰もが知るスーパーヒーローの有名作 ALL STAR SUPERMAN を紹介。
宿敵レックス・ルーサーの陰謀で過度の太陽エネルギーを浴びたことにより、かつてない程の力を手に入れると同時にそう遠くない死を宣告されたスーパーマン。彼が残り僅かとなった余生で成し遂げる12の偉業を描く名作中の名作。
原書合本版(Amazon): All Star Superman VOL 01(この版はもう絶版みたいなんで下のをどうぞ)
ライターは ARKHAM ASYLUM などで知られるグラント・モリスン、ペンシルはモリスンと長いお付き合いのフランク・クワイトリー、インクとカラーは WE3 で二人と共に仕事をしたジェイミー・グラントという顔ぶれです。アメコミの名作と讃えられるのがもっぱらな本作ですが、クリエイター陣は英国出身の方が多く、通常のスーパーヒーロー物とはやや趣を異にします。なんていうかアドレナリンラッシュよりもセンス・オブ・ワンダーが濃厚な感じ。
初心者が読んでも分かりやすければ、玄人が読んでも楽しめる本作。コアなファンに対するイースターエッグがふんだんに盛り込まれているのは ARKHAM ASYLUM 始め、その他多くの作品でも散見されるモリスンの得意技といえるでしょう。特にシルバーエイジ、カート・スワンが担当していた時代からの影響が濃厚で、コミックス・コードにより一部表現が制約されていた1950−70年代に何とか読者の関心を繋ぎ止めようとした結果生まれた突飛な内容のエピソード群を現代版にアップデートしたような印象を受けました。多分、ネットを漁れば過去作からの元ネタリストみたいのが見つかるのではないかと。
邦訳版(Amazon): オールスター:スーパーマン (DC COMICS)
一般にスーパーマンの描き方としては大きく二つの種類があると言われており、実写で言えば2013年の『マン・オブ・スティール』的な描き方と、1978年の『スーパーマン』的な描き方との二通りをイメージして貰えれば分かりやすいかと思います。
1つが彼を両義的で傷つきやすい存在として描く方法。フランク・ミラーの THE DARK KNIGHT RETURNS に登場するスーパーマンや、 New52 時代のスーパーマンはこの描き方だったように思います。
ここだと彼はやれ力を失うだのやれ誤った選択をするだのと、良くも悪くも人間臭い存在です。
それに対してスーパーマンを描くもう1つの方法は、本作のようにその善性の多かれ少なかれを絶対化することにより、彼を文字通りの”超人”ーもっと言ってしまえばある種の”神”ーとして描く方法です。
こっちの彼はまずぶれません。とにかくやたらと「いい人」ですし、絶対的な安心感が作品を覆っています。ゴールデンエイジからシルバーエイジにかけてはこちらの作風が圧倒的多数派でしたが、80年台頃から徐々にその傾向は薄れ、最近だとあまりみません。近年こういった作風をとるクリエイターで代表的なのはモリスンやジョージ・ペレスなどごく一部ではないかと思われます。
確かに少々強引で傲慢とも受け取られかねない手法ではあるものの、上手にやれば精神的にも肉体的にも制限がない「スーパーマンならではな」なダイナミックかつオリジナリティのある名作が生まれやすいような気がします。
癖のあるクワイトリーのアートや、ネオンのような蛍光感を備えるグラントのカラーもこちらの作風の方が合っており、特にクワイトリーのアートはリアリスティックな絵柄にカートゥーン調の動きを加えるものなので、地に足が着きっぱなしでいるよりは少々浮世離れしていた方がしっくりきます。
ややもすると勧善懲悪的スーパーヒーローの代表格としてやれ現実味がないだの感情移入できないだのと侮られがちなスーパーマンですが、そう揶揄する多くの方が必ずしも理解しきれていないのは、彼が努めて余裕そうに見えるよう行動しているということであり、そのことは本作でも暗示されています。
憎い宿敵を汚い言葉で罵り、気の合わない相手を助けるのに面倒臭そうな表情を浮かべることは簡単です。しかし、そんなヒーローのために人々は空を見上げるでしょうか?危機に陥った際、絶対に助けてくれると希望を抱くでしょうか?
彼の救済行為はその場その場での即時的かつフィジカルな影響のみならず、それが後にどう他者をインスパイアしていくのかという漸次的かつメタフィジカルな影響をも考慮したもの。 それは”スーパーヒーロー”という単語を耳にして誰もが思い浮かべる存在に課せられた宿命であり、彼にしかできない行為です。