”アメコミ”という言葉からあなたはどんな作品を想像しますか?
多くの人が”スーパーヒーロー”と答えるのではないでしょうか。
しかし、実は今米国コミック業界で最も勢いのあるジャンルは幼児〜若年層を主な対象に描かれたいわゆる児童向けコミック。
主にコミックショップで流通する DC やマーベルなどの作品と異なり、本屋で流通することがメインの児童向け作品は近年大きく売上を伸ばしており注目を集めています。
本日紹介するのはそんな児童向けコミックの作者で今大人気のレイナ・テルゲマイヤー。
今日の記事では彼女の作品をざっと紹介したいと思います。
経歴
レイナ・テルゲマイヤーはサンフランシスコ出身のカートゥニスト。
デザイン系学校を卒業した直後は自費出版で自分をモデルにした作品を刊行しつつ、商業作品でも DC の BIZARRO WORLD や、飛ぶことをテーマにしたアンソロジー FLIGHT などで短編を発表していました。
転機となったのは2004年。
テルゲマイヤーはウェブコミックサイト Girlmatic.com (現在は閉鎖)に少女時代の自身を主人公にした自伝的作品 SMILE を発表。
同じ頃にアン・M・マーティンの人気児童小説 THE BABY-SITTERS CLUB シリーズを原作としたコミック版も手がけるようになり、人気を伸ばしていきます。
その後、シリーズ第4作 CLAUDIA AND MEAN JANINE を最後に THE BABY-SITTERS CLUB を後にしたテルゲマイヤーは SMILE の書籍版を出版。
これが爆発的な人気を博し、彼女の知名度は飛躍的に向上します。
以降も2021年現在に至るまで長編作品を5作刊行し、その多くが米国コミック業界の最高峰と評されるアイズナー賞などで賞を受賞。
2019年に初版発行部数100万部で刊行された GUTS はニューヨーク・タイムズのベストセラーランキングにおいて、小説なども含めた総合部門で1位を獲得するなどめざましい活躍を見せ続けています。
レイナ・テルゲマイヤーの公式サイト
goraina.com
ツイッター
twitter.com
テルゲマイヤー作品のここがオススメ!
レイナ・テルゲマイヤーの作品にはたくさんの魅力があり、子供から大人まで楽しむことができる他、英語学習にもうってつけです。
オススメポイント① アメコミ版「ちびまる子ちゃん」!?
テルゲマイヤーの作品は平易な言葉と親しみやすい絵柄が特徴的。
さくさくと読み進められる一方で読み応えもあるのでどんどんページをめくることができます。
以下に引用するのは SMILE の冒頭ですが、これを見ても分かる通りシンプルながら愛嬌のある絵柄なので普段「アメコミの絵が苦手」という方も手に取りやすいのではないでしょうか。
また、ティーンエイジャー時代の自分を主人公にした自伝的作品が多く、児童向けコミックにおける”回想録( Memoir )”というジャンルの立役者と評されることもしばしば。
思春期特有の自意識や人間関係などの悩みなどを経験した大人の読者も共感できるところが多いかもしれません。
自身の体験をコミカルかつ想像力を交えながら描く作風は「ちびまる子ちゃん」などを手掛けたさくらももこと似たところがあるかと思います。
オススメポイント② 読みやすい
テルゲマイヤーの作品は児童を対象にしているため、難しい単語はあまり登場しません。
長々とした台詞もなく、簡潔な文章でさくさくと物語が進んでいきます。
若い読者や英語に慣れていない方には断然おすすめです。
ちなみに私自身もだいぶ早いペースで読み終えられました。
たまに「海外コミックは台詞の量が多く読むのが疲れる」という意見を目にしますが、個人的な感覚だとテルゲマイヤーの作品は日本の漫画を読むのに近いスピード感で読むことができました。
オススメポイント③ 手に取りやすい
テルゲマイヤーのオリジナル長編は基本的にどれも1冊で完結しています。
つまりどの作品から読んでもOK。
DC やマーベルなどのアメコミ作品を読むに当たってしばしば大きなハードルとされる「読む順番」もここでは気にする必要がありません。
同じ少女時代のテルゲマイヤーを主人公にした作品でも、出世作 SMILE だろうが最新作 GUTS だろうが予備知識0で楽しむことができます。
原作付きシリーズ物の THE BABY-SITTERS CLUB についても基本的に日本の漫画同様1巻目から順に読んでいけばよいかと思います。
またテルゲマイヤーの作品のみならず、児童向けコミックは一般的なグラフィック・ノベルと比べて、サイズが一回り小さい代わりに価格がぐっと安くなる傾向があります(出版社にもよりますが)。
海外コミックを初めて手に取るという方にもオススメです。
代表作
さて、ここからはいよいよテルゲマイヤーの代表作を紹介していきます。
SMILE
あらすじ
転倒時の怪我で前歯をやらかしてしまったレイナ。
歯の矯正を始めた彼女だったが、痛みや見た目や食事制限など不安は募るばかり。
だがそれは同時に成長への第一歩であった・・・。
テルゲマイヤーの出世作となった長編作品。
上記の通り元々はウェブコミックでしたが、彼女が THE BABY-SITTERS CLUB から離れた後の2010年に書籍として刊行したところ大ヒット。
彼女が業界内外で大きく注目されるきっかけとなりました。
少女時代のテルゲマイヤーが主人公。
矯正器具の痛みや見た目に関する感想など、歯の矯正をしたことのある方であれば「あ〜、わかるわー」と終始共感してしまうことは必至。
そして単なる矯正の体験談に留まることなく、それに端を発して新たな自意識に目覚めたり、友人など周囲との距離感を少しずつ見出していく物語となっています。
DRAMA
あらすじ
舞台が大好きな少女カリー。
演劇部で舞台装置を担当する彼女は次の演目が自分の大好きな作品 MOON OVER MISSISSIPPI だと知り、やる気満々。
だが一方で人間関係は幼馴染の男子への恋愛感情に振り回されたり、別の男子と何故かギクシャクしたり…。
そんな中、彼女は舞台に興味を持った双子の兄弟と出会う。
学校の演劇部を舞台に、新作の公演に向けて邁進する少女と他の部員達の姿を描いた軽やかな青春ストーリー。
SMILE などとは異なり、本作は完全なフィクションです。
LGBT の話題なども取り入れつつ、軽やかな調子でストーリーは進みます。
漫画などのいわゆる学園祭エピソードとか好きな人には結構オススメかも。
SISTERS
あらすじ
親戚の集まりに赴くためカリフォルニアから母の運転するマイクロバスでコロラドへ向かうことになったレイナ。
だが彼女は仲の悪い妹や生まれたばかりの弟、そして言葉にするのも嫌な”例の存在”などと一週間近く同じ車内で揺られ続けることに乗る前から気が滅入りそう。
しかし波乱万丈の旅は驚きと新たな発見の連続で…。
少女時代のテルゲマイヤーを主人公にした自伝的作品の第2弾。
時系列的には SMILE で描かれた矯正中の出来事ですが、別にそちらを読んでいなくとも問題ありません。
親戚の集まりへ赴く車中で起こるエピソードや、仲の悪い妹との回想を交錯させながら、家族を見つめ直すレイナの姿が描かれます。
SMILE は主に友人関係にスポットライトが当てられていましたが、本作は家族が焦点となっています。
妹の他にも生まれたばかりの弟や不穏な空気が漂う両親、それに10年ぶりに再会したいとこなど。
自分の気づかないところで様々な変化が起こっていたことに気付かされるレイナの姿にとても共感することができます。
ロードムービー的要素もあり、個人的にはかなり好きな作品です。
GHOSTS
あらすじ
呼吸器に障害を抱える妹マヤの静養のため、空気がきれいなカリフォルニア北部の町に移り住んだカトリーナと家族。
しかしここでは何かに付けて幽霊の話題ばかり。
近所の少年から”幽霊ツアー”に誘われた彼女は妹と繰り出すが…。
基本的に日常系のストーリーを手掛けるテルゲマイヤーの作品でも珍しいかもしれないファンタジー。
幽霊が生活に溶け込む町へやってきた少女と妹の新たな出会いや発見を描きます。
幽霊は登場しますがホラーではないのでご安心を。
児童向け作品ではややきわどい”死”というテーマの扱い方も優しく、とても好感が持てます。
GUTS
あらすじ
ある日、食あたりに遭い夜中に吐いてしまったレイナ。
以来、彼女はいつどこで吐いてしまうかわからないという不安に呑まれるようになってしまう。
原因不明の腹痛に悩まされる彼女はセラピーに通うことになったが…。
SMILE が友人、 SISTERS が家族をテーマにしているとすれば本作は”自分”がテーマ。
時系列的には SMILE より前です。
もちろん、別に他の作品を読んでいなくとも難なく読むことが出来ます。
吐いてしまうことに対する不安がストレスになり腹痛の発作が起きるようになってしまったレイナがセラピストとの対話を経て、少しずつ自らの立ち位置を見つめ直します。
また、それにまつわり今まで扱ってきた家族や友人などのことも。
特に今回は普段仲の悪い同級生との向き合い方などにスポットライトが当てられています。
THE BABY-SITTERS CLUB
ウェブコミック版 SMILE と同時期に始まったテルゲマイヤーのもう1つの出世作(本ブログの管理人はまだ読めてません…)。
近所の子供達の面倒をみる”ベビーシッターズクラブ”という活動を始めた個性的な4人の少女の活躍を描きます。
上でも述べたとおりアン・M・マーティンによる米国の人気児童小説が原作。
テルゲマイヤーが小説のファンであることを知った編集者からコミカライズを打診されたことがきっかけだとか。
テルゲマイヤーが担当したのはシリーズ4作目までですが、その後のシリーズも他のカートゥニストによって続けられており、現在9作目まで刊行。
スピンオフシリーズ BABY-SITTER'S LITTLE SISTER も生まれています(テルゲマイヤーは関わっていませんが)。
ネットフリックスで実写ドラマ化もされており、こちらも高評価を獲得。
現在セカンドシーズンの準備が進められています。
他にもマーベルが2009年に刊行した少女漫画版 X-MEN こと X-MEN: MISFITS で当時の夫だったデイヴ・ローマンと共にライターを務めるなどしています(現在はほぼ絶版)。
以上、レイナ・テルゲマイヤーと彼女の作品に関する紹介でした。
最初にも述べましたが現在米国では児童コミックが大盛り上がり。
中でもテルゲマイヤーの作品はそのトップランナーの1人に数えられています。
子供から大人まで楽しむことができるストーリーと、アメコミにあまり親しみのない人でも受け入れやすい画風。
これまで海外コミックを読んだことがない、英語にまだ自身がないという方にもおすすめです。
児童向けコミックは一般的なグラフィックノベルと比べるとサイズが一回り小さく、その分価格も安い傾向があります。
テルゲマイヤーの作品も日本のアマゾンで1冊およそ1300円程度で売っており、200ページ超の海外コミックとしてはかなりお買い得。
1冊読んだらすぐに他の作品も読みたくなるのでオリジナル長編を全て収録したボックスで一気に揃えるのもアリです。
是非是非手に取って見て下さい!
それでは本日もよいコミックライフを。