KILLING JOKE や数々のカバーアートなどで知られるアーティスト、ブライアン・ボランドによるオリジナル作品集。
メインは閑静な住宅街に同居する女優と司教の(非)日常系作品 THE ACTRESS AND THE BISHOP と、自らの分身的中年キャラクター、ミスター・マムーリアンを主人公とする私小説的なメタ作品 MR. MAMOULIAN の二作。
他に DC で発表した短編 THE PRINCESS & THE FROG / THE PRINCE AND THE WITCH といった作品を収録。
ボランドといえばリアリスティックながら、どこか誇張めいた表現も含むカリカチュア的な絵柄が大きな魅力の1つです。
本作でもその実力は遺憾なく発揮されており、特に表情のアップなどはたまらないものがあります。
しかし、彼の才覚はアートだけに留まるものだけではありません。
例えば本書に収録されている THE ACTRESS AND THE BISHOP の1篇 THE THING IN THE SHED から、以下のナレーションを御覧ください。
”SOMETHING INDESCRIBABLE WAS IN THE SHED. ”
”A SQUAMOUS THING, A LOATHSOME GREEN, OR MAYBE IT WAS RED.”
出典: THE ACTRESS AND THE BISHOP in THE THING IN THE SHED by Brian Bolland
このようにこの作品では韻を踏んだナレーションによってストーリーが進んでいくのです。
時にコミカル、時にサスペンスフルな物語が詩的なリズムに乗ることでより一層面白さを増します。
一方で当初気分転換として描き始めたという MR. MAMOULIAN の方は普段の彼と異なり、かなり落書きっぽい絵柄でまさにタイトルの現すところの”コミックストリップ”という感じ。
余談ですが、 ステイェパン・セイジの SUNSTONE なども含めてクリエイターが気分転換に始めた作品から秀作が生まれることはままあります。
本作も最初は自分の不安など内面の吐露を中心としていたのが少しずつ陰謀や幻想めいた展開を帯びていき、それにつれストーリーも深みと突飛さを増していきます。
登場人物も偶然出会ったパンク・ガールや夢の中にのみ登場する美女、極秘スパイや終いには本作の”真の作者”など多彩。
いわゆるストーリー物とは趣が違う、1ページものならではの明快さと深さが相まった作品です。
その他についても、本書に含まれる作品はどれも短いながら読んでいて心地よい作品ばかり。
アーティストとしてはもちろんのこと、1人のカートゥニストとしても優れた文才を持ち合わせるボランドの新たな一面を垣間見ることができるかと思います。
いま確認したところ kindle 版であれば500円程度という破格の値段で手に入るようです。
ぜひご一読あれ。
それでは本日も良いコミックライフを。