VISUAL BULLETS

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HELLBOY VOL.7: THE TROLL WITCH AND OTHERS (DARK HORSE, 2003 - 2007)

 美しい姉と醜い妹 — 2人の間に起こった悲劇とは。


Hellboy: The Troll Witch, The Penanggalan, and The Hydra and the Lion #4

  
1963年、ノルウェー。地域で起こる不可解な死に関して、近くに居を構える Troll Witch なる老婆が何か知っているのではないかと睨んだ Hellboy は彼女の小屋を訪れる。彼の来訪を予期していたという醜い鬼女の口から語られる自らの生い立ち、そして美しい姉との悲劇とは……。

  Hellboy 第7巻目は彼がまだ B.P.R.D. のエージェントしてばりばり活躍していた1950年代から90年代にかけての色んなエピソードを詰め込んだ内容。似たような体裁の巻はこれまでもあったけれど、舞台に北欧やアフリカが加わっている他、『 THE VAMPIRE OF PRAGUE 』編の P. Craig Russel や『 MAKOMA 』編 の Richard Corben らといったゲストアーティストの存在がちょっと新鮮。
 改めて考えると作中の時間はほぼリアルタイムだから WW2 の終戦前後に生まれた彼は今もう70歳を超えてるんだっけな。

 
  Corben については今までもここやツイッターの方で何度か言及していると思うので改めてどんな人かここで細々と説明こそしないものの、流石ホラー・コミック全盛期の頃から活躍している名手の描く魑魅魍魎は独特で見応えがある。とりわけ屍人系は虚ろな目が堪りませんな。点で影を入れる感じからは西洋風水木しげるといった印象を受ける。

 もう1人のゲスト・アーティストである P. Craig Russel に関しても、こちらの絵は初めて見るけれど中々良い。おどろおどろしさという点では Mignola よりやや控えめなものの、その分 Hellboy のアクションが痛快に仕上がっている印象を受けた。荘厳な感じがせずサクサクっと読めてしまいそうなところはいかにも Dark Horse らしい絵柄かなと思ったり。コップから血を呑むコウモリなんかが何気にキュート。

 ただこうは言ったものの、今回の話で一番好きなのはやっぱりライティングとアートの両方を Mignola が担当している表題作『 THE TROLL WITCH 』編(いや、別にアートが云々というわけではなく。単に私がこういう話にものすごく弱いというだけの話ね)。
 解説のところで Mignola 自身もかなり気に入っているという本作は僅か10ページ程度という短さながらそのフォークロアをベースにしている姉妹の愛情と悲劇の物語がとても心に突き刺さる。 Troll Witch がトロールの住処へ攻め込むために手にした得物が木のスプーンだったなんて細かいところも土着的というか雰囲気が出ていてまた魅力的。

 他にも本巻には Mignola が自らの娘との会話から着想を得たという『 THE HYDRA AND THE LION 』編なんてのも収録されていて、話のタネはどこにでも転がっているんだなあと思い知らされると同時、それを面白いストーリーに仕立て上げてしまう Mignola の才能に改めて惚れ直してしまう。


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