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ULTRAMEGA (IMAGE/SKYBOUND)

巨大怪獣物とか観た時にこう思ったことはありませんか。

「なんか動き遅くない・・・?」

はい、そんな方に紹介したいのが先月刊行開始となったばかりの新作 ULTRAMEGA です!

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James Harren, Image Comics / Skybound

(追記:えーと、紹介のつもりがかなり中身突っ込んでがっつり語ってしまったのでクライマックスのネタバレなど一部含みます。注意してお読み頂ければ幸いです)

ある日、人々が突如怪獣になり始めた。
家庭で、道端で、店や車の中で。
次々と巨大な異形へ姿を変えてゆく。

無数の文明を滅ぼしてきた末、地球に辿り着いた疫病 THE KAIJU CURSE (怪獣の呪い)に立ち向かうため、謎の存在から力を授かったジェイソンは巨大ヒーロー、ウルトラメガとして戦いの日々へ身を投じる。

だが、その代償はあまりに大きすぎた。

身を引きちぎられ、精神を病み、1人また1人と戦場から脱落していく仲間達。
怪獣になってしまったがためにやむを得ず戦い、命を奪わなければならない元人間たち。

ジェイソン自身もいつまた訪れるともわからない戦いの日々に心身とも疲れ果てていた。

だが今や人類最後の希望となった彼に戦いをやめるという選択肢は最早ない。

生まれたばかりの息子の未来を守るためにも、ジェイソンは今日もウルトラメガに変身する。

彼が過去に犯した過ち、呪いの正体、怪獣が口にする”女王”の存在、そしてウルトラメガの力を授けた存在の真の目的とは・・・?

やがて、自らの血を引く最凶最悪の怪獣が現れた時、ジェイソンの最後の戦いが始まる。


えー、まず最初にみんなが頭の隅で思っているであろうことから。

本作 ULTRAMEGA は円谷プロのパクリではないです!

いや、確かに名前とかシルエットとかは明らかにインスパイアされているんですけれど、実際に中身を読んで頂ければ同じ巨大ヒーロー物といっても仮面ライダーと戦隊モノくらいの差はありますから!頭だってとさかじゃなく角だし!



閑話休題。

まあ、まずはクリエイターのご紹介です。
本作を手がけたのはアーティストとして知られるジェームズ・ハーレン。

過去の代表作としては B.P.R.D.: HELL ON EARTH や、 同作でライティングを手がけたジョン・アルクーディと再び組んだオリジナル作品 RUMBLE など。

激しいアクションやクリーチャーデザインなどに定評がある人物で、カバーイラストなども数多く提供しています。

そんな彼が初めてライティングまで手がけたのが本作。アーティストがライティングを手がける作品って以前は結構博打な作品も少なくなかったんですが、最近はそういった印象が薄れてきましたね。本作もセリフなどに全く違和感がなく引き込まれるストーリーでした。

カラーを担当しているのはデイヴ・スチュアート。先述した B.P.R.D.: HELL ON EARTH や RUMBLE でもハーレンのアートを担当した方です。
この人は数いるコミックのカラーリストの中でもトップクラスの腕の持ち主で、アーティストの絵柄にベストマッチな色を付けてくれます。本作でもハーレンの濃いめのインクを殺さない配色で、カラフルな巨大ヒーローの戦いを描いています。

レタリングを担当しているラス・ウートンも業界内ではかなり名前の知られた方。本作が刊行されている SKYBOUND でロバート・カークマンの INVINCIBLE や WALKING DEAD なども手がけた人物です。ホラーやアクションの経験が豊富な方なので、本作にはうってつけの人材といえます。



さて、最初の動きの話に戻りますと、特撮とかで巨大なヒーローや怪獣を映すために最も重要な要素がサイズ感、そしてそれに付随する重量感だと思います。

この2つはそれぞれ構図と動きで表現する必要があります。

まずサイズ感の話をすると、巨大なものを「体長100メートル」などと数値で示さずに直感的に表現する方法は1つしかありません。

比べることです。

人とか高層ビルとか山とか、そういったものと大小を比べて巨大さを示します。数十階建てのビルと並んで同じくらいの高さであったり、数十キロ近く離れた距離にいるはずなのに遠近法で数メートル先にいる人と同じ丈に見えたり。
そういった比較対象を介すること私達は架空の生物や物体のサイズを理解できるようになるのです。

もっと言えば、その比較対象が身近なものであればあるほど受け手は直感的にサイズを理解できるようになるでしょう。

どの作品とはいいませんが、以前観たある怪獣作品ではるか未来を舞台にしたものがありました。
かなり大きなサイズの怪獣を用意していたようですが、既に人類の文明が失われて久しいという設定だったのでまともな比較対象がなく、宇宙船や標高どれくらいともわからないような山とかばかり。
せめて人物と比較しやすいシーンでもあれば良かったのですが、登場するキャラクターとの差を際立たせるような描写もなく、残念ながらサイズ感が表現しきれていたとは言い難い出来でした。

逆に今や近年における巨大物の代表格となりつつある『進撃の巨人』なんかはこの比較がとても上手だった気がします。
あの作品は遠近法とかを使った構図もそうでしたが、何より「人を食べる巨人」という設定から巨人が人を手で掴んだり口に入れたりというシーンでサイズの圧倒的な差がかなり直接的に効果的に表現されていて、巨人の迫力、ひいてはその怖さというのにも繋がったと思います。



続いて重量感の話です。

のっそのっそと歩いたり、敢えてスローでアクションを見せたり。
ああいった動きはヒーローや怪獣の重量感を伝えるため、ひいては数十トンだとか数百トンだとかの体重を抱えながら動き回れる力強さを表現するための演出です。
二足歩行で疾走するトカゲの映像とかドキュメンタリーでみかけますが、ゴジラがあんな速さで東京を駆け抜けたり、あるいはキングコングが日光猿軍団のような動きでひょいひょい動き回ってはいささか迫力を欠いてしまうでしょう。

重力や空気抵抗を舐めてはいけません。

実在するクジラや象といった比較的大きな動物と比べても、鈍重な動きというのは巨大生物としてリアリティがあります。

最近はかなり表現として発達してきた CG ですが、当初はデータで作る際には存在しない重さの表現にだいぶ苦慮したという話はあちらこちらで見聞きします。
個人的な好みの話をするならば、今も自分は着ぐるみを使った特撮技術を使った映像の方が CG を使ったものよりもこと重さの表現では勝っていると思います。 CG には CG ならではの良さがたくさんあるものの、重さの表現という観点のみでは、まだ若干おしゃれ過ぎる(?)と思うことが少なくありません。いや、あくまでも個人的な好みですが。

さて、話を戻しますが、この重量感を漫画で表現するとなると結構面倒なことになります。なにせ漫画では動きの速度を(連続する)一枚絵で見せる必要があるわけですから。
演出家としての作家の技量が試されてきます。

再び『進撃の巨人』を例としてあげるならこの作品では溜めの演出を用いて重さを魅せます。
衝撃の前に一瞬シーンを止めて、勢いを溜める。そうすることで重力や空気による抵抗を表現すると共に、その次のコマにくる衝撃を増幅させます。
画期的な演出だと思います。

なんにせよ、迫力ある巨大生物にはサイズを比較しやすい構図と、重量感を抵抗で示す動きが必要というわけです。



ただ、欲を言って良いならば・・・もっと激しく動いて欲しい!



さて、これを踏まえた上で本作 ULTRAMEGA です。

まずサイズ感の話ですが、これ怪獣とか絶妙なサイズ感なんですよね。

最初の戦闘シーンでは車がくるぶし程度のサイズなんです。車の高さを大体1.5メートルだとすると、ウルトラメガの高さは10〜15メートルといったところ。4,5階建てのビルとどっこいどっこいといえばイメージしやすいでしょうか。ウルトラマンが40メートルくらいなんで比べるとかなり小さいことがわかると思います。(後の戦闘などを見るに同程度のサイズへのさらなる巨大化は可能なようですが)

このサイズって下手にでかい相手よりかなり怖いと私なんかは思うんですがどうでしょう。

相手にとってこちらが虫みたいなサイズだとしたら、途方もなさすぎて恐怖も鈍るというか、何か小さすぎてワンチャン見逃してもらえるような気がするんですけれど、この場合、明らかな体格差がある一方で、相手にロックオンされてしまえば逃げられない感があります。
食われるとすれば丸のみでなく咀嚼が必要になりそうだし、踏みつけられるにしてもプチンとはいかない。
一番想像が生生しくなるのがこのサイズ。
ホラー的なサイズ感だと思います。

また、サイズの見せ方も上手い。
ハーレンはとにかく動きで見せるアーティストです。
コマの中での出来事ももちろんですが、それを捉えるカメラワークも角度や距離をどんどん変わります。アクションを追いながら、車や人や建物とのサイズ差を際立たせていきます。

さらに二段論法とでもいいますか、車より大きなウルトラメガ、それより大きな高層ビル、それよりさらにでかい怪獣、とヒーローと怪獣を単純に比較するのではなく間間に比較の参考になる身近な物体を挟んで怪獣のデカさとヤバさを引き出します。

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James Harren, Dave Stewart, Image Comics / Skybound

そして重量感の表現もすごい。

上でも述べたようにコミックや漫画という一枚絵の連続では「抵抗感ある」動きというのを直接表現することはできません。動きに伴う重さを間接的に表現する演出が必要となります。

『進撃の巨人』は動きを止めて勢いを溜めるという”静”の表現を使っていましたが、 ULTRAMEGA ではとにかく”動””動””動”です。
ギザギザした線でコマ内を激しく揺さぶり、抜きを意識した動作線や勢いある効果線、あるいは音を表現するためのオノマトペなどといった表現をフル活用して荒々しさとスピードを併せ持つ重厚感を演出しています。

正反対の手法を用いているような両作ですが、静止画だからこその表現を駆使しているという点で共通しています。
こうした表現は映像だと必ずしもうまく働きません。動きや音といった映像ならではの要素がこれらの視覚的効果をぼかしてしまうからです。

また、ハーレンの絵柄の特徴としてインクをぱっと散らしたような飛沫の表現を多用する傾向がありますが、本作においてはことこの飛沫が巨大ヒーローと怪獣との衝突で生じる”反動”を示す標識として働いており、激しいぶつかり合いから発生する重みを表現すると共に、シーンの暴力性を一層際立たせるという二重の効果を発揮しています。
非常に刺激的。



こうした絵的な表現で的確に巨大生物の質感を表現するハーレンですが、これをさらに増幅するのが彼のライティングです。

誇張的な絵で絶妙にリアリスティックな要素を盛り込んでくるんですよ。
巨大なウルトラメガから人間に戻る際に頭だけ縮むのが遅かったり、巨大生物同士の戦いの衝撃波で人々が昏倒してたり。

極めつけはラスト。首を失ったウルトラメガの頭部から流れ出したおびただしい血液で大量の人が溺死し、さらにそれが固まることによって救助が滞る。

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James Harren, Dave Stewart, Rus Wooton, Image Comics / Skybound

痺れます。
海外のサイトで本作をアラン・ムーアの初期代表作 MIRACLEMAN と比較するレビューを見かけましたが、なるほど、この絶妙なフィクションとリアリティのバランス感覚は確かにかの作品に匹敵するレベルだと思いました。



本作 ULTRAMEGA はまだ #1 しか刊行されていませんが、序章となる大増量の本編60ページからは、既に大傑作になる予感がひしひしと伝わってきます。
良い。とても良い。とにかく良い。
アニメや実写では体感できないコミックならではの巨大生物 SF バトルがここにある。

是非是非ご一読を。