日本を代表する怪獣王ゴジラ。
ハリウッド版の映画が作られることからも分かる通り、海外でも大きな人気を誇ります。
人気コンテンツがメディアを跨るのは万国共通。
ゴジラもまた映画のみならず昔から幾度もアメコミ化しています。
それも単純なアダプテーションではなくオリジナル・ストーリー。
1954年に初上陸したゴジラと邂逅した自衛官オータ・ムラカミの半世紀に渡る戦いを描いた GODZILLA: THE HALF-CENTURY WAR も、コミックでしか読むことのできない物語です。
原書: Godzilla: The Half-century War
ストーリーとアートはジェームズ・ストコー。
主にインでペンデント系を活躍の場とし、独学で絵を学んだという彼の絵柄は必ずしもスーパーヒーロー向けとは言い難いものの、ダイナミックな構図や描き込みの細かいことなどから知る人ぞ知るクリエイターとして知られています。
私自身は本作が彼の初作品ですが、 ORC STAIN や WONTON SOUP COLLECTION などの作品紹介はネットで何度か目にし、以前から読みたいと思っていた方。
読む前はスクリーンの銀幕でばかり観ていたゴジラがコミックとしてページの上ではどんな広がり方をするのかについて、特に迫力と、ひいては怪獣に対するアプローチという点について半信半疑だったというのが正直なところです。
特に後者に関しては正直私はハリウッド版での描かれ方があまり好きではなかったので結構不安でした。
・・・が、杞憂でしたね。
まず、ストコーのアートが怪獣ものと抜群に相性が良いんです。
特に描き込みの細かい市街地破壊シーンには特撮と異なる独特の迫力があります。
怪獣同士の戦闘シーンなどについても巨大生物らしい質量感ある戦いが展開される一方で、動物的な瞬発力が垣間見えてはっとさせられることがしばしば。
CGには表現できない深みを醸しています。
ストーリーについても非常に良質。
ゴジラに執念の炎を燃やすムラカミはじめ彼の所属するA.M.F(Anti Megalosaurus Force)の面々にも怪獣達と等しく活躍の場が与えられており、アメコミならではのグローバルなアイデアがふんだんに盛り込まれています。
当初不安だった怪獣に対するアプローチについても申し分なく、ストコーは怪獣について東宝の伝統的なメタファーを継ぐ一方、人間に関しては米国的と言いますか必ずしも日本的ではない独特の精神で描いています。
とりわけムラカミとゴジラの関係性にはちょっと感服してしまいました。
ゴジラが初上陸したのは日本ですが、ゴジラにしてみれば日本はある時点で通り過ぎた場所の1つでしかないのかも、と思うことがあります。
それと同様、ゴジラが生まれたのは確かに日本ですし、あの戦後日本という土壌が生んだ存在であることは間違いないものの、だからといって今やゴジラは日本だけのものではありません。
アメコミでもハリウッド映画でもゴジラが様々な形で世界中に出現することは少なくとも悪いことではと思います。
ただ、強いて言うならば怪獣という呼称に含まれているのは”巨”でも”猛”でもなく”怪”であるということを見落としているクリエイターがあまりに多いかな、という気がしないでもありません。
そんな中、本作は間違いなく”怪”獣を描いたといえるでしょう。