(本記事は2017年に書いた感想記事の改訂版です。いつの間にか引っ込んでいたので手直しして再アップすることにしました)
魔術師アラン・ムーアの描く現代ホラー。
原書版合本(楽天): Alan Moore's Neonomicon ALAN MOORES NEONOMICON ORIGINA [ Alan Moore ]
あらすじ
現場が重なり合うように発生した3つの大量殺人事件。
加害者にも被害者にも一見何の関連もなさそうな事件の繋がりを探るべく捜査に乗り出した FBI 捜査官のアルドー・サックス。
だが、とあるクラブへ潜入したのを最後に連絡が途絶えた彼は後日、他の犯人達と同じく複数の者を猟奇的な方法で殺害し逮捕されてしまう。
彼の捜査を引き継いだブレアズとランパーはサックスが消息を断つ前に接触したとされるドラッグの売人を追うが……。
感想
コミック界屈指のライターであると同時に(ガチの)魔術師としても名を馳せているアラン・ムーアによるクトゥルフ系コズミック・ホラー。
先に断っておくと決して子供向けでもなければ必ずしも万人向けでもありません。
ラヴクラフトの原典に含まれる人種差別的な要素や性に対する嫌悪を正面から描こうとしたという本作。
中々キワドいシーンが結構あります。
アーティストのジェイセン・バロウズは主にホラーを中心に手がけるアーティストで、知る人ぞ知る描き手。
ホラー系のアーティストとして人間クリーチャー問わずグロテスクに描くことができるのは当然ながら、それ以上に感情の描写が実に秀逸です。
物語に翻弄されるキャラクターが時に怯え、時に凶行に走る際の表情がとてもいい。
下手なアクションよりこういう人間の細やかな情動を描く方が難しく、それができる描き手は基本的に何やらせても上手いです。
おそらくホラー以外のあらゆるジャンルでも大活躍することができるであろう御仁です。
(追記:当時こう書きましたが、そのとおり最近は結構マーベルとかでも活躍してます)
ムーアのライティングは相変わらずモノローグが秀逸。
しつこいくらい丁寧なのに、比喩や言い回しが流れるようで飽きさせません。
一度ハマると一語一句呑み込むようにじっくり読みたくなります。
本作も筋は比較的ストレートながら、この言葉のシャワーが施されることでぐっと深みが増している印象です。
あと、オチのつけ方。
2000A.D. などでの執筆経験がある英国出身のライターは全体的にオチの付け方がとても上手い印象なんですが、ムーアはその中でも群を抜いていてストンと落ちる感覚がありますね。
ラヴクラフトの作品群にオカルティストとしてのムーア独自の解釈を加えた本作。
ダークな物語ではあるものの、傑作であることは疑いようがありません。
クトゥルフ好きはもちろんのこと、そうでない人にも読んで欲しい作品です。
それでは本日もよいコミックライフを。