VISUAL BULLETS

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BUTTON MAN: GET HARRY EX

折角 2000AD の話が出たのでおすすめ作品を紹介紹介。

さっきも書いたとおり建前上は ”SF” アンソロジーとなっている本誌ですが、それ以外のジャンルもちょいちょい連載されていまして。

本作 BUTTON MAN も SF というよりはサスペンス・アクション。

異色作として数えられる一方、ブリティッシュコミック全体で見ると屈指の名作として名前を挙げられることも少なくありません。


主人公は元兵士のハリー・エクストン。

かつての同僚に誘われた彼は金持ちの賭けの対象”ボタンマン”として対戦相手と殺し合う裏社会のゲームに参加していたものの、やがて離脱を試みようとするというのが大まかなあらすじです。

現代版グラディエーターものと考えて頂ければ。


ライターはジャッジ・ドレッドを生み出すなど数多くの人気作野心作で英国コミックの一時代を築き上げた名匠ジョン・ワグナー。

アーティストは写実的でどこか懐かしい画風のアーサー・ランソン。

本作の他に先日亡くなったアラン・グラントと手掛けた MAZEWORLD やジャッジ・ドレッドのスピンオフ ANDERSON: PSI DIVISION などが代表作です。

レターは各部別ですが、どれもそれぞれ味があって良い。

個人的には第3部のエリー・デ・ヴィルとか好みです。


本書 GET HARRY EX に収録されている分はメインとなる三部作で、その1つ1つが映画1本に等しい高さの純度を誇ります。

ワグナーのライティングはアクションにしろドラマにしろ、派手なシーンでもどこかそれをちっぽけな物として見るような冷たさがあります。

一方のランソンによるアートも往年のハリウッド映画を思わせるような画風がむしろコミックの特徴である”音”と”動きの不在を際立たせ、独特の緊張感をストーリー全体に張り巡らせています。

そこそこ内容の詰まった本ですが、サクサク読み進めることができ、ブリティッシュ・コミックを読んだことがないという人にもおすすめ。


上でも述べたとおり本書はハリー・エクストンを主役にした三部作を収録していますが、キンドルなどで手に入れる場合は各部別個に購入する必要がある模様(2000ADのアプリなら本書の形で手に入るのかも)。

また、本書の続編番外編的な位置づけとして第4作 THE HITMAN'S DAUGHTER という作品も刊行されており、こちらはアートはランソンでこそないものの、ペンシルにフレイザー・アーヴィング、カラーにフィオナ・ステープルズにと豪華な顔ぶれになっています。