VISUAL BULLETS

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書評: THE WONDERFUL WIZARD OF OZ (MARVEL, 2005)

誰もが知る名作。


Oz: The Wonderful Wizard of Oz

Image Credit: Skottie Young / Marvel Comics



あらすじ

 カンザスの地でおじやおばと共に暮らす少女ドロシーはある日、台風に巻き込まれて家ごと吹き飛ばされてしまう。
 やがて見知らぬ土地で目を覚ました彼女だったが、偶然にも長年住む者達を苦しめてきた東の魔女を殺害したことから、救い主として祭り上げられる。
 戸惑いつつ故郷へ戻りたいと願う彼女は、北の魔女からオズの大魔法使いのことを教えられ、彼のいるエメラルド・シティへ向けて旅立つ。
 愛犬トト、それに道中で出会ったカカシキコリ、それにライオンらと共に彼女は一歩ずつレンガの道を進んでいく。

感想

 別にあらすじ記さなくても良かったんじゃね、と思わないでもなかったフランク・バウムによる世界的児童文学ファンタジーの名作。

 本日ご紹介するのはこれをマーベルがコミックとしてリメイクした1冊。マーベルは一時、色んな名作文学をコミックにアダプテーションしていたような時期があり、確か他にも『鉄仮面の男』とか出してた覚えがある。そんなラインナップの本作は唯一かもしれないヒットというか。


 ライティングを担当するエリック・シュナウワーは本作以前にも数多くのオズ関連作に携わってきた筋金入りのファンであり、語り口やペース配分に原作をしっかり読み込んでいることが窺える。
 個人的には原作も大昔に読んだきりなら流し読みした程度で内容などほとんど頭に残っていなかったのでカカシやキコリの出自、あるいは翼を持つ猿達の呪いに関する話などはむしろ新鮮に読むことができた。


 また本作を語るに忘れてはならないのは、本作が事実上の出世作となったスコッティ・ヤングのペンシルと、ジーン=フランソワ・ボーリューによるカラー。
 
 まず『 VENOM 』『 RUNAWAYS/X-MEN 』の頃のヤングも知っている身としてはデフォルメに磨きがかかったデザインや独特のインク使いなどに彼の飛躍的な技術向上が伺え、大きな驚きであると共に素直に嬉しいし、ボーリューによるカラーも背景に爽やかな印象を与えたり、ちょっとした脇役も軽妙に見せたりととても好印象。ドロシーの表情を追っていくだけでも十分楽しい。


 アダプテーションが単なる表現媒体の置換以上のものであり、そこにはオリジナルへの敬意やメディアに対する理解が要されるのは言うまでもない。その点、本作はそこを十分にクリアしているといえよう。