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アメコミ小話: ハワードはいかにしてマーベルを逃れたか!?

 以前、『 MARVEL COMICS : THE UNTOLD STORY 』のレビュー記事で言及した「ハワード・ザ・ダックが生みの親であるスティーブ・ガーバーの手でマーベル・ユニバースから脱出することに成功した」というエピソードについて、折角なので紹介してみることに。


Howard the Duck (1976-1979) #1

Image Credit: Marvel Comics

HOWARD THE DUCK & STEVE GERBER

 まず、ハワード・ザ・ダックと著作権に関する話はそれだけで1本記事にできてしまうのでここでは割愛する。
 気になる人は「 HOWARD THE DUCK 」でググるなりしてみよう。すぐにドナルド・ダックとの類似騒動も含めて見つけることができる。

 とりあえず人気に火がついたハワードに対してマーベルが映像化するなどしてさらなる利益を追求しようとしたところ、彼を生み出したスティーブ・ガーバーがこれに反発。著作権に関する訴訟を起こすなどして抗ったものの、最終的にマーベルが勝利したということだけ知って頂ければよろしいかと。

最初の叛逆 - 『 DESTROYER DUCK 』

 さて、そんなガーバーがマーベルに対して訴訟を起こそうとしていた際にその費用を捻出する目的で世に送り出したのが『 DESTROYER DUCK 』。あからさまにハワードを意識したアヒルキャラを主役にしたパロディアクション作品である。
 しかもアーティストには当時同じ職場で働いており、同じくマーベル(というかスタン・リー)に対して並々ならぬ反感を抱いていたジャック・カービィ。経緯を説明したところ無報酬で描いてくれたとか。


Destroyer Duck: Twenty-fifth Anniversary Collection

Image Credit: Jack Kirby

『 DESTROYER DUCK 』デュークというアヒルが主人公。退役軍人(鳥)である彼はある日、数年前に目の前から消失してしまった飲み仲間”ザ・リトル・ガイ(または略してTLG、小さい奴)”から突然訪問を受ける。

 どこからともなく出現し、瀕死の重傷を負って倒れたTLGの発言が以下。

"I VANISHED OUTTA THIS WORLD! ... INTO ANOTHER SPACE-TIME CONTINUUM ... WHERE DUCKS CAN'T TALK ... AND PINK PRIMATES CALL ALL THE SHOTS ...I WAS BROKE, STARVING ... I SIGNED ON WITH THIS COMPANY ... ENTERTAINMENT CONCEPTS, LTD! DIVISION OF GODCORP ... THAT WORLD'S BIGGEST CORPORATION ... THEY SAID THEY'D MAKE ME A STAR ... EXPLOIT MY CURIOSITY VALUE ... BUT ALL THEY DID WAS HUMILIATE ME. (著者意訳: 俺はこの世界から消えて…別の時空に辿り着いた…アヒルが喋れず…ピンクの哺乳類が全てを仕切る世界に…俺は金もなく、空腹で…その世界で一番デカイ”ゴッドコープ”という企業の傘下にある”エンターテイメントコンセプツ”というところと契約した…奴らは俺をスターにしてくれると言った…物珍しさを利用するのだと…だが奴らは単に俺を辱めただけだ。)"
(『 DESTROYER DUCK #1 』より)

 死亡した友人を看取ったデュークは人間世界へ渡りゴッドコープに復讐を……という話に繋がるのだがこのTLGというアヒル、上の台詞といい出で立ちといい、どう読んでもハワード・ザ・ダックその人である(ただし後にこの時帰還して死亡したTLGはクローンに過ぎず、本物はまだ人間世界に囚われていることが明らかとなる)。

 だが後に裁判なども済んでマーベルとの関係が一時的に改善したことを受けてガーバーは攻勢を緩めた結果、TLGの名前は”レオナルド”であると明かされ、ハワードとは似て非なる別人とされてしまう。

叛逆再び - 『 SAVAGE DRAGON / DESTROYER DUCK 』

 時は経ち、1996年。スパイダーマンのメインタイトルが「クローンサーガ」により売上が大きく落ち込んでいた頃。
 新たに創刊された『 SPIDER-MAN TEAM-UP 』にテコ入れを図るべく当時マーベルのEICだったボブ・ハラスは担当編集者のトム・ブレブートに当時お蔵入りしていたハワード・ザ・ダックのゲスト出演を指示。

 ブレブートはライター探しに奔走するものの、誰もがガーバーの知らないところでハワードを手がけるのに憂慮を示したという。

 そこでブレブートはおそるおそるガーバーにライティングの打診。すると意外にも相手方は快諾。

 当時イメージのエリック・ラーセンと共にデストロイヤーダックサヴェッジドラゴンのクロスオーバーをすることになっていたガーバーは、さらに企業間クロスオーバーをしてはどうかと提案。イメージとマーベル、それぞれの誌面で同じエピソードを別の角度から描くことで、単独でも読めるものの2冊併せて読めばさらに発見があるような内容にする運びとなった。


 当初何事もなくスムーズに刊行されるかと思っていたこのクロスオーバーはだが、やがてボブ・ハラスが本格的にハワードをマーベル・ユニバースに復帰させようと目論んでいることにガーバーが気付いたことで思わぬ展開を迎える。

 著作権の所在については既に合意したとは謂え、生みの親である自分に何の断りもなくハワードを復活させようとするどころか、あたかも自分もそれをバックアップしているかのような構図を作り出そうとしたことに大激怒。
 
 ブレブートは嫌なら手を引いてくれても構わないと申し出たものの、ガーバーは一度引き受けた仕事だからとそれを固辞する。


 そして刊行された2冊。
 問題のシーンはスパイダーマン/ハワード・ザ・ダック組と、サヴェッジドラゴン/デストロイヤードラゴン組がそれぞれの事件を追っている内に訪れた先の倉庫で邂逅を果たすという場面。

 マーベル側から刊行された『 SPIDER-MAN TEAM-UP #5 』だけを読むと何の問題もなくハワードと相棒のビヴァリー・スウィッツラーが再登場、数コマだけサヴェッジ・ドラゴンとデストロイヤー・ダックが映り込むという良くも悪くも無難なクロスオーバーに見えた。


Spider-Man Team-Up (1995-1997) #5

Image Credit: Marvel Comics

 …が、ガーバーの意趣返しが明らかとなったのはそのもう片方のクロスオーバー『 SAVAGE DRAGON / DESTROYER DUCK 』においてであった。

 問題の倉庫でヒーロー達と遭遇したヴィランエルフ・ウィズ・ア・ガンは撹乱のため魔法で大量のアヒルを生成。混戦の中、デストロイヤーダックらは群れから1匹のアヒルと1人の女性を抱えて現場を逃れる。

 抱えられた者達は顔こそ見えないものの、着ているものや髪の毛からハワードとビヴァリーであることは明らか。

 その際のデストロイヤーダックの発言がこちら。

”THEY HAVEN'T GOT ANY FRIENDS OVER THERE! THEY'RE COMIN' WITH US! ANYHOW, ONE OF THE CLONES RAN OUT THAT WAY, THEY'LL NEVER KNOW THE DIFFERENCE!(著者意訳: あっち側にこいつらの友人なんていない!こっちへ連れてくるんだ!どっちにしろ、クローンの1つがあっち側に走ってったから奴らに違いなんて分かりゃしない!)"
(『 SAVAGE DRAGON / DESTROYER DUCK 』より)

 その後、2人はドラゴンらの計らいによりレオナルドロンダという新たな名前と容姿を手に入れ、ゴッドコープ(=マーベル)の舞台から遠く離れた場所へ……。

 終いにはダメ押しとばかりにガーバーは本書に1976年の『 HOWARD THE DUCK #1 』そっくりな『 LEONARD THE DUCK #1 』のカバー画像をピンナップとして掲載(ハワードの新たな名がかつて明かされたTLGの本名と同じこと自体も偶然ではないだろう)。

 こうして長らくマーベル・ユニバースに囚われていたハワードとビヴァリーは無事脱出し、以来マーベルでハワード・ザ・ダックとして活躍するのは似て非なるクローンという既成事実が生まれたのである。


 無論、『 SAVAGE DRAGON / DESTROYER DUCK 』を読んだブレブートは怒り心頭。せめてもの救いは本書の売上が芳しく無く、ファンにほとんど周知されなかったことだとか。


 クリエイターが企業に反旗を翻して勝利した、知る人ぞ知るエピソードである。


 なお、その後マーベルとガーバーの関係は再び改善したのか、ガーバーは2001年に再び『 HOWARD THE DUCK 』のミニシリーズを手がけている(かなり攻めた内容だったけれど)。

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