Vision: Director's Cut (2017) #1 (of 6)(キンドル分冊)
家族を持ったピノキオの悲劇。
あらすじ
Ultron の手により Avengers を倒すため生み出されながら、スーパーヒーローとして生きることを選んだ Vision 。ある時、自分や友人の脳波を元に家族を作り出した彼はヴァージニア州の閑静な住宅街に引っ越してくる。妻の Virginia 、娘の Viv 、息子の Vin と新たな生活を送り始めた彼だが、平穏な日々は長く続かなかった…。
”普通”を望んだスーパーヒーローの悲劇
この作品はスーパーヒーロー作品である。
主人公の Vision は本作の大半をマントではなくワイシャツにネクタイという出で立ちで過ごす。物語の主な舞台は彼と彼の家族が住む一軒家とその近所だ。スーパーヴィランと拳を交わす描写もほぼない。
それでも本作は紛れもないスーパーヒーロー作品だ。
本作のライティングを担当している Tom King は A ONCE CROWDED SKY という小説作品でデビューしており、その作品の主人公もアンドロイド系のスーパーヒーローだった。本作への抜擢は納得の人選と言えるだろう。 Scott Snyder の時もそうだったが、 Marvel はどうも他分野出身のライターを引き入れる際にはまずそういった過去の著作と共通項のある作品をあてがう傾向があるようだ(ただし King は本作を担当した時点で既に DC からいくつかの作品を発表している)。
本作は一般的にイメージされるようなスーパーヒーロー系作品とはかなり趣を異にする。どちらかといえばホームドラマと呼んだほうがしっくり来るかもしれない。
だがある意味でこの作品は下手に Avengers が Loki だの Khan だのに立ち向かう話なんかよりもはるかに緊張感がある。
Vision は生まれたときから特殊な存在でありながら”普通”を望んだ。そしてそれを手に入れるために家族を作り、住宅街に引っ越し、平穏な生活を手に入れようとした。
だが結局のところそれは丸いものを四角い容れ物に収めようとする行為に等しい。遅かれ早かれ破綻することは明らかだ。
ある日、スーパーヴィランの襲撃をきっかけにして Vision の描いた”理想の家庭”はみるみる崩壊していく。彼はそれを必死に食い止めようとするものの、崩れ落ちた日常は彼の指の間をすり抜けていく。そして一度抜け落ちた水は二度と盆の中に帰らない。
Vision の悲劇は現代のピノキオとでもいうべき彼が”普通”を望んでしまったことに起因する。そんなもの存在しないのだということに気づけないまま、その曖昧模糊な理想を守るスーパーヒーローになってしまったことだ。
スーパーヒーローとはいかなる存在かと尋ねられれば、日常を守る存在だと答える者は多いだろう。
Vision にとっては、まさにそんな「日常を守るヒーロー」になってしまったことこそが破滅を引き起こしてしまったといえる。
愛する者を守ろうとした超人の悲劇を描いた本作は紛れもないスーパーヒーロー作品である。
こんな人にオススメ
・いつもと違うスーパーヒーロー作品を読みたい。
・小説のようなコミックを読んでみたい。
・ SF 悲劇を読みたい。
Vision: Director's Cut (2017) #2 (of 6)
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