現職 NY 市長は、元スーパーヒーロー。
1999年、当時土木技術者だった Mitchell Hundred はブルックリン橋の下で謎の爆発に巻き込まれて、それ以来あらゆる機械を自由に操る能力を得る。
2001年、 Mitchell はスーパーヒーロー The Great Machine としての活動を辞め、 NY 市長選に出馬することを決める。
2002年、政界に翻弄される Mitchell だが、そんな彼をよそに街では不可思議な事件が起こり始める。
そして現在、打ちひしがれた彼は静かに自らの過去について語り始める…。
かつてスーパーヒーローとして街を守っていた男が、今度は政治家として街のために尽力するという異色の物語。先日英語の勉強になりそうな作品として紹介するべく本棚から引っ張り出してきたのを機に読み直すことに。
ライターは打てば響くというトップクリエイター Brian K. Vaughan 、アーティストは DC の STARMAN などで知られる Tony Harris 。彼のリアル調な筆致が、 Tom Feister による濃いめのインクや JD Mettler による色の境界がはっきりしたカラーによって、やや古風なグラフィック・アートみたいになっているのは中々面白い。
さて、本作の魅力は何と言ってもスーパーヒーロー物と政治ドラマという、実際に読んでみるまではちょっとどうなるか想像できないジャンルの組み合わせだ。
これまでもスーパーヒーロー物に政治ネタを絡めるという例では WATCHMEN や CIVIL WAR などといった作品があったものの、本作はそういったスパイス感覚で他ジャンルを含めているのとは異なり、がっつりと組み合う形で2つのジャンルが融合している。
Vaughan はそれまでも政治的社会的要素をちょいちょい作品内に盛り込んでおり、 RUNAWAYS では当時珍しかった同性愛を描いたり、 SWAMP THING でもエコロジー思想を前面に出していたりしていたため、本作のような作品をやるのはある意味自然な流れだったのかも知れない。
とはいうものの、上にあげた先駆者達の例を見ても分かる通り、スーパーヒーローと政治とは基本的に相容れない関係にある。そりゃそうだ。まともに考えればヴィジランティズムは違法な活動であり、秩序を守る者達にとっては目の上のたんこぶでしかない(逆を返すと業界に氾濫している多くのスーパーヒーロー物はそこらへんをなあなあにしているということでもある)。
本作もその点には十分留意しており、 Vaughan は時系列を交錯させることでスーパーヒーロー The Great Machine の活躍と政治家 Mitchell Hundred の活動を両立させていると同時、過去の何気ない出来事が現在の彼を少しずつ追い詰めていく過程を描くことで少しずつ物語の緊張感を高めている。
彼の非常によく練り込まれたストーリーには改めて驚かされる。
政治ネタの英語を学びたい人、一風変わったスーパーヒーロー物、あるいは政治ドラマを読みたい人、純粋に面白い作品を読みたい人まで幅広い読者にオススメできる作品だ。
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