アメリカン・コミックス — その幕開け。
Life, in Pictures: Autobiographical Stories
1930年代の米国。コミック作家としての成功を夢見る若き青年 Billy は時にその才能を買われ、時に自ら売り込みに行くなどしながら少しずつキャリアを積み上げていく。だがようやく新聞のページから独立しつつあるばかりだったコミック産業は必ずしも理想通りではなく、戸惑うこともしばしば。生計を立てるために稼ぎの良さを取るか、あるいは少しでも夢の実現に近づける方を取るか、選択を迫られることも少なくない。家族や友人に囲まれ、成功を夢見る Biilie は今日も絵を描き続ける。
しばしば子供向けと揶揄されがちだったコミックに” Graphic Novels ”という新たな通称を与えて大人の鑑賞にも耐えうる媒体へ仕立て上げた立役者であると同時、後世のクリエイター達の育成にも尽力した巨匠 Will Eisner 。 Neil Gaiman や Darick Robertson など、ライターアーティスト問わず数多くのクリエイターに影響を与え、今もアメリカン・コミックス産業に大きな影を落とす彼の半自伝的な物語の数々が収録されている合本 LIFE, IN PICTURES 。こちらをこの度入手したので、今回から何回かにわけて収録されている長編を中心に扱ってみようかと。
まず今回は1930年代を舞台に駆け出しのカートゥニストとして活躍し始めた主人公の姿を通して、当時黎明期にあったコミック産業を浮き彫りにする本作 THE DREAMER をご紹介。
物語として面白いことはもちろんのこと、 Eisne r自身をモデルとした主人公を始め、若き日の Bill Finger や Jack Kirby といった伝説的クリエイター達そのまんまな人物たちが(名前こそ変えてあるものの)次々と登場し、まだ産業として勃興しつつある段階だったコミック業界の姿を見ることのできる資料としても興味深い。
こういったクリエイターの大家はしばしば神格化されて語られがちなので(それだけの功績を残していることは間違いないものの)、こうして例えば Kirby などがブロンクス出身の血気盛んな青年として生き生きしているのを見られるのは何気に嬉しい。
夢を見ることは誰もがするものの、夢に向かって行動する者はほんの一握り。当然だ。誰だって失敗するのは怖いし、夢が現実となってから裏切りに遭うことだってある。私もかつて現実となった夢に辛酸を舐めさせられた。
それでも人は生きている限り夢を見ることをやめられない。そして同じ夢を見続けていれば、それやがて私達に再び立ち上がる勇気を持つよう鼓舞し始める。
そんな自分自身への期待に応えられるのは自分だけだ。
夢と、夢に応えようとする己がある限り、道はやがて拓けてくる。
本作からはそんな勇気を貰えたような気がした。