普段ここで紹介している作品とは少々趣向の異なる作品。
お調子者で女好きな猫の青年 Fritz 。友人や恋人らに囲まれて貧しくも充実した大学生活を送る彼は時として芸術に目覚め、時として社会に憤り、時に行きずりの女性と恋に落ちる。そんな彼の自由気ままなドタバタ青春コメディが描かれる。
いわゆる Comix と呼ばれるアングラなジャンルの代表的作品。一般的な Marvel だの DC だの Image だのとはほぼ接点がないので初めて見る人にしてみれば下書き無しでそのままペンを入れたようなアートも含めて「なんじゃこりゃ」な感が否めないかもしれないが、これも立派なアメコミの1つ。
そんな私も平素からこういうのをモリモリ読んでいるかと言われればそういうわけでもなく。元々は Ralph Bakshi によるカートゥーン映画版『 FRITZ THE CAT 』を狙っていたものの DVD が入手困難だと知りモヤモヤしていたところをその原作コミックが収録されている本作を発見し購入したという次第。中途半端に3巻なんて買ってるのもそのため。今回これを読んで他の巻にも手を出そうかと思ってはいるけれど。
馴染みがないジャンルとは謂え FRITZ THE CAT に関してだけ言えば何年か前に邦訳版が刊行されていた覚えもあるし、そうでなくとも Comix ジャンルの第1人者である Robert Crumb の名はかなり有名なので聞いたことのある人も多いのじゃなかろか。
内容的なことに関して言えば上記 FRITZ THE CAT を主役にした(といっても時にセールスマンやって時にスパイやってと色々だけど)コミック作品を中心に、他にも同人誌として刊行したと思しきイラストや終いにはジョーク入りのバースデーカードのようなものまで” COMPLETE ”の名に恥じない充実した中身になっている。
1960年代から70年代にかけてのアメリカン・コメディの何たるかについて触れてみたいと思うような方がいれば是非とも手に取って頂ければ得るものは大きいだろう。個人的にはバースデーカードのパンチラインとか結構勉強になった。
またコミック、特に Fritz The Cat を主役としたコミックに焦点を絞ると、 Fritz をはじめとした2等身の擬人化アニマル達によるブラックコメディが非常に痛快。
どこぞのフレンズみたいな耳を生やしているからと言って騙されてはいけない。大麻もすればお風呂で乱交なんてのもして、やっていることは刊行当時におけるアメリカのヒッピーそのものだ。人間でやればかなりどぎつい印象を受けてしまいそうな描写も動物にしてしまえばどこかあどけない感じになるあたり、あらためて擬人化の効果を見せつけられた。
普段手に取るようなコミックはやもすると劇的な展開に次ぐ劇的な展開でジェットコースターのようだが、そういうのとは打って変わって本作のようなオチらしいオチのない漫然とした作品というのも大切にしなければならないなと確認する契機となった。
いや、全く良い買い物をした。