VISUAL BULLETS

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『THE PUNISHER: WELCOME BACK, FRANK』(Marvel, 2000-01)

 騎士と義賊。
 ”スーパーヒーロー”が現代の騎士ならば、現代の義賊は”ヴィジランテ”といえよう。
 両者は時に交錯することはあれど、根本的に異なる存在だ。義賊の行為は時として騎士に受け入れ難く、騎士の誉れなど義賊には鼠の小便ほどの価値も持たない。
 単に適材適所というだけの話だ。


分冊キンドル版(Amazon): The Punisher (2000-2001) #12

 
 Frank Castle a.k.a The Punisherがニューヨークの摩天楼に帰ってきた。手始めにMa Gnucci率いるギャング一味に狙いを定めた彼は瞬く間に彼女の部下達を血祭りに上げていく。怒り狂うMa Gnucciが次々と刺客を差し向ける一方、N.Y.P.Dは落ちこぼれのSoapを(たった1人の)対策本部長に任命する。その頃、街の方々でPunisherの行動にインスパイアされたヴィジランテが現れ始め…。

 はい、そんなわけで再び”Marvel Knights”レーベル。今回はGarth EnnisとSteve Dillon、それにJimmy Palmiottiによる『THE PUNISHER: WELCOME BACK, FRANK』です。
 調べてみると、実は”MK”レーベルでPunisherを扱うのはこれが2度目らしく、これより少し前の1998年から99年にかけて同レーベルから『THE PUNISHER: PURGATORY』という作品が刊行されているものの、これは冥府の使いとなったPunisherがスーパーナチュラルな化け物どもを退治していくという明後日の方向を向いた作品だったよう。
 実際に手に取ったことがないのでここで事実以上の言及は避けるものの、まあ少なくとも積極的に手に入れたくなるようなものではないかと。


分冊キンドル版(Amazon): The Punisher (2000-2001) #3

 話題を本作に戻すと、やはり触れておかなければならないのは2016年の10月に亡くなったばかりのSteve Dillonによるアートだろう。
 彼のアートについて語ることは難しい。恥ずかしながら私は彼のアートの良さを呑み込むのに少々手間取ってしまった。彼の絵柄は例えばAlex RossであったりJockであったりといった一枚絵を見てその魅力を直感出来る類の絵とは異なるように思う。アクションシーンにしても決して派手ではないし、Punisherが建物の屋上に佇む姿にしても”ヒーロー”といった感じはしない。それを証明するように本作のカバーを描いているのはTim Bradstreetであり、Dillonはあくまでインテリアに徹している。

 彼の絵柄はむしろそういった見栄えの良いシーンよりも、会話であったり会議であったりといった日常的な風景において魅力を放つ。Frankと同じアパートに住むJoanが不安そうに下唇を噛むところや、Ma Gnucciに叱られる悪漢共の気まずい汗、あるいはただ他愛のない会話を車の中で繰り広げるSoapと一緒に行動するMollyのつまらなさそうな表情など、ともすると一見つまらなさそうなシーンでこそDillonのアートは見る者の眼を惹き付ける。

 特に歯だ。冗談抜きでDillonの描くキャラクターは歯の見せ方が非常に上手い。激高してひん剥かれる歯からぼんやりと半開きになった口から覗く歯まで、「目は口ほどに物を言う」というが彼のアートに関して言えば「歯こそ口ほどに物を言う」と言っても過言ではない。
 個人的には彼の描く人物が怒りを抑えるように歯を食いしばった時と、不敵な笑みを浮かべて歯を覗かせた時がとりわけ好き。

 Dillonの描くPunisherはコテコテと装飾が施された所謂”スーパーヒーロー”ではない。サイファイな武器やつるりと形の良い筋肉を全て削ぎ落とした、1人の男である。
 その魅力に気付くことこそ遅れたが、一度呑み込まれたが最後、Dillonの絵は私の心をがっちり捉えて離さない。
 私はこれからもずっと彼の絵に魅了され続けることだろう。

 Steve Dillonの絵と出会えた僥倖に感謝すると共に、彼の冥福を祈りたい。


原書合本版(Amazon): The Punisher: Welcome Back, Frank