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『THE DEMON VOL.1: HELL’S HITMAN』 (DC, 1993-94)

 台詞のほぼ全てが押韻でなければならないというライター泣かせの悪魔っ子登場。


原書合本版(Amazon): The Demon: Hell's Hitman

 太古の昔にとある魔術師の手によって人間 Jason Blood と融合させられた悪魔 Etrigan — 現代のGothamに蘇った2人で1人の彼らは夜な夜な街へ繰り出しては罪人を苛烈に裁く毎日を過ごしていた。そんなある日、Etriganのもとへ2人の天使がやってきて、彼に対し地獄から脱走した者達を殲滅する使いとなることを命じる。さらなる暴力の予感に狂喜乱舞するEtrigan — だが、Bloodにとってそれは永遠に続く刑の宣告に等しかった……。

New52開始時:「んー、この『ALL-STAR SECTION EIGHT』ってなんだろー?」→「ああ、『HITMAN』のスピンオフなのか。そういやこれ聞いたことあるけど読んだことないなー。」→「ああ、何。『HITMAN』も『THE DEMON』のスピンオフなのかー。」
 はい、そんなわけで現在に至ります故『HITMAN』が邦訳版とか刊行されて話題になっているのは重々承知なものの、私はまだその辺りの話ができません。Hitman自体ここでもまだ2、3話しか登場してないしね。悪しからず。
 
 あらすじを見れば勘の良い方はわかる通り、本世界観の地獄はどうやら2人の天使が統べているようなのでレーベルは無印DCながらNeil Gaimanの『SANDMAN』の設定を引き継いでおり初期Vertigoレーベルのような感覚で扱った方が適当かと。

 クリエイターは(多分『HITMAN』とかと同じ)ライターGarth EnnisとアーティストJohn McCrea。この2人はデビューしたての頃からの付き合いなので本作執筆時点で既に呼吸が合っているのか、シリーズ開始直後によくあるアートのブレみたいのがほとんど見られませんね。

 個人的に好きなのはHaunted Tankが出てくる『HAUNTED GLORY』編。Garth Ennisといえば今もAvatarで『WAR STORIES』なんかの戦争物を数多く手がけていることからもわかる通り、自他ともに認める筋金入りのミリオタ。とりわけ第2次世界大戦に関する造詣はアメコミ界でも随一で、その辺りにまつわる話を書かせればまず右に出るものはいない。
 一方、Haunted TankはDCの戦争物を代表するキャラクター(と呼んで良いのかわからないけれど)であるものの「米国南北戦争で命を落とした将軍の亡霊が乗り移った第2次世界大戦の戦車」という少々トリッキーな設定。リアル過ぎてもカートゥーン過ぎてもいけないこいつをどう扱うのかはクリエイターの腕の見せどころといえる。

 結果を言ってしまえば、いや大したものでしたと。Ennisのライティングも勿論だけれど、McCreaのアートがまた良い動きを出してる。戦車同士の戦いが単に派手なだけでなく、どこかコミカルでもあり、さらに「勝った!万歳!」で終わらない余韻をしっかり残している。騎馬に跨る将軍にも違和感を抱かない。

 余談ですが敵のゾンビナチス軍を率いる敵将が戦車に前進するようかけ声を放つ場面で、とっさに茨城県大洗町にあるどこぞの高校を思い出してしまったのが私です。「『パンツァー・フォー!』ってそういう意味なんですね、西住殿……!(今更)」

『HAUNTED GLORY』の話が単なる戦争エンターテイメントで終わらないように、本作は全体として暴力に満ちた作品ではあるものの決してバイオレンスのみを誇示するような作品ではない。本作のように暴力を娯楽として扱うことと、数ある作品のように暴力の娯楽性のみを扱うことは似て非なるものだ。
 Vol.2を読むに当たってはその辺りにもう少し注目してみようか。