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I HATE FAIRYLAND VOL.2: FLUFF MY LIFE (IMAGE, 2016)


I Hate Fairyland #6

 見た目は子供、頭脳は大人なGert姐さんの血と爆煙に満ちた迷走録第2巻。

 ファンタジー世界Fairylandの女王Cloudiaを殺害したばかりに自分の世界へ帰れなくなったどころか、新たな女王の座に君臨させられたGert。書類に判を押したり、各地の行事に出席したり…退屈な職務にうんざりな毎日を送っていた彼女だが、一方で相変わらず様々な方法で破壊の連鎖を生んでいた。やがて我慢ならなくなったFairylandの住人達が彼女に反旗を翻すようになると、Gertはハエの相棒Larryと王宮に籠城するが…。


 前巻、後少しで元の世界に帰れるところ自ら墓穴を掘り失敗。本巻はそれからしばらく経って彼女が女王の座に着いているところから始まる。
 支配者になった暁には、自らは後方で指揮を取り、実際の破壊は部下共に任せ…などといったことはあまりなく。彼女自身が行く先々で阿鼻叫喚地獄を呼ぶという相変わらずのフルスロットル。悪気がないこともあるからなおさらタチが悪い(いいぞ、もっとやれ)。

 クリエイターはストーリーとペンシルにSkottie Young、カラーにJean-Francois Beaulieu, レタリング等にNate Piekosと前巻とほぼ同じの少数精鋭。ただし、第8章の一部にJeffrey "Chamba" Cruzのアートが入る。Cruzの描くアーケードゲーム内の世界はかなり日本の漫画に絵柄が近く、Gertのデザインなど好きな人は好きかもしれない。

 ストーリーに関して言えば、相変わらずこのテンポの良さは心地いい。1ページ単位で何かしらの進展があり、他のコミックなら3,4冊かけそうなストーリーも1話完結になるようぎゅっと内容を凝縮している(女王編がこれほど早く終わるとは思わなかった)。スピーディーな展開のためにジョークにはキレがあり、しかし溢れかえるバイオレンス描写に鬱陶しさは感じられない。何気に工夫が凝らされており、学ぶところが多い。

 また、前巻ではYoungが本シリーズ以前に取り組んでいたOZシリーズ等のファンタジー作品のパロディという趣が強かったのに対し、今回はアーケードゲームあり、モンスターホラーあり、ディストピアからのタイムトラベルありと扱う範囲をギークカルチャー全体に広げている。
 
 本作は突き詰めればパロディ系作品に含まれるのだろうが、この手の作品に大抵ついて回る「ディスる側の胡散臭さ」といった雰囲気は感じられない。というか、主人公であるGertをはじめとした強烈な個性を放つキャラクターと世界観によりほぼかき消されている。Youngの絵面が特徴的であるためにパロディでもオリジナリティが醸し出されているというのもあるのかもしれない。

 何にせよ、ごちゃごちゃ考えずに読める上、何度も読んでも面白いクオリティの高さを誇るコメディであることは間違いない。


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I Hate Fairyland 2: Fluff My Life





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