90年代に産み落とされたキャラとしては最大手と言えるのではないでしょうか、黒きパラサイトな隣人Venomさん。Spider-manの強敵としてNYを跳び回るのがもっぱらな彼がALIENとかの系譜を汲むモンスター・ホラーの悪役になったらどうなるかというコンセプトの作品。
結果から言ってしまえば全く違和感なかったよ、と。
原書合本版(Amazon): Venom Vol. 1: Shiver (Venom (2003-2004))
カナダ北部。北極圏に位置する米軍施設で通信士を務めるRobertsonは、近所にある企業研究施設を訪れたところ、その内部で研究員達が無残な形で殺害されているのを発見する。唯一の生存者を発見した彼女はその男を基地へ連れ戻すが、彼女はまだ知らなかった。自分の後に黒い影がついてきていることを……。
念のため先に言っておくと、続刊はともかく本巻Vol.1においてだとVenom以外Marvel要素は見事なほど皆無です。共生体のオリジナル保有者だったSpider-manも一切姿を見せなければ、S.H.I.E.L.D.やA.I.M.みたいな組織が出てくることもなく。カナダだからといってAlpha Flightが登場するわけでもなけりゃ、終いにはEddie Brockに関する言及さえありません。ほんとにVenomというキャラクターだけを引っこ抜いてハリウッド・ホラーにした感じ。既にシリーズ全てを読んでいる身から言うとそういうのはVol.2以降でドカドカやるんで。
ライターは他にもDeadpoolやThunderboltsなど、Venomと同じく90年代生まれなキャラやチームを数多く扱っているDaniel Way。
インテリア・アートのFrancisco Herreraはメジャーな仕事に携わってこそいないものの、その独特なカートゥーン調のアートで細く長く確実に生き残ってきたアーティスト。個人的には昔、SPECTACULAR SPIDER-MANが創刊された時に彼のカバー・アートを見た時もそのVenomに心を射止められたのを覚えています。本作でも一見Hulkなどのようにかなりずんぐりした体型である一方、その共生体の性質から様々な形状に変化可能というこのキャラクターのトリッキーさを活かしたアートを見ることができる。
アートで忘れてはならないのがカバーを担当しているSam Keith。自らがライターも担当したオリジナル作品THE MAXXが代表作な彼は時折DCでBatmanを描いたりMarvelでSpider-manを描いたりしているが、そのストリート・アートを思わせるパンクな絵柄で読者に強烈な印象を残してきた。本巻の合本カバーにもなっている#1のカバーは獰猛なVenomの本体とその体躯を狂ったように取り巻く長い舌が非常に印象的で、今もってVenomを紹介する記事などでしょっちゅう引用される代表的アートとなっている。
分冊キンドル版(Amazon): Venom (2003-2004) #4
上でも記した通り、本巻は「女性主人公がVenomから逃げつつ立ち向かう」というハリウッド映画でよくあるモンスター・ホラーをストレートにやった内容。これまでのVenomを覆すようなあっと驚く暴露もなければこれといったプロットの捻りも特に見当たらない。しかしVenomの様子が何やらおかしいことやら虚ろな眼孔から小型ロボットが出入りする謎の黒服エージェントなど、後の展開に向けた伏線がしっかり張り巡らされているといった印象を受けた。
今後主人公のRobertsonや黒服のエージェント、騒動の元凶となった研究施設などVenomを巡って一筋縄でいかない物語が展開することを期待したい。
……のはやまやまなんだけれど、申し訳ありません。実は私、Vol.2は読んだけど訳あって手元にない状態でして。何で次に紹介する時はVol.3になるかと思われます。悪しからず。