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遂にDCデビュー!……で、ブライアン・マイケル・ベンディスって誰?

BENDIS IS COMING!

「……”べんでぃす”って?」

 昨年11月にDCへの電撃移籍を発表したライター、 Brian Michael Bendis
 彼の移籍デビュー作となる『 MAN OF STEEL 』がいよいよ刊行間近となる中、だが一方で彼の名前は知っていても具体的にどうすごい人物なのかいまいちピンとこないという方もいるのではないだろうか。特に MCU を入り口にしてコミックを読み始めた作品の読者なんかは、既にその頃人気に陰りが見え始めていたこともあり、案外悪いイメージしかないという方もいるかもしれない。

 今回はそんな最近の読者向けに彼の魅力を時系列を追う形で解説みると共に、その作風などについても解説してみよう。

デビュー初期: CALIBER ~ IMAGE 時代

 今でこそライターとして知られている Brian Michael Bendis だが、駆け出しの頃はアーティストとしてローカル・マガジンや風刺漫画などを手がけていた(あまり好きではなかったとか)。
 やがてそれなりに資金が集まったところで CALIBER COMICS へやって来た彼は、93年にスパイ・スリラー『 FIRE 』で本格デビュー、続く94年にはノワール系サスペンス『 A.K.A. GOLDFISH 』を出版。

 さらにその後、 IMAGE にやって来た彼は上に挙げた2作と同じ世界観で『 JINX 』『 TORSO 』など後に初期代表作と呼ばれるようになりクライムフィクションを続々発表。
 ノワールコミックの名手 Matt Wagner などから称賛を受けるに至り、彼の名は徐々に業界内に広まっていく。


Brian Michael Bendis: Crime Noir Omnibus

 またこの時期には IMAGE の代表的ダークヒーロー物『 SPAWN 』のスピンオフとなる『 SAM AND TWITCH 』、それにスーパーヒーローが跋扈する世界で超人関連の事件を専門的に捜査する刑事2人の活躍を描いたオリジナル作品『 POWERS 』なども発表。とりわけ後者は版元を変えながら現在まで続く人気シリーズとなる。

MARVEL時代①『 ULTIMATE SPIDER-MAN 』

 さて、この頃経営破綻からの立て直し真っ最中だったのがご存知マーベル・コミックス。
  Bendis の作品はそこで「 MARVEL KNIGHTS 」と呼ばれる作品群を統括していたアーティスト(後に編集長に就任した) Joe Quesada の目に留まり、彼はマーベルに勧誘される。
 この時企画していたニック・フューリーの企画は結局没となってしまったものの、 Bendis は Quesada が携わっていた別のラインナップから刊行が予定されていたある作品のライターに抜擢される。

 その作品こそ『 ULTIMATE SPIDER-MAN 』だ。


Ultimate Spider-Man (2000-2009) #2

 ファンタスティック・フォーが初めて誌面に登場してから既に40年。長い歴史の中で複雑に絡まり、また設定が時代に沿わなくなってしまったマーベル・ユニバースを現代風にアップデートしようという意図で始まったアルティメット・ユニバース
  Bendis はそこでマーベル随一のキャラクター、ピーター・パーカー=スパイダーマンの新たなる物語を担当することになったのである。
 
 大役を任された彼が手始めに『 AMAZING FANTASY #15 』で僅か11ページだった物語を7号にまたがるストーリーとして紡ぎ直したところ、これが予想を超える大ヒット(当時2人の息子に「ベンおじさんを殺さないで」と涙ながらにせがまれたとか)。同ラインナップの『 ULTIMATES 』などと共にアルティメット・マーベルの成功をもたらすと同時、彼の名声を爆発的に高めた。
 ちなみにこの時タッグを組んだアーティスト Mark Bagley とのコンビは Bagley が離脱する#111まで一貫して続き、それまで Stan Lee Jack Kirby が保持していた連載タッグの長寿記録を塗り替えている。

 『 ULTIMATE SPIDER-MAN 』はその後マーベル・ユニバースの正史とは異なる独自のストーリーを展開、他のアルティメット系ラインナップが5年かそこらで人気が低迷したのに対して(多少名前を変えながら)#160まで続くロングランを記録した。
 また、最終号で主人公のピーター・パーカーが死亡し、次シリーズ『 ULTIMATE COMICS: SPIDER-MAN 』で新たに黒人の少年マイルス・モラレスがスパイダーマンのスーツを受け継ぐという展開はちょっとした社会現象にもなった。


Ultimate Comics Spider-Man (2011-2013) #1

 その後もアルティメット版スパイダーマンは正史のマーベル・ユニバースに組み込まれたりしつつ15年以上に渡って Bendis の手で描かれ続けることとなり、現在に至る。

 また彼は『 ULTIMATE SPIDER-MAN 』を連載する傍ら、『 DAREDEVIL 』『 ALIAS 』などのストリート系ヒーロー作品も担当。オリジナル作品で鍛え上げたクライムフィクションの持ち味を取り入れたこれらの作品はファンの心を鷲掴みにし、特にそれまでB級ヒーローという印象があったデアデビルの人気を飛躍的に高めた。
 おそらくこの頃の彼の作品群が存在しなければ、現在 NETFLIX から配信されている MCU 系ドラマの大半は存在していなかっただろう。


Daredevil by Brian Michael Bendis & Alex Maleev Ultimate Collection - Book 1

マーベル時代②『 NEW AVENGERS 』

 さて、どんどん名声を高めた Brian Michael Bendis は2004年に地上最強のチームの活躍を描く『 AVENGERS 』のメインライターに就任する。

 …が、これがとんでもない問題作。


Avengers (1998-2004) (#85) #500

 なんと彼は着任早々の#500『 AVENGERS: DISASSEMBLED 』というストーリーを展開。
 死亡した筈のジャック・オブ・ハーツによる自爆テロでアントマンが死亡、暴走したヴィジョンはクインジェットでアベンジャーズマンションに特攻した後、同じく操られて理性を失ったシー・ハルクによって真っ二つにされ、ホークアイまで戦死、終いに全ての元凶は正気を失ったスカーレット・ウィッチ……という悲惨極まりない解散劇でシリーズを一度終了させてしまう。

 無論、この極悪非道なストーリーはファンの間で大きな話題を呼び、今でも賛否両論のエピソードとして伝えられている(おそらく Bendis に対するアンチが生まれ始めたのもこの頃)

 その後Bendisは新たにウルヴァリンやスパイダーマンといったメンバーを加えた新生アベンジャーズの活躍を描く『 NEW AVENGERS 』を開始。『 HOUSE OF M 』『 SECRET INVASION 』などマーベル・ユニバース全体を巻き込むイベントと直接関わる派手な展開や、その一方でそれまでアベンジャーズのようなチームとは縁の薄かったルーク・ケイジのようなキャラクターにスポットライトを当てるなどしたことが好評を博した。
 同シリーズが一旦終了する2009年までの5年間は彼がマーベル・ユニバースをコントロールしていたと言っても過言ではない。

 だが2010年代に入った頃から自由な作品作りを許されるようになった Bendis のマーベル内における待遇に反して、ファンからの風当たりは徐々に強まってくる。
 とりわけ会話劇の多さに対するストーリーの展開の遅さが不評を呼ぶようになり人気は低迷。
 『 GUARDIANS OF THE GALAXY 』『 ALL-NEW X-MEN 』『 IRON MAN 』などを手がけるものの、どれも『 ULTIMATE SPIDER-MAN 』や『 NEW AVENGERS 』のようなファンからの厚い支持は得られなかった。


Scarlet Book 1 (Scarlet (2010-))

 その一方で相変わらずクライムフィクションライターとしての手腕は健在で、マーベル作品を数多く手がける傍ら『 SCARLET 』『 THE UNITED STATES OF MURDER INC. 』などのオリジナル作を発表している。これらは DC でいう VERTIGO のマーベル版ともいうべき ICON というレーベルから刊行され、 IMAGE 時代の『 POWERS 』なんかも一時ここから新作が刊行された。
 ただこちらもクオリティは高い状態を維持し続けたものの、刊行ペースが不定期で未完のものも少なくない。

作風

  Bendis のライティングの特徴は、なんと言っても会話の多さだ。
 とにかくキャラクターが喋る喋る喋る。しかも本筋とあまり関係がない。

 この傾向は初期のクライムフィクションからあったものだがスーパーヒーロー物、とりわけアベンジャーズのようなアクション盛り沢山な展開が求められる作品でファンの目に留まるように。今では彼の新タイトルが発表される度に掲示板では「ヒーロー達が1冊まるまる食卓囲んでシリアル食べるんだろ」と揶揄されることもある。

 作品が地味であれば地味であるほど映える。逆にヒーローが強くなってカラフルになるにつれ、逆効果に働く。そんな作風。

DC


The Man of Steel

 さて、そんなこんなで人気が低迷していたところ昨年11月に突如 DC への電撃移籍を発表した Bendis だが、今のところ彼が携わることが予定されている DCU 作品はスーパーマン系タイトルのみ。
 今週から始まる『 MAN OF STEEL 』のミニシリーズを皮切りに、7月から連載再開となる『 ACTION COMICS 』と、ナンバリングを刷新した『 SUPERMAN 』新シリーズの2タイトルを担当することが発表されている。
 『 ACTION COMICS 』ではクラーク・ケントの日常とスーパーマンの活躍をバランスよく描くのに対し、『 SUPERMAN 』ではスーパーヒーローとしての活動を大きく前面に押し出す作風になるとか。

 正直「何故スーパーマンなんだ……」と困惑を覚えなくもないものの、案外『 ACTION COMICS 』ではジャーナリストとしてのクラーク・ケントが強調されるため、 Bendis の作風が功を奏すかもしれない。

 また、マーベルの ICON で連載していた『 SCARLET 』の続編や新作『 PEARL 』が8月に刊行予定となっており、『 POWERS 』などその他のオリジナル作も版権が移るかと思われる。


 かつてマーベルで一時代を築いた Brian Michael Bendis がDCという新天地で再び人気の頂点に返り咲くことができるか。

 彼の移籍デビュー作となる『 MAN OF STEEL 』を見逃すな!

オススメの BRIAN MICHAEL BENDIS 作品

・『 A.K.A. GOLDFISH 』


Goldfish

 元詐欺師の男がかつて自分を裏切りのし上がった妻から息子を取り返しに来るBendis初期のクライムフィクション。一気読みがオススメ。詳しくは以下のレビュー記事をどうぞ。

www.visbul.com


・『ULTIMATE SPIDER-MAN』


Ultimate Spider-Man (2000-2009) #1

 マーベル時代に Bendis が手がけた作品で1つオススメを選べと言われたら間違いなくこのシリーズ。特に1巻の出来は秀逸。


・『 ALIAS 』


Alias (2001-2003) #1

 NETFLIX で配信中の『ジェシカ・ジョーンズ』シリーズの原作ともいうべき作品。元スーパーヒーローとして活躍した私立探偵ジェシカ・ジョーンズがマーベル・ユニバースならではの事件に立ち向かう。マーベルにやってきてすぐの Bendis による秀作。


・『 POWERS 』


Powers (2000-2004) Vol. 1: Who Killed Retro Girl?

 スーパーヒーローが当たり前に存在する世界を舞台に超人関連事件を専門に捜査する2人の刑事の活躍を描いた Bendis とアーティスト Michael Avon Oeming による作品。多分 DC に移籍した後も新作出るんじゃなかろうか。


・『 DEFENDERS 』


Defenders (2017-2018) #1

 Bendis の人気が低迷したマーベル時代終盤でも高く評価された作品。 NETFLIX の同名タイトル実写ドラマとほぼ同じ面子なので、 MCU 好きも楽しめるかと。


・『WORDS FOR PICTURES: THE ART AND BUSINESS OF WRITING COMICS AND GRAPHIC NOVELS』


Words for Pictures: The Art and Business of Writing Comics and Graphic Novels

 コミックではなく、 Bendis がこれまでの経験を元に若きクリエイターに送るコミック創作指南書。