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SECRET SIX ( DC )

(*2020/6/7 全4巻を1つの記事にまとめました)



 正義の側に立って人々を守る存在のことを我々は”ヒーロー”と呼ぶ。
 己が欲するところに従い他者を傷つける悪は”ヴィラン”と。
 しかし、その境界線は極めて曖昧だ。多くの者は状況に応じて2つの間を行ったり来たりする。
 結局のところ”自分”と”他人”なのだろう。


原書合本版(Amazon): Secret Six Vol. 1: Villains United

VOL.1 VILLAINS UNITED (DC, 2005-07)

 スーパーヒーロー打倒のため一致団結することにしたLex LuthorやBlack Adamらスーパーヴィランの面々。彼らは他のヴィラン達を続々と歓迎する一方、招待に応じない者は見せしめのため徹底的に痛めつけるという態度を取っていた。
 彼らに反旗を翻す謎の人物、通称Mocking Birdは同じく長いものに巻かれるのを良しとしなかった6人のヴィランに手を差し伸べるが……。
 これは”仲間”になることも”敵”に回ることもできない”はぐれ物達”の物語である。

 Gail Simoneによるライティングの本作は連載当時もとても好評だったのでいつか手を出したいと思っていたものの、遂に機会に恵まれず。この度、合本の新装版が出たのを機に入手した次第です。
 合本の名前こそ『SECRET SIX』であるものの、構成はVol.1の副題でもある『VILLAINS UNITED』#1−6、『VILLAINS UNITED: INFINITE CRISIS SPECIAL』#1、そしてようやく『SECRET SIX』#1−6となっている。先の2つは2005−06年のメガ・クロスオーバー『INFINITE CRISIS』からのスピンオフであるため、そちらを前提として踏まえていないと物語の核心部分が分かり難いかもしれない。なお、今巻に収録されている『SECRET SIX』はミニシリーズ版であり、Vol.2から収録される連載版では再度#1から仕切り直しとなっているが、多少の時系列的なギャップを度外視すれば基本続き物として読んで問題ないかと。

 ヒーローのコミュニティからあぶれた者達がチームを結成するというのはたまに見るものの、ヴィランのコミュニティに溶け込めなかった奴らが手を組むというのはありそうで意外となかったかもしれないコンセプト。一般的なヒーロー物ともピカレスク物とも異なる面白みがある。

 本作について間違えてはならないのが、ここに出て来るCatmanやDeadshotなどといったキャラクター達が必殺仕掛人などのような「正義をなすため悪に手を染める」輩とは異なるという点だ。
 彼らはチームの仲間同士として結束しつつも、どいつもこいつも隙あらば平然と裏切ってみせるし、些細なことですぐに殴り合う。結果としてヴィランの野望を挫きヒーロー側に与するものの、肝心の決戦時には「お互い勝手にしろ」と言わんばかりの態度で立ち去る。
 彼らはヒーローのなり損ないなどではない。
 あくまで悪人だ。
 彼らの行為は良く言えば自由気ままだが、悪く言えば身勝手と言える。
 そしてその身勝手なほどの自由が本作における最大の魅力だろう。2016年に公開された『SUICIDE SQUAD』は非常に賛否の分かれる作品となったが、これにファンが求めていたのはこういうノリだったのかもしれない。

 以前『TEEN TITANS』の記事でだったか、ヒーローとしての道を選ぶことの強さに関して言及したことがある。しかし、ヒーローにはたくさんの仲間という拠り所があるのも事実だ。そういったコミュニティのセーフティ・ネットに背を向けて我が道を貫くことにはまた別の強さが求められる。
 本作に登場する面々はその強さを備えている者達として、時にヒーロー達よりも気高く見える。



VOL.2: MONEY FOR MURDER (DC, 2008-09)

 1人は最新科学で全身を武装したスーパーヒーロー。
 1人は古代から伝わる魔法のマントに身を包んだスーパーヴィラン。
 どちらも手から出すのは似たような熱戦。
 科学と魔法が何だって?


原書合本版(楽天(Amazonは下に)): Secret Six Vol. 2: Money for Murder [ Gail Simone ]

 ヒーローでもなければヴィランの輪にも加わることができないオッドボールズでミスフィッツな6人組の活躍を描く本シリーズ。
 本格連載が開始してからの内容を含んだ本巻はまず、ある重大なアイテムを所有する人物の護送を請け負ったチームが、それを阻止せんとするヴィジランテや謎の人物に雇われたヴィラン達をやり過ごしながらSan FranciscoからGothamを目指すロードムービー的ストーリー『UNHINGED』編と、奴隷を監視する傭兵として雇われた彼らが雇い主の歪んだ野望を知り対立する『DEPTHS』編、それにチームのもっと日常的な活躍に焦点を当てたいくつかの1話完結物で構成されます。話のいくつかは『BATMAN R.I.P』や『AMAZONS ATTACK』など、当時DCで展開されていたイベントを反映しているので多少あらすじをWikiで確認する必要があるかも(実際に作品を読む必要まではないかと)。

 前回は『INFINITE CRISIS』が物語に大きく絡んできたこともあって、数え切れないほどのヒーローやヴィランが駆け抜けるように登場しては消えていきましたが、今巻はもう少し地に足が着いているというか、前回みたいに烏合のヴィラン衆みたいな描写もある一方で、Gothamの暗黒騎士やらAmazonの姫様なんかもゲストらしいゲストとして登場。

 チームのメンバーは前回から引き続きScandal Savage(不死者Vandal Savageの娘で暗殺術の達人)、Catman(名前や姿も蝙蝠男のパクリだが身体能力も彼に匹敵)、Deadshot(映画でお馴染み百発百中の狙撃者)、Ragdoll(骨があってないに等しい軟体男)に加え、Batmanの宿敵であるBane、それに本作オリジナルキャラであるバンシー(アイルランドに古くから伝わる女の亡霊)のJeanette。前巻でRadgollに裏切られてしまったMad Hatterも愛憎入り混じった感情を抱えながらチームに付かず離れず暗躍している模様。

 本巻で個人的にとりわけ面白かったポイントは『UNHINGED』編において話の中心となるアイテム(ネタバレ防止のため回りくどい言い方になってます、あしからず)。DCやMarvelといった広大な世界観の何でもありな面を上手に使ったなという印象を受けました。
 科学に魔法に宇宙の神秘、さらには神話的奇跡までもがあり得るこの世界観で「魔法が使えるスーパーヒーロー」と「科学を駆使するスーパーヴィラン」が対決するだけというのは余りに勿体無い(というか、魔法の力だろうが科学の結晶だろうが手から出てるのは同じ熱戦だろ?)。もっと想像力を働かせなければ、何でもかんでもお空にぽっかり開いた穴から巨大な光線が地上に吐きかけられるようなクライシスばかりになってしまう。

 今回登場したアイテムはそういうのとは異なり、比較的現実感のあるチームの中にぽんと誰が見ても「うん、科学じゃなくてオカルトだよね」と頷ける品が放り込まれることで意外性が生まれているのが大変好印象。世界を破滅させる脅威などでは決してないものの、誰もが喉から手が出るような品である点も、本シリーズのスケールにぴったりと言えるかと。
 ここでArthur C. Clarkeの三原則とやらについてあれこれと議論するつもりはないものの、ただフィクションで科学と魔法を区別するのであれば、それ相応の工夫というか両者の境界は必ずあるべき。
 本巻はそういう点でも手堅い面白さを備えた逸品。


原書合本版(Amazon): Secret Six Vol. 2: Money For Murder



VOL.3 CAT’S CRADLE (DC, 2009-10)

 何でもできるからこそ何をすれば良いのかわからなくなることもある。


原書合本版(Amazon): Secret Six Vol. 3

 SECRET SIXの結成時からのメンバーであると同時に、かつて犯罪者のみからなる政府の秘密部隊Suicide Squadにも所属していたガンマンFloyd Lawton a.k.a Deadshot — SSを指揮するAmanda Wallerは一度チームを抜けた彼を再び引き入れようとSecret Sixに攻撃を仕掛けるが、折しも謎の黒いリングにより蘇った屍者達が次々と生者に襲いかかり世界はパニックに陥っていた。(『DANSE MACABRE』編)
 BLACKEST NIGHT事件が一段落してしばらく経った頃。Cheshireとの間にもうけた息子を人質に取られたThomas Blake a.k.a CatmanはSecret Sixの他のメンバーを殺害するよう命じられるがこれを拒否する。犯人達に復讐すべくチームを抜けた彼を、他のメンバーたちは追いかけるが……。(『CATS IN THE CRADLE』編)

 正義の道を全うすることも悪の道を邁進することもできない6人の”はぐれ者”からなるパッチワーク・チームの活躍を描くシリーズ第3巻。本巻では複数号にまたがる大きなストーリーアークとしてあらすじの『DANSE MACABRE』編と『CATS IN THE CRADLE』編、その他にBlack Aliceがチームにおしかけてくる話や、西部開拓時代のエルス・ワールドにおけるチームの姿を描いた話が1話完結として盛り込まれている。
 本巻の主なメンバー編成は既出のDeadshotとCatmanに加え、体の関節が自由自在のRag Doll、死を招くバンシーのJeannette、他人のオカルト能力を借りることのできるBlack Alice、そして新たにチームのリーダーに就任したBaneとなる。ただ、前巻ラストで(勝手に彼女を娘扱いし始めた)Baneによりチームから外されたScandal Savageも普通に登場するので実質7人とみて問題ないかと。

 本巻ではメインのライターを引き続きGail Simoneが担うのに加え、かつてSUICIDE SQUADでもDeadshotの活躍を描いてきた名匠John Ostranderがゲスト・ライターとして参加する。複数のライターが参加するとありがちなのはキャラクターのブレだが、ここではそういうことがなかったのは大変好印象。Ostrander時代のSUICIDE SQUADにも手を出してみようかと唆られた。

 ”一線を越える”という言葉があるが、このシリーズが読むものをハラハラさせるのは、そのいわゆる”一線”というやつの位置が非常に曖昧だからだろう。ヒーローが主人公の作品では不文律となっている拷問や殺人などといった行為が本作では平気で行われる一方、メンバー達には確かに各々の倫理観が存在する。
『CATS IN THE CRADLE』編ではこれまで比較的ヒーロー達とかなり近い位置にあったCatmanの”一線”がかなり揺らぐことになると共に、一見すると倫理とは無縁と思われたRag Dollなんかの”一線”も浮かび上がる。
 ”一線”の位置がかなり曖昧なことの軽さをウリにしているのはDeadpoolやHarley Quinnだが、本作の6人は逆にそこから来る重さを魅力にしており、他に類を見ないドラマを演出している。
 むしろ悪の側に立っているからこそ重んじる倫理というのもあるのだろう。



VOL.4 CAUTION TO THE WIND (DC, 2010-11)

 バックカバーのキャッチコピーが
”WITH FRIEND LIKE THESE, WHO NEEDS ENEMIES?”
 となっているが実に的を射ているかと。
 殺し合ったり裏切り合ったり — チームとしてまとまっている事自体が不思議で仕様がないラグタグチーム。


原書合本版(Amazon): Secret Six Vol. 4: Caution to the Wind

  Scandal Savage らオリジナルメンバーが中心のチームと、 Bane が率いる新チームとに分かれた Secret Six 。 Amanda Waller を巡る陰謀に巻き込まれた両チームは獰猛な生き物達が蠢く異世界の奥深くにて対峙するが……。(『 THE REPTILE BRAIN 』編)
 死亡したかつての恋人 Knockout が地獄で苦しんでいる悪夢を見た Scandal は彼女を救うべく隠し持っていた”免罪符”を使おうとするが、金庫の中は既に空っぽ。 Scandal は Ragdoll の仕業と見て彼を追求する。(『 THE DARKEST HOUSE 』編)
  Scandal という”娘”、それに恋人 Spencer を思いやるうち、自らに弱さが生じていると気付いた Bane はチームを率いて今一度 Batman を襲撃しようと計画を練るが……。(『 CAUTION TO THE WIND 』編)

 メインの物語はあらすじの3本。途中 ACTION COMICS や DOOM PATROL とのクロス・オーバーなどがポツポツ入る。

 『 THE REPTILE BRAIN 』では一度分裂するもののその後のメンバー構成は前巻の面々から Black Alice が後半で脱退する代わりに King Shark が加わる。この King Shark が非常に良いキャラ。勇ましくもどこか抜けており、アクションでも Bane とはまた異なる巨躯の使い方をする。一気にファンになってしまいそう。

 他方、前巻で大きくスポットライトの当たった Catman と Deadshot は今回かなり脇役に徹した感じ。本巻の主役は何と言っても Bane だろう。
 南米のルチャ・リブレを思わせるマスクとスーツや(悪名高き方の)実写映画のおかげで単なる脳筋と思われがちの彼だが、 DARK KNIGHT RISES の敵役にもなり最近 Tom King の BATMAN で取り上げられた時なども見ればわかるように実はかなりの知能派。
 本作でもチーム参加当初から Venom を使用することを頑なに拒否し、禅僧のような求道者として描かれてきたが、最終的に悟りを開いた先に待ち受けていたのはやっぱりかの蝙蝠男だったというわけで。冷静に計画を練りチームを率いる彼の姿はカリスマの域に達している。最後には仮想の”娘”だった Scandal Savage との関係にもピリオドが打たれ、後腐れのない終わり方になっている。

 また本作で注目したのはヴィランから見た”スーパーヒーロー”の描かれ方だ。シリーズ全体通してこれまで何度か言及されてきたが、彼らにしてみればヒーローとは『警察でもないのに勝手にルールを決めて自分達を取り締まる無頼漢』といったところ。確かに、国からお墨付きを貰ったわけでもないのに無闇に犯罪者だからと殴り掛かる存在というのはあらためて考えてみるとかなり物騒な気がしなくもない。
 案外、ヴィラン達の眼に映るヒーローの姿というのこそ嘘偽りのないものなのかもしれないと思ったり。

 自分の信じる道へ進もうとすれば、たちまち社会が立ち塞がる。
 社会に屈服して自らを捻じ曲げるか。
 社会に抗い理想を貫くか。
 ”悪”とは結局のところ、はぐれ者のことを意味するのかもしれない。