スーパーヒーローは好きですか?
…え、嫌い!?
では、今日は敢えてそんな方におすすめしたい作品を紹介します。
今回用意したのは読めば”スーパーヒーロー”なんて連中が二度と信用できなくなる珠玉の6作。
実写化されてるあの作品はもちろん、知る人ぞ知るカルト作品まで。
上級国民化したスーパーヒーローの鬼畜っぷりにイメージだだ下がりなこと間違いなしな作品ばかりを集めてみました。
自分が読んだ際にどれだけ幻滅したかを示す幻滅度も併せて。
それでは早速いってみましょう。
THE PRO
幻滅度60%
まずは小手調べ。
THE BOYS を手掛けたライターのガース・エニスが HARLEY QUINN シリーズなどで知られるアマンダ・コナーと共に手掛けた作品です。
他の作品に登場するスーパーヒーローはいかにも上級国民という感じで描かれていますが、本作に登場するのは比較的無邪気な連中。
そこへ偶然にも宇宙人からスーパーパワーを授かった風俗嬢がメンバー入りすることで騒動が巻き起こるというストーリーです。
異分子が紛れ込むことで”高潔な守護者”を演じる彼らの浮世離れっぷりが明らかとなります。
大人向けであることは他の作品と同様ですが、コナーのアートなどもあってアダルト向けカートゥーンくらいのノリで楽しむことができます。
単行本で全70ページちょいと、今回紹介する作品の中では一番短いのでこの手の作品がどんなもんか知るのに本作を手に取って見ても良いかと。
KICK-ASS
幻滅度65%
実写映画化されるなどして有名な一作。
オタク青年がひょんなところからヴィジランテ活動を始めたところ、やがて大きなうねりを作り出していくようになる様を描いた作品。
他の作品ではスーパーヒーローがセレブとして扱われているのに対して、本作ではどちらかといえば SNS のインフルエンサー的に扱われているのが現代的というか。
ただ本作に登場するのは”スーパーヒーロー”よりは”ヴィジランテ”と呼んだほうがしっくりくる連中。
路地裏が主な舞台となるこの手のキャラクターは元から結構ダーティなイメージがあります。
加えてそこそこ見せ場らしいところもあるので、イメージガタ落ちとまではなりません。
身勝手だったりだらしなかったりもしますが、上級国民よりはもう少し小市民的で、イキったオタクといったところですかね。
マーク・ミラーとジョン・ロミータJrによる初期三部作+ ヒットガールのスピンオフが有名ですが、実は現在も散発的に続編が作られ続けています(但しキック・アスの中の人は別)。
本作が好きな方は他にもヴィラン側の退廃っぷりを描いた WANTED などもお気に召すかと。
X-STATIX
幻滅度75%
当たり前といえば当たり前ですが、この手の作品は基本 DC やマーベルのパロディなので DC ユニバースやマーベルユニバースと行った世界観からは独立したオリジナル作品となることが多いです。
…が、本作は紛れもなくマーベル・ユニバースの一部としてカウントされています(ウルヴァリンとかもゲスト出演するでよ)。
ピーター・ミリガンがライティングを手掛ける本シリーズでは、セレブになるためヒーロー活動を行うミュータント達のはちゃめちゃな活躍を描きます。
シリーズは当初 X-FORCE というシリーズを引き継いで開始されました。
その幕開けとなった X-FORCE#116 はコミックス・コード・オーソリティに突っぱねられたにも関わらず構わず刊行を強行し、当時既に形骸化していた CCA とマーベルが袂を分かつきっかけとなった作品としても有名です。
正直読む前は「マーベル・ユニバース内だからそこまで派手にはやらないだろうし、そこそこの出来かな…」とか舐めてたんですが、そこは”関わる作品にハズレ無し”のミリガン。
確かに性や暴力といった面では他の作品よりやや控えめな一方、他にはないサイケデリックなストーリーで魅了してきます。
一応グロ系の描写もないではないですが、メインアーティストであるマイク&ローラ・アーレド夫妻のフラットな画風もあり、ショッキングな描写が苦手という方も多少読みやすいかと。
幻滅度という点ではそこそこですが、単純な作品のクオリティという面ではトップクラスです。
また、ゲスト・アーティストとしてポール・ポープやダーウィン・クックも参加しており、この方面のアートが好きという方にはおすすめ。
ちなみに実写映画『デッドプール2』に登場したツァイトガイスト(酸吐いた人)も本作出身のキャラクターです。
MARSHAL LAW
幻滅度90%
今回紹介する作品の中では最古参。
大震災を経て荒廃した都市サン・フューチャロ(かつてのサンフランシスコ)を舞台に、スーパーヒーロー達を取り締まる政府公認のヒーローハンターことマーシャル・ローの戦いを描きます。
英国でブリティッシュ・コミックスの父と呼ばれるパット・ミルズがライティングを担当した作品で、アートは THE LEAGUE OF EXTRAORDINARY GENTLEMEN のアートなどで知られるケヴィン・オニール。
当初はマーベルの EPIC というレーベルで刊行されていたものの、その後イギリスの出版社から続編を出したり、現在は DC から単行本が出ていたりしています。
キャッチコピーの「 I'M A HERO HUNTER. I HUNT HEROES. HAVEN'T FOUND ANY YET.」という台詞からして皮肉が効いてて痺れますね。
ミルズは日頃から”スーパーヒーロー”という存在を毛嫌いしていることを広言しており、本作ではその鬱憤をがっつり晴らしているといいますか。
とはいえ、そこは巨匠。
スーパーヒーローの鬼畜な素顔を暴きつつ、彼らを蹂躙するマーシャル・ローの活躍はしっかりエンターテイメントに満ちています。
過激なユーモアとアクション満載のストーリーがが癖になる面白さに満ちており、個人的には今回紹介する中では一番スカッとする作品ですね。
あと LoEG シリーズでスチームパンクを描いていたオニールですが、近未来ディストピアを描かせてもやっぱすごい。
ちなみに本作が面白いと感じた方は他の 2000 AD 系ブリティッシュ・コミックスと相性が良いかと思います。
THE BOYS
幻滅度95%
ご存知、現在実写ドラマ化作品がアマゾンプライムで大好評配信中。
ガース・エニス&ダリック・ロバートソンによるアンチスーパーヒーロー作品。
この記事をそもそも書こうと思ったきっかけとなったのも本作です。
謎に包まれた男ブッチャーを筆頭に癖のある(ありすぎる)5人と1匹がスーパーヒーロー社会に喧嘩を売りまくります。
元々は DC の WILDSTORM というレーベルで刊行していたものの、あまりに冒涜的内容だったことから DC 上層部の逆鱗に触れて打ち切り後、ダイナマイトに移籍したという曰く付きの作品です。
大企業の手駒として大衆に笑顔を振りまきつつ、プライベートでは欲と野心に溺れたスーパーヒーロー達の姿は”正義の味方”としてのイメージを完膚なきまでに叩きのめします。
上級国民っぷりという点では今回紹介する中で間違いなくトップかと。
また、政治と経済と宗教が絡み合った現代の米国社会全体に対する鋭い批評性、そしてそれと両立するエンターテイメント性が高く評価されています。
エニスのライティングはもちろんのこと、ロバートソンをはじめとしたアーティストの個性的で面白かっこいいアートにも注目していただきたいところ。
最早このジャンルの金字塔とでも言うべき作品なので、迷ったらまずこの作品を手に取っていただければ間違いないです。
BRAT PACK
幻滅度99%
知ってる人は知っているカルト的ヒット作。
今回紹介する作品は”アメコミ”と称しているものの、実はほとんどが英国出身ライターによる作品なんですが、本作を手掛けるリック・ヴィーチは米国出身の人物です。
ライターとしてもアーティストとしても業界で高く評価されている人物で、きわどい話題にも果敢に突っ込んでいく作風。
DC とは SWAMP THING にイエス・キリストを登場させようとしたところストップがかかったことがきっかけで騒動になり降板したという経緯を持つ方です。
そんな彼が手掛ける本作 BRAT PACK は彼がライティングもアートも手掛けるオリジナル作品。
正直、絵柄的には一番どぎついですね。
本作ではサイドキックに焦点を絞り、何者かの罠にはまり死亡した先代に代わって新たにスーパーヒーロー達のサイドキックとなった4人の少年少女が地獄のような目に遭うというあらすじ。
バットマンやキャプテン・アメリカといったヒーロー達をモデルにした登場人物は揃いも揃ってクズばかり。
やることなすことえぐいえぐい。
1ページ目からラストまでひたすら救いのない物語となっています。
サイドキック達をつけ狙う謎の怪人ドクター・ブラスフェミーも全身タイツに顔のスリットから舌をうねうね出すという中々の(変態)インパクト。
幻滅度もかなり高いですが、その分強烈な後味を残します。
残念ながら本作は2021年現在において紙の書籍が品切れ状態となっており、未だ電子化もされていないのでやや入手困難な状況です。
どこかで偶然見つけたような時にはマストバイですよ。
ちなみにリック・ヴィーチは本作の他にも『 THE ONE 』などでスーパーヒーローというジャンルを独特の視点から描いた作品を刊行しています。
こちらは紙の書籍も場所によっては在庫あり。
電子化もされています。
これはこれですごい本なので是非手に取って見て下さい。
以上、スーパーヒーローのイメージぶち壊しな6作品でした。
こうした作品はスーパーヒーローに限らずジャンルを”解体”するジャンルという意味で GENRE DECONSTRUCTION などと呼ばれ、今回の趣旨からはやや離れるので省きましたが WATCHMEN などが挙げられることもあります。
ただしこうした動きは逆に”スーパーヒーロー”という存在がどれだけ社会に浸透しているかを示す裏返しともいえるでしょう。
”スーパーヒーロー”が大嫌いという方はスカッとすることまちがいなし。
大好きという方も、普段読んでいるヒーロー物に飽きてちょっと刺激的な作品を読んでみたい時などにトライしてみて下さい。
違った視点から眺めることで改めて気づく面白さもあるかもしれませんよ。
えー・・・とはいえ、貶めるだけでは何かいたたまれないので近日中に「やっぱスーパーヒーローっていいよね!」って再確認できる作品を紹介する記事を書こうと思ってます。
何卒よろしくお願いいたします。
それでは本日も良いコミックライフを。