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マーベル『フレッシュ・スタート』新作#1だけレビュー (1/3)

 まあ、折角の新たな門出だし#1だけならとやるだけやってみることにしました。

www.visbul.com

 取り敢えず上に掲載した過去の予告解説記事に合わせる形で各作品の#1をレビューしていくので、あらすじなどは省略。また実際に刊行された順とは多少異なる場合があるけれど悪しからず。
 結構ネタバレもすると思うのでその点にご注意して以下お読みください。

 
 では早速。

1.AVENGERS #1

(W) JASON AARON
(A)ED MCGUINNESS


Avengers (2018-) #1

 マーベルのフラグシップタイトルにして、今回のラインナップの先陣を切る作品。
 あちこちのサイトでは中々の高評価を得ているものの、正直言うと個人的にはやや難あり。

 派手な展開も豊富だし、今後に向けての謎もあちこちに散りばめられている。 NEW 52 時代の『JUSTICE LEAGUE 』などと異なり#1から8人全員が出ているし、大所帯からなるチーム物としてはかなり良い出来上がりの創刊号といえるだろう。
 
 だが一方で妙に説明くさい台詞やストーリーを優先した強引な展開が目に付いた。絵は今風なのにキャラクターの言動が70年代あたりを思わせる。

 またキャラクターの何人かがズレているのも気になった。クリエイターが変わればキャラの描き方が多少変わるのはある程度なら仕様がないことだが、例えばシー・ハルクなんかはもっと明るく自信に満ちた女性という印象があったので、『CIVIL WAR II』以降色々あったというのは知っているが、本作でブルース・バナーのハルクと大して変わらない感じになってしまったことにはやや違和感を抱かざるを得ない(今後解消されるか理由が明らかにされるのかもしれないけれど)。
 セレスシャルズに関してもインパクトを重視したのかもしれないが、仮にもマーベルユニバースでもトップクラスの実力を誇る連中をちょっと雑に扱いすぎかも。

 エド・マクギネスのアート自体は良かったものの、トニーがアシスタントA.I.”マザーボード”から緊急通報を受けるシーンなど、ところどころ絵と台詞が噛み合っていない部分があった。台詞の量が多すぎて作画がそれを捌ききれていない。

 良い部分もあったが、細部に残念な部分が目立ってしまった。まとめて読んだら勢いが勝って気にならなかったかもしれないので、単行本が出るのを待つのもありかもしれない。

2.VENOM #1

(W) DONNY CATES
(A) RYAN STEGMAN


Venom (2018-) #1

 マーベルの寄生獣ことヴェノムの新シリーズは、紆余曲折を経て再び共生体と融合したエディ・ブロックが活躍するホラー・アクション。

 これまでの経緯をある程度踏まえつつも、すぐさま自分の空気感を演出するドニー・ケイツの手腕は流石。
 ライアン・ステグマンのアートも本作では敢えてやや90年代臭さ漂う画風にし、最初にヴェノムを生んだ90年代のごちゃごちゃした暗さを醸し出している。
 意外性のあるドラマもあれば派手なアクションもあり、アートとストーリーのバランスも良い。
 読者を#2へ再び引き込むには十分満足な#1だ。
 ベトナム戦争を舞台に共生体と融合させられた兵隊達を描く『 WEB OF VENOM: VE'NAM』(8月刊行予定)とかにも興味が湧いてきたぞ。

 アーティストのライアン・ステグマンが「『 WATCHMEN 』より面白いぜ」とツイートしただかで軽く炎上している本作。彼なりのユーモアと作品に対する自信が相まった発言なのだろうが、確かにそう言うだけのことはあってかなり読み応えのある作品。多分多くの人が求めているヴェノムのストーリーがここにはある。

3.BLACK PANTHER #1

(W) TA-NEHISI COATES
(A) DANIEL ACUÑA


Black Panther (2018-) #1

 んー、今回の記事では一番評価に苦しむ作品。
 
 まず内容自体に関しては今号はそこそこ満足。アクションシーンを重視した内容となっており、説明は必要最低限(それでも物語の開始時なのでそこそこの量だけれど)。物語進行については若干展開がクリシェというか、ほとんどが予想の範囲内でやや意外性に欠けるものの、既に世界観が変化球なことを考えればこの位ベタな方が良いのかも。中身で説明しきれない用語解説は巻末で補完されている。

 ”ワカンダ銀河帝国”についてはその発展の歴史こそさっくりと語られる一方で、我々がよく知る方のワカンダとの関係は謎に包まれたままと良い感じにミステリアス。パラレルワールドの話なのか未来の話なのかも今のところ不明。

 ダニエル・アクーニャのアートは色使いが個人的には好み。シャープながら荘厳さも漂う絵柄からはスペースオペラな雰囲気が出ている。

 問題は先程ちらっと述べた巻末ページ。
 まだ読者の感想が舞い込んでいないレターページを有効活用し、ストーリー内で語りきれない世界観の解説を補足しているのだけれど、その導入部分で本作のブラックパンサーがティチャラその人であることを明かしちゃってるのだ。

 物語内では記憶をなくしているのだし、誰も元の彼を知らないのだからいっそ読者にも正体を伏せておけばいいものを『HOW DID T'CHALLA GET HERE?』なんて煽り方するものだから「似て非なる人物」とか「クローン」とかという憶測が全てかき消され、これが我々のよく知るティチャラだってバラしちゃってる。
 読者が既に答えを知っている謎を作中で弄ぶ茶番はぶっちゃけ読んでて結構辛いものがある。

 そんなわけで作品自体とは関係のない場所で出鼻をくじかれるというあまりよろしくない滑り出し。もったいない。

4.IMMORTAL HULK #1

(W) AL EWING
(A) JOE BENNETT


Immortal Hulk (2018-) #1

 温故知新の一言に尽きる。
 今でこそハルクといえばゴジラ的な”怪物”というイメージがついて回るものの、彼が善なれど無知故に破壊し阻害される存在となったのはスティーブ・ディッコらが「感情の昂り」という変身スイッチを加えた頃からであり、実はカービィらが手がけていたシリーズ最初期における彼はもっと知性的で悪意を持った”怪人”として描かれていた。

 今回の新シリーズでライターのアル・ウーイングは不死身となったハルクに”悪”の属性を再び導入し、ホラー路線に大きく舵を切ったように見える。
 圧倒的な破壊力で罪人を襲撃しながら、時にレクター博士みたくミステリアスな問いかけも行う彼は怪人系ホラーを地で行っており、本作はその直球さ故に完成度が高い。

 また、あるいは本作で一番の収穫かもしれないのがアート陣。ジョー・ベネットが描くハルクの威圧的な巨躯や残忍な表情は見応えたっぷり。敢えて直接的な暴力描写を映さないことも恐怖を演出しており、読んでいて背筋がぞくぞくする。
 ポール・マウンツが使う青、緑、黄といった色使いも非常に良く、夜間シーンでもハルクの緑が映える。
 
 作画とストーリーのバランスが良く、ことアートに関しては現時点でラインナップ中ベスト。切りの良いところで終わっているものの、また次号にも手を伸ばしたくなる。
  

5.DOCTOR STRANGE #1

(W) MARK WAID
(A) JESÚS SAIZ


Doctor Strange (2018-) #1

 地球の魔法が何らかの理由で枯渇してしまったために力を失ったストレンジが宇宙へ発つという予告されていた通りの内容のドクター・ストレンジ新シリーズ。やっぱり博打だったぜというべきか、やや半端な印象を受ける作品だった。
 
 まず展開が遅々としている。#1なのに導入のアクションはわずか4,5ページ。その後は魔法が枯渇していくのを目の当たりにして困惑するストレンジの憂いが大半を占め(ナレーションの多さもちと冗長に感じる)、これといって神秘的な描写はない。
 折角魔法が似合いそうな作風のジーザス・サイズをアートに採用しているのにこれでは宝の持ち腐れというものだ。
 
 途中でゲスト出演するトニー・スタークとのやり取りは魔法使い科学者という2人の立場からくる考え方の違いを際立たせており、ライターのマーク・ウェイドが2人のキャラクターをきちんと理解していることを示すものの、今回の新シリーズは別にストレンジとスタークのバディ物というわけじゃないので本作にとってあまりプラスにはならない。

 宇宙へ飛び出したストレンジが早速隕石に衝突して未知の惑星に不時着し現地人に捕まってしまう展開も「え、ここまでお膳立てしたのにスタークは隕石に対する防御システム設置しなかったの?」とやや興ざめで、何となく展開が『 PLANET HULK 』と似ているためか、意外性にも欠ける。

 上で述べた『 AVENGERS 』の逆パターンといおうか。細かいところが丁寧に作り込まれているのはわかるが、創刊号としては骨組みが弱くこれもやや残念な創刊号。ただウェイドはどちらかと言えば単行本化を見越したストーリーを作るようなところもあるので、あるいは今後あっと驚かせてくれる可能性は十分ある。


 ……今回はここまで。第2弾以降はなるべく刊行ペース合わせて掲載していこうと思うのでお楽しみに!