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間もなく配信「ジュピターズ・レガシー」原作を予習しよう

いつの間にかネットフリックスでの配信が一ヶ月後に迫っていた『ジュピターズ・レガシー』。

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日本でもヒットした『キングスマン』や『キック・アス』のマーク・ミラーが原作を手がけた作品ということで日本でももう少し話題になっていてもよさそうなんですが、マーベルや DC ではないオリジナル作品であることに加え、原作コミックの邦訳版が出る様子もないためか、今のところ国内ではかなり話題性に乏しい模様。公式が情報を出し渋っているせいか、イマイチ盛り上がりに欠けます・・・。

ならば、ということで今回は『ジュピターズ・レガシー』に関して原作からの情報を中心に紹介してみたいと思います。

ドラマ版既出情報

配信まで残り1ヶ月程度となった2021年4月現在の時点でも公式から発表されている情報がかなり限られており、現在わかっていることは
 
ネットフリックスのサイトに掲載されている


100年近くもの間、世界の平和を守ってきたスーパーヒーロー第1世代。そして今、先代の名を汚さぬ頑張りを期待される2世たち。彼らはプレッシャーに打ち勝てるのか。
(ネットフリックス公式サイトより)

というシノプシスのみ。

予告などについてもフランク・クワイトリーのアートをフィーチャーした上記のティーザーと下の初見予告くらい

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正直、原作通りに話が進むのか、それとも基礎だけ同じくしてまるで違った道を歩むのかまだ判然としません。

(追記:新予告出ました。ずいぶん原作とは異なる希望に満ちた雰囲気を出してますが、さてさてこれがミスリードなのかどうかは是非ご自分の目でお確かめください)
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原作の概要


原作コミックである JUPITER'S LEGACY は2013年にマーク・ミラーとフランク・クワイトリーによりイメージから刊行されたスーパーヒーロー作品です。

ライターのマーク・ミラーが手がける「ミラーワールド」という作品群に属し、他に KICK-ASS や KINGSMAN といった作品が代表作として挙げられます。


本作はミラーがゴールデンエイジのアメコミ作品、あるいはキングコングやスターウォーズといった映像作品、それにローマ神話などから影響を受けたと語られており、往年のスーパーヒーローや髑髏島などを思わせる描写が随所にちりばめられています。

また JUPITER'S LEGACY という名前から勘違いされがちですが、本作に”ジュピター”というキャラクターは登場しません。作品の荘厳な雰囲気を出すことを目的として、ローマ神話において天を支配し他の神々を統べていた”ユーピテル”の名を冠したものです。
ちなみに同じ目的から当初本作は JUPITER'S CHILDREN というタイトルだったのを現在の LEGACY という形に変更したそうな。
 
コミックは現代を舞台にスーパーヒーローの内紛を描いた本編と、超人達の1950年代から60年代にかけてを描いたスピンオフ JUPITER'S CIRCLE が既に完結していますが、近日彼らのその後を描いたシリーズ完結作 JUPITER'S LEGACY: REQUIEM の刊行が予定されています。

www.hollywoodreporter.com


あらすじ

1932年。若き実業家のシェルドン・サンプソンは大恐慌で失敗を経験して以来、度々夢に登場する不思議な島の存在に思いを馳せていた。
やがて島が実在するのだと信じるようになった彼は、弟のウォルターや大学時代の友人らを伴い島を目指す旅に出て、その先で驚くべき体験をする。

やがて超人的な力を得て帰還したシェルドンら6人は”ユニオン”というグループを結成し、社会奉仕活動を始める。

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Frank Quitely, Peter Doherty, Millarworld, Image Comics


時は経ち、現在。

長きに渡りユニオンを率いて世界を守り続けてきたユートピアンことシェルドンだったが、その古めかしい理想を語る頑固な性格は徐々に増えゆく次世代超人から疎まれるようになっていた。

かつて共に島を目指した弟ウォルターとも超人としての力の使い道を巡って亀裂を深め、スーパーヒーローとして戦うよりもセレブとしての立場を興じることに日々を費やす息子ブランドンや娘クロエにも失望し、徐々に孤立を深めていくシェルドン。

そんな彼にしびれを切らしたウォルターはブランドンの元へ行き、父親への不満を漏らす甥に告げる。

「 ならばどうにかしてしまうんだな」

同じ頃、クロエの体に異変が起きていた・・・。


クリエイター

初期シリーズのメインクリエイターはライターのマーク・ミラーとアーティストのフランク・クワイトリー。他にカラーやレタリングでピーター・ドハーティ、そしてデジタルアシスタントとしてロブ・ミラーが参加しています。


ミラーとクワイトリーは共に英国スコットランド出身。
本作のようなオリジナル作品での功績はもちろんのこと、 DC やマーベルにおける活躍も数多く各々業界トップクラスのクリエイターとして知られています。

この2人は過去にも2000年に DC/WILDSTORM から刊行された AUTHORITY という作品でタッグを組んでおり、現実的な米国社会を色濃く反映した新たなスーパーヒーロー像を提示したと共に、当時としてはやり過ぎとも思える過激な表現で話題を呼びました。

本作 JUPITER'S LEGACY は二人が AUTHORITY を終えて以来、初めての本格的な作品となります。


キャラクター

主なキャラクターは以下のとおり


シェルドン・サンプソン / ユートピアン

1930年代、大恐慌で事業に失敗した後、自らの夢に登場する謎の島を追い求め、仲間を率いて冒険の旅に出る。

島での不思議な体験の後、強靭な肉体や飛行能力といった超人的能力を手に入れ、それを社会のために使うべく”ユニオン”を結成。
以来100年近くに渡って数多くの危機から米国を救ってきたが、そのワンマンで完璧主義な姿勢は徐々に周囲、特に若い世代から疎まれるようになる。

同じく超人であるグレイスとの間に2人の子をもうけているが、セレブ活動に興じる彼らに失望しており、弟ウォルターとも力の使い方を巡って対立。
ヒーロー社会の中で孤立を深めている。


グレイス・サンプソン / レディ・リバティー

シェルドンと共に島へ赴いて超人的能力を手に入れたユニオンの1人。

シェルドンに恋心を抱いていたものの、彼が別の女性に惚れていると知り身を退いていたが、彼の離婚を機に急接近、結婚しブランドンとクロエを産んだ。

強靭な肉体や飛行といった能力を有するが、普段は正体を隠しており、夫と共に閑静な住宅街で暮らしている。


ウォルター・サンプソン / ブレインウェイブ

シェルドンの弟。兄同様、謎の島で神秘的体験をした後、飛行能力やサイキック能力を手に入れる。

長年に渡り兄と共にユニオンの一員として活動してきたが、徐々に自分達の能力はもっと社会を改善するために使えると考えるようになり、現状維持に務めようとする兄との間に亀裂が生まれる。

相手の精神を隔絶した空間に閉じ込め、肉体の身動きを取れなくする戦法を得意とする。


ブランドン・サンプソン

シェルドンとグレイスの息子。
クロエ同様、両親の能力を引き継いだ超人ではあるものの、スーパーヒーローが活躍する時代は両親の代で既に終わったと考えており、戦うことなど下らないと普段はパーティ三昧に興じている。

完璧を求め過ぎる父親への反感を抱いていたところ、おじのウォルターからクーデターの話を持ちかけられる。


クロエ・サンプソン

シェルドンとグレイスの娘。
自身も能力を引き継いだ超人であるものの、両親に比べた時に劣等感を抱いており、スーパーヒーローとして戦おうとはせず、(当てつけの意味も含めて)セレブとしてチャリティ活動などに勤しんでいる。

失望した両親との仲は良好とは言えなかったものの、妊娠が発覚した際には実家へ暖かく出迎えられた。


ハッチ・ハッチェンス

クロエの恋人。

父親はかつてシェルドンらと共に謎の島へ赴き超人的能力を手に入れた仲間の1人だが、本人はその能力を受け継がなかった。
違法薬物の売人をしていたが、クロエの妊娠を知り、襟を正すことを決意する。

父親の能力を模倣できるロッドを所有しており、テレポーテーションや大質量の物体を移動するなどのことが可能。


テーマ

本作は2つの大きな対立がテーマとなっています。

まず1つ目がドラマ版のシノプシスからも読み取れる世代間の対立。
つまり、超人として自分や周囲に対して常に完璧な社会の奉仕者であることを求めるシェルドンと、最早スーパーヒーローの黄金時代は終わってしまったと考えるブランドンとの親子間の対立です。

シェルドンとグレイス、つまりユートピアンとレディ・リバティーはスーパーマンとワンダーウーマンをモデルとしており、本作は「完璧な2人の超人を両親として持つ子供はどんな気分だろう」という問いかけから始まっています。


そしてもう1つが米国社会を巡る考え方の違いを巡る対立。
社会機構を信頼する古き良き市民的な考え方のシェルドンと、政治や経済に対してより実行的な改革が必要だと訴えるウォルターとの兄弟間の対立です。

超人としての力の使いみちというテーマはマーク・ミラーが AUTHORITY や ULTIMATES などで度々描いてきたもので、本作でも「超人はあくまでセーフティネットであるべきか、それともリーダーシップを取るべきか」という問題提起がなされます。

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Frank Quitely, Peter Doherty, Rob Miller, Millarworld, Image Comics


社会的シンボルとしての存在意義と超人的能力の求められる責務という両テーマはスーパーヒーロー作品とは切っても切れない関係にあるものですが、様々な制限下にある DC やマーベルの作品では答えを有耶無耶にしてしまうことも少なくありません。
しかしオリジナル作品である本作はこれらのテーマに真正面から向き合い、その取り返しのつかない代償までしっかりと描いています。

他の『ミラーワールド』作品との繋がり

各々独立した作品のように考えられがちな『ミラーワールド』作品群ですが、実は同一の世界観内(?)の出来事とされています。

2015年に刊行された KICK-ASS 3 内でその繋がりは初めて明確にされ、ミラーがその後のインタビューなどで語ったところによると、


WANTED:元々世界は DC やマーベルのようにたくさんのスーパーヒーローが活躍する世界だったものの、1986年に世界中のヴィランが手を組み、ヒーロー達を数で圧倒し勝利。戦後処理として人々の記憶から超人に関する記憶の一切を消去した後、ヴィランは政治経済のトップとして世界を影で操るようになる。他方、敗北したヒーロー達はコミックや映画などの娯楽の中だけの存在とされるようになる。


Kindle版: Wanted (Issues) (6 Book Series)

JUPITER'S LEGACY:上記世界におけるコミックやその実写化映画作品。完全なフィクションと思われているが、実は記憶を消されたヒーロー達に関する人々の記憶の残像が結実したもので、作中最大のヒーローであるユートピアンは実際に86年まで存在していた。『WANTED』の#2のラストで出てくるマントは彼のもの。


Kindle版: Jupiter's Legacy (Issues) (5 Book Series)

『KICK-ASS』シリーズ:転換期。失われた現実の残像だったコミックの世界に影響を受けたキック・アスやヒットガールらヴィジランテの活躍をきっかけに再び超人スペリオールのようなヒーローが出現するようになる。


Kindle版: Kick-Ass (Issues) (8 Book Series)


という風になります(引用の部分、むかーし掲載した過去記事を改訂したものです(今は削除済み))。

端的に言えば JUPITER'S LEGACY という作品は KICK-ASS の世界観でかつて実在したユートピアンというヒーローを元に公開された映画の話というわけで、 KICK-ASS 3 #8の終盤シーンでは他にも KINGSMAN や MPH といったミラーワールド作品との繋がりも示唆されています。

現実の映像化作品同士の繋がりは明確にされていないものの、あるいはヒントが散らばっているかもしれません。


以上、 JUPITER'S LEGACY 原作の解説でした。

DC やマーベルを原作とした作品に比べ、まだまだオリジナル作品は苦戦しがちですが、『キングスマン』や『キック・アス』が面白いと思った方やスーパーヒーロー作品がお好きな方は是非ネットフリックスでご覧になってみてはいかがでしょうか。

そしてドラマ版を観る前でも観た後でも、興味がある方は是非とも原作を読んでみて頂ければ幸いです。