VISUAL BULLETS ー今日もアメコミ三昧ー

アメコミをはじめとした海外コミックの作品紹介や感想記事などをお届け

『Y: THE LAST MAN』名作中の名作を完全ガイド!

かなりメジャーな作品ですが、昨日紹介したポッドキャストを聞いてから書きたくなったので急遽書きました。

アメコミで最高のエンディングを挙げろと言われたら私は本作を挙げます。

あらすじ

29分前、ブルックリンでは1人の青年が地球の反対側にいる恋人へ電話をかけていた。

13分前、ヨルダンでは1人の諜報部員が任務を遂行していた。

7分前、ボストンでは1人の科学者が自らのクローンに生を与えようとしていた。


彼がプロポーズしかけた直後、
彼女を乗せた飛行機が離陸した直後、
彼女の妊娠が死産に終わってしまった直後


Y染色体を持つ地球上の生物が一斉に血を噴き出した。

1人と1匹を除いて。


2ヶ月後、人類最後の男性となった青年ヨーリック・ブラウンは飼い猿のアンパサンドを連れてワシントンD.C.に来ていた。

ホワイトハウスで母親と再会した彼は、人類再興の鍵を握る存在として生殖研究の権威アリソン・マンの元へ赴くよう告げられる。


だが、彼には別の目的があった。

疫病発生時を境に生死もわからなくなってしまった恋人ベスの行方を探すこと。


2つの目的を果たすため、ヨーリックは旅立つことを決める。

自身の警護役を務めるエージェント355と共に。


しかし、地上最後の男を巡って既に様々な組織が動き出していた。

戦果をくぐり抜けてきたイスラエルの兵士達。

それに狂信的な女性至上主義集団。

その中にはヨーリックの姉ヒロの姿も。


果たしてヨーリックはあらゆる困難を乗り越え、恋人と再会できるのか?

地上のオスを滅ぼしたウイルスの正体は?

そして世界の命運は?

二人と一匹の旅が今始まる・・・。

概要

本作は DC コミックスの VERTIGO レーベルで2002年から08年まで連載されていたポストアポカリプス系作品。

刊行当初ほぼ無名だった2人のクリエイターによって生み出された本作は、その後アイズナー賞をはじめとする数多くの賞を受賞。

小説家スティーブン・キングをして”これまで読んできたグラフィック・ノベルで最高の作品だ”と賛辞を述べ、今では WATCHMEN DARK KNIGHT RETURNS といった作品と並び立つ名作として数えられています。

これまで何度も実写化の動きはありましたが、最近になりようやく FX でドラマシリーズ化企画が進行。

2021年度に HULU での配信を予定しています。

コロナ禍による一時中断を挟みつつ(まあ感染対策的にもそうですが話の中身的にも・・・)、順調に撮影を進めている模様。

映像版は作品の内容に合わせて、第1シーズン全てのエピソードを女性監督が撮るとのこと。

既に演技派の若手俳優ベン・シュネッツァー演じる主人公ヨーリックの写真などが公開されており、そう遠くないうちに予告編も公開されるのではないかと目されています。


クリエイター

ブライアン K. ヴォーン

本作のライター。

96年にマーベルの TALES FROM THE AGE OF APOCALYPSE #2 でコミックデビュー。

VERTIGO では本作の前に SWAMP THING を担当し、アレック・ホランドの娘テフェの旅路を描きました。

Y: THE LAST MAN の刊行をきっかけに業界内外で注目を集めるように。

その後も政界進出した元スーパーヒーローの姿を描いた EX MACHINA 、メンバー全員の両親がスーパーヴィランという異色のティーンチーム RUNAWAYS といった作品を発表し、瞬く間にトップクリエイターの仲間入りを果たします。

映像界にも進出しており、ドラマ LOST などの脚本を担当。

現在はアーティストのフィオナ・ステープルズらと共に SF 大河 SAGA を連載しています(現在は休載中)。

斬新な切り口の物語とアグレッシブなキャラクターがもたらす予想外のストーリーが持ち味。

ピア・ゲラ

本作のメインアーティスト。

無名の新人だった頃、 アートを見たヴォーンに熱望されたことがきっかけで本作に抜擢。

以前はゲーム業界に務めており、アートデザイン以外に声優なんかもやったとか。

癖のないキャラクター造形や、心情を巧みに反映した演出で物語を引き立たせます。

ストーリーにもアイデアを提供しており、シリーズの転換点となったエピソード SAFE WORD は彼女の「ヨーリックが脱出の名人なら、その最大の敵は緊縛の名人になるのでは?」という発想から生まれたそう。

本作完結後、しばらくはコミック作品にアートを提供していたものの、2010年代後半に風刺画を扱うようになり、現在は NEW YORKER などにイラストを提供。

こちらも高く評価されています。

J . G. ジョーンズ

シリーズのカバーの多くを手がけたアーティスト。

リアルながら目を引く絵柄の持ち主で他にも DC の大ヒット週刊シリーズ 52 のカバーやメガクロスオーバー FINAL CRISIS などのアートも担当。

マーク・ミラーとタッグを組んだ WANTED や、グラント・モリスンとの MARVEL BOY なども代表作として挙げられます。

マッシモ・カーネヴァーレ

イタリア出身のアーティスト。

ジョーンズ同様、シリーズのカバーの多くを手がけました。

優れた筆致と巧みな構図で映画のポスターを彷彿とさせる表紙で本作を彩ります。


キャラクター(注:ネタバレの可能性あり)

ヨーリック・ブラウン

本作の主人公。

国際電話で恋人のベスにプロポーズしようとしていたところ、疫病発生。

地上のオスが全滅した後、人類最後の男となる。


その後ブルックリンからワシントン D.C. へ移動し、ホワイトハウスで母親と再会。

人類再興の鍵を握る存在として大統領に協力を求められるも、本人はそれより恋人の安否を気にかける。

ワシントンに留まるより移動していた方が安全だという判断から、アリソンの研究に協力するため彼女の研究所に立ち寄ることを条件に、355を伴いベスの行方を追うことを許可された。


手品の素養があり、とりわけ脱出術を得意とする。

おかげで度々ピンチを脱するものの、どこか性格的に我が身を顧みない面があるためプラマイゼロといったところ。

ちなみに大学では英文学を専攻していたものの、卒業後一年経っても無職だった。

アンパサンド

ヨーリックが疫病発生直前にボランティアで飼い始めたフサオマキ猿。

疫病発生後は飼い主同様に地上最後のオス猿となった。

ヨーリックによく懐いているものの、お世辞にもしつけがなっているとはいえず、人にまとわりついたり糞を投げつけるなどする。

元々は介護動物として調達されたと言うが・・・。

エージェント355

米国建国当時から存在していた”カルパー・リング( CULPER RING )”という極秘諜報組織のエージェント(歴史上に実在する組織)。

新大統領をホワイトハウスに連れてきた後、旅に出ることになったヨーリックの警護役を命じられる。

当初は彼について”お守りを強いられたトラブルメーカー”程度に思っていたものの、徐々に心を通わせていく。


体術や武器の扱いに長けており、中でも好んで警棒を使用する。

疫病直前にあるアイテムの回収任務に携わっており、関わりがあるのではないかと考えていた。

アリソン・マン

生殖学の研究をする医師。

特に無性生殖の分野では権威として知られており、ヨーリックも彼女のもとへ赴くよう命じられた。


疫病直前に自分を母体としたクローンの出産を試みるも失敗。

自身の死産と直後に起きた疫病には何らかの関わりがあるのではないかと目している。


ヨーリックと出会った直後、アルターらにより研究所を焼かれてしまったため、カリフォルニアにある予備施設へ向かうため彼らと行動を共にするようになる。


日本人の父親と中国人の母親の間に生まれたハーフ(両親ともに研究者)だが、とくに父親との仲は険悪。

ヒロ・ブラウン

ヨーリックの姉。

疫病前は救命士をしていた。


災厄後、狂信的な女性史上集団アマゾンの一員となる。

弟がまだ生存していることを知ると、仲間と共にその後を追い始めた。

ベス・デヴィル

ヨーリックの恋人。

疫病発生時はオーストラリアにいたが、その後連絡が途絶え、ヨーリックが旅に出るきっかけとなる。

本人もしばらくオーストラリアにいたが、不思議な体験をした後、ヨーリックを求めて移動を開始する。

アルター

イスラエルの兵士。

疫病発生後、何者かから人類最後の男がいることを知らされ、彼を殺害するため部隊を率いてその行方を追う。

ジェニファー・ブラウン

ヨーリックとヒロの母親。

下院議員をしており、疫病発生で男性議員が全滅した後、大統領到着までホワイトハウスでリーダーシップを発揮した。

政情よりも信念を大切にしており、疫病発生直前も他の議員と衝突していた。

エージェント711

355の幼馴染にして同じカルパー・リングに所属していた元エージェント。

かつては世界を核の危機から救うほどの敏腕エージェントだったものの、同僚だった夫が任務中に死亡した後、引退。

現在はほぼ隠居状態で、山奥の小屋に一人住んでいる。

旅の途中で立ち寄ったヨーリックらを出迎えた・・・ように見えたが?。

見どころ

ジャンルの垣根を超えた人間ドラマ

本作はウイルスによって世界が壊滅する、いわゆるポストアポカリプス系作品。

片方の性だけが全滅するという面白い切り口が注目されがちですが、本作はそんなアイデアだけの一発ネタではありません。

ヴォーンとゲラは本作にシェイクスピアからボンデージ SM まで様々な要素をふんだんに取り入れ、ジャンルを超えたリッチな物語を紡ぎ出します。

Y染色体を有する全ての生物を死に至らせたウイルスの出自ももちろん物語の大きな謎として話題に上るものの、本作はその原因究明よりむしろ極限状態に置かれたキャラクターの内面にスポットライトが当てられています。

男性のいなくなった世界で各登場人物は何を考え、どう動くのか。

多種多様なキャラクターの行動原理や動機が深く描かれます。

笑えるシーンもあれば、手に汗握るスパイアクションもあり。

しかし、何より秀逸な人間ドラマが物語を牽引する最大の魅力です。

ハーレム物?違う違う!

地上最後の男で周りはみな女性。

そう聞くとありがちなハーレムラブコメディみたいな作品を想像する方も多いかもしれません。

ところがどっこい。

ヨーリックはモテるどころか捕まり、殴られ、命を狙われ。

本作は「人類最後の男=モテ期到来」といった短絡的な想像力を排除し、男性がいなくなった世界に訪れる個人の内面から社会全体の変化まで徹底的にあぶり出します。

ある者はトラウマに悩まされ、ある者はこれにチャンスを見出し。

様々な思想が提示され、解体され、混じり合いながら物語を豊かにしていきます。

アメコミ史上最高のエンディング

個人的に注目してほしいのはラスト。

本作を評価する際、ついついストーリーに目がいってしまいがちです。

しかし、ゲラをメインアーティストとする絵もそれに勝るとも劣らないクオリティ。

ゲラのアートは上でも述べたようにクセがなく、万人受けしやすいものでありながら、舞台作家のような演出力で表情やジェスチャーからキャラクターの内面を浮き上がらせます。

そんな彼女のアートがヴォーンの脚本から描き出すラストは驚きでも悲しみでもない不思議な感動に満ちています。

自分がこれまで観たり読んだりしてきた中でも一、二を争うエンディングです。

是非自身の目で確かめて見て下さい。

読む方法

本作は基本的に一本道なので容易に読み進めることができます。スピンオフや番外編なども特にありません。

単行本

全10巻の単行本。電子では集めるなら値段も手頃なこちらがオススメ。

デラックス・エディション

やや厚めな全5巻の新装版。紙で集めるならこちらが良いかと。

コンペンディウム・エディション

上下巻からなる辞書サイズのペーパーバック。現在 VOL.1 が刊行中。 VOL.2 はまだ先になりますが、この手の単行本はたまに続刊が出ないこともあるので買う際はご注意を・・・。

アブソリュート・エディション

DC で名作にだけ与えられる豪華版。全3巻からなります。

1冊の値段がべらぼうに高いので初めての方が手を出すにはかなり勇気がいるかもしれません。


以上、Y: THE LAST MAN の紹介でした。

アメコミを読んでいれば避けては通れない名作中の名作(確か邦訳版も出てたはず)。


映像化する前に是非是非読んで頂きたい作品です。


それでは本日もよいコミックライフを。