VISUAL BULLETS ー今日もアメコミ三昧ー

アメコミをはじめとした海外コミックの作品紹介や感想記事などをお届け

新作紹介『 FEAR CASE 』

1.そのカバンを受け取った者は3日以内に最も嫌いな相手へ渡さなければならない。

2.渡さなかった場合、カバンはその者の最も愛する相手のもとへ辿り着く。

3.カバンの中身は絶対に覗いてはならない。

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Tyler Jenkins, Dark Horse Comics

現在でこそ大統領の警護役としての面が強調される米国シークレット・サービスだが、実はエイブラハム・リンカーンが暗殺される数時間前に設立したといわれる米国最初の国内諜報機関である。

そして、そんなシークレットサービスに入局してくる新人には、1年という期限付きで必ずある案件が引き渡される。

それは数多くの前任者が解決することのできなかった、最古の未解決事件。


”ザ・ケース”の行方である。


”ザ・ケース”の中に何が入っているかは誰も知らない。

しかし”ザ・ケース”は有史以来、人から人へ受け継がれてきた。

大日本帝国軍、ナチス占領下のポーランド、エクアドルの麻薬王・・・多くの信奉者を生み、おびただしい数の遺体を積み上げてきた”ザ・ケース”はしかし、ロサンゼルスでカルトの手に渡った後、忽然と姿を消す。


期限を3週間後に控えた2人の捜査官、マーティンとウィンターズ。

彼らはかつて誰もがさじを投げた”ザ・ケース”の行方を掴みかけていた。


おびただしい数の手がかりを辿ってとある住宅街にやってきた2人。

彼らは自宅のプールで血まみれの包丁を握った女性を発見する。

そして家の中で見つかったのは・・・。


マーティンとウィンターズは期限内に”ザ・ケース”を見つけることができるのか。

”ザ・ケース”の中には一体何が入っているのか。

そして”ザ・ケース”が目の前に現れた時、誰に渡すべきなのか。


いわゆる不幸の手紙系ホラーサスペンス。


昨日のコミックエッセイでも描いたとおり、コロナ禍で起こったコミック流通の大変動の余波で、未だに売り切れ作品が出やすい状態です。

本作も当初 #1 を読むのを後回しにしてたら、読んで「うぉー!」ってなった時に #2 が売り切れてて焦って探し回ったという経緯があります・・・(その後無事入手できましたが)。

現在 #3 まで刊行中。

#4までの作品なのであと1ヶ月待ってもいいんですが、昨日届いた#3まで読んで興奮が抑えきれなかったので今日記事にしました。


ライターはマット・キント

アートは作画をタイラー・ジェンキンス、カラーをヒラリー・ジェンキンス

キントとジェンキンス夫妻は過去にも GRASS KINGS BLACK BADGE などで組んでいます。

後者は私も連載を追って読んでいましたが、こちらもめちゃくちゃおすすめです。

ジェンキンスらのアートってキントの語り口と絶妙にマッチするんですよ。

キントは自身もアーティストとして独特ながら味のある絵を描く人なんですが、この手の人って他人にアートを任せる時にかなり人を選ぶ場合があって、合わない人は本当に合わない。

どんなライター/アーティストにも相性というのはあるんですが、ライターもアーティストもやれる人は自身の絵柄が個性的であればあるほどマッチングが難しくなる気がします。

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Matt Kindt, Sharlene Kindt, Dark Horse Comics

(キントのアート)


ジェンキンス夫妻のアートは、鉛筆のような作画と水彩画のような色使いが特徴。

比較的キントの絵柄に近いこともあって最初から受け付けやすく、その上で彼の絵よりもリアリスティックというか、ラフながらより写実的。

幻想的なキント自身のアートによる作品よりサスペンスが引き立ちます。

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Matt Kindt, Tyler Jenkins, Hilary Jenkins, Dark Horse Comics

(ジェンキンスのアート)

キントの持ち味を殺さず別の可能性を示してくれるジェンキンスのアート。

ライター兼アーティストに自身の絵では中々引き出せない新たなポテンシャルを示してくれるという点で、かなり理想的なチームといえるでしょう。



さて、本作のクリエイター陣は全員カナダ出身という共通点があります。

サウスパークを始め、何かとアメリカンコメディでネタにされることの多いカナダの方々ですが、実はコミック業界には欠かせない存在です。

クリス・バチャロ、ジェフ・レミーア、ダーウィン・クックにトッド・マクファーレンにエイドリアン・アルフォーナ・・・と、代表的なカナダ出身のクリエイターを数人挙げただけでもアメリカのコミック業界に及ぼした影響の大きさが窺い知れるかと思います。

海外から米国に渡って変革をもたらした例では英国出身クリエイターによる1980年代の”ブリティッシュ・インベージョン”が有名ですが、よーく調べてみるとカナダ出身のライターやアーティストも深々と足跡を残しています。

最近ではマーベルで BLACK CAT のライティングを手がけているジェド・マッケイなどが注目を浴びつつあります。


実は最近自分の中でカナダ系のクリエイターというのがすごく熱くて、やや重点的に読んでいます。

好みに合っているだけかもしれないんですが、カナダ系のクリエイターが手がける作品って他の一般的なアメリカンコミックと比べてすごく読みやすいんですよ。

それこそ日本の漫画並に。

ただし、日本の漫画は結構感情表現が強すぎて私なんかは気恥ずかしさみたいなものをたまに感じてしまうんですが(もちろん全部が全部ではないです)、カナダ系のクリエイターによる作品ってそういうのほとんど感じないんです。

感情がないわけではなく、静かにビルドアップされているような感じといいますか。

白鳥が水面を滑っているのを見ているよう。水面下で足をばたつかせているものの、表面上は見えない。


本作にしてもそれなりに雰囲気の重いサスペンスなのに、さくさく読み進められます。


読みやすい。

でもサスペンスは着実に高まっていて。

気がついた時には「自分が”ザ・ケース”を渡されたらどうするか」とか考えてしまうほど、物語に取り込まれている。


作者の思うつぼってやつです。

作者の思うつぼにハマった時ほど読者は幸せなんです。


決して派手なストーリーではありません。

けれど頭の中にしっかり刻まれる物語です。

是非読んでみて下さい。

”ザ・ケース”は嫌いな人に渡さなきゃですが、本作はきっと好きな人に話したくなる作品です。


それでは本日もよいコミックライフを。