"I AM NOT A NUMBER! I AM A FREE MAN!"
ー NUMBER SIX.
あらすじ
MI5 でも随一の諜報員だったブリーン。
だが、中東のミッションで相棒(であると同時に恋仲)のキャリーが失踪してしまう。
行方を探して躍起になる彼は上司からとある場所の名を聞かされる。
ザ・ヴィレッジ。
それはいかなる組織にも属せず、指揮系統から所在まで一切が謎に包まれた場所。
諜報員達を秘密裏に拐かし、あらゆる手段を講じて情報を抜き出すことを目的とする逃亡不可能の村。
スパイ達の間で都市伝説として囁かれているその場所が実在することを知った彼は、ある任務を与えられれる。
ザ・ヴィレッジへの潜入。
キャリーを助け出すべく、ブリーンはザ・ヴィレッジへの潜入を決意する。
だが、場所もわからないその場所へ潜入するには、まず自ら拐かされるよう仕向ける必要がある。
彼は”パンドラ”という謎の存在が保管されている極秘施設への潜入を試みる・・・。
ドラマの続編にして新作
THE PRISONER とは1967年に英国で制作されたスパイアクションドラマ作品です。
日本では「プリズナー NO.6」として知られています。
1967年に制作されたこのドラマは”ザ・ヴィレッジ”と呼ばれる謎の村を舞台に、パトリック・マクグーハン演じる元英国諜報員こと”ナンバー6”が、管理人である”ナンバー2”(エピソードごとに役者が変わる)と権謀術数を繰り広げるという内容。
村から逃げようとするナンバー6と彼が隠している情報を入手しようとするナンバー2との化かし合い、謎と衝撃に満ちたストーリー、それに英国カントリーサイドに アヴァンガルドっぽさを取り入れた独特のデザインなどが人気を博し、わずか17話というエピソード数ながら現在はカルト作品として知られています。
本作はドラマの設定を引き継いだまま、現代に舞台を移してキャストも一新したオリジナルストーリー。
キャラクターなどは変わっていますが、ドラマの大きな魅力である頭脳戦、謎、そして本作ならではのデザインといった要素はそのままなのでかつてのファンも十分に楽しむことができます。
もちろん、ファンであれば思わずニヤリとするような要素も・・・。
おなじみ、海岸を白い球体(ローヴァー)に追っかけられるシーンもちゃんとあります。
一級のスパイアクション
ドラマを観ていないから本作は関係ない?
いえいえ、それは勿体無い。
本作は上でも述べたとおり設定は引き継ぎつつも、キャストは一新されているオリジナルストーリー。
カバーにはドラマ版のナンバー6が描かれていますが、本作でナンバー6として活躍するのはブリーンという人物です。

ザ・ヴィレッジのことなども作中でしっかりと説明されており、これだけで独立したスパイアクション作品として読むことも可能。
1冊に収まるストーリーというのも手が出しやすいかと思われます。
本作で作画を担当しているコリン・ロリマーは数多くの映像作品に関わりストーリーボードなどを手がけてきた人物。
ドラマのコミカライズの中には実写と絵でキャラクターの顔などが変わりすぎて魅力が半減してしまう作品もありますが、ロリマーの絵柄はリアル調なので個人的にはかなり読みやすい方だと感じました。
新しいドラマを試してみるような感覚で本作を読んでみるのも良いかと思います。
その後でドラマを見るのもまた一興かもしれません。
実験的ながらしっかりエンターテイメント
本作のライターはピーター・ミリガン。
アラン・ムーアやニール・ゲイマンらと共に1980年代のいわゆる”ブリティッシュ・インベージョン”でアメコミ業界へ進出してきた英国系クリエイターの1人です。
ムーアやゲイマンほど知名度はないものの、実力派彼らに負けず劣らず。
本ブログでも何度か取り上げていますが、手がける作品には大当たりと当たりしかないという凄まじい手腕の持ち主です。
彼の持ち味は娯楽性と実験性を兼ね備えたストーリー。
他作品では中々見られない要素を作中に持ち込みつつ、しっかりエンターテイメントとして成立させてきます。
そんな彼にとって娯楽性と先進性を兼ね備えた THE PRISONER という題材はまさにうってつけ。
ミリガン得意のバランス感覚でオリジナル作品として成立しつつも、世界観を確かに引き継いだフランチャイズ作としても完成しています。
ドラマを知っている知らないを問わず、満足度の高い作品が読みたいと思った方には是非トライして頂きたい。
そしてミリガンの魅力を存分に味わってもらいたい。
そんな作品です。
ドラマや映画を原作にした作品というのはアメコミにもたくさんあります。
しかし映像とコミックの間にある様々な違いから観むのと読むのとでは印象に大きな違いが生じます。
それが苦手という方も少なくありません。
本作は世界観を引き継ぎながら原作ドラマとは絶妙な距離感を保つことでコミック作品としても高いレベルに仕上がっています。
良質なスパイアクションを読みたい方、ちょっと変わった作品を読んでみたいという方などは是非本作を試して見て下さい。
それでは本日もよいコミックライフを。