VISUAL BULLETS

アメコミをはじめとした海外コミックの作品紹介や感想記事などをお届け

PLASTIC MAN: RUBBER BANDED ( DC )

待望の新装版は期待通りの期待以上。

ちなみに新装版は紙の書籍で買うと本をまとめるゴムバンドが付録でついてきます。


あらすじ

ギャングの一員だったイール・オブライエン

とある化学工場で盗みを働いたところ、誤って薬品を体に浴びてしまい、肉体が形状を保てなくなってしまう。

保護された修道院で会心し、体の形を自由自在に操れるようになったオブライエンは、新たに”プラスチックマン”としてヴィジランテ活動を始める。

数年後、すっかりスーパーヒーローとして信頼されるようになったプラスチックマン。

今日も(頼りにならない)相棒のウージー・ウォンクスと共に犯罪に立ち向かう。

犯罪者だった頃の彼のことを知る者はいない・・・そう思っていたのだが。


ある日、見つかった撲殺遺体。

そのすぐ側に落ちていた財布から見つかったのは犯人のものと思しき身分証明証。

それはイール・オブライエンのものだった!

だがオブライエンことプラスチックマンに殺人を犯した記憶などない。

身の潔白を晴らしたいプラスチックマンだが、正体を明かせば犯罪者オブライエンとしての過去が明るみに出てしまう。

プラスチックマンは FBI から派遣された捜査官のモーガンと調査を開始するが・・・。

プラスチックマン

プラスチックマンは1941年にジャック・コールの手で生み出されたキャラクター。

DC やマーベルのキャラクターの多くがライターやアーティストの共同作業で生み出される中、プラスチックマンはコールがライティングから作画まで大部分を手がけました。

ちなみに勘違いされやすいですが、”プラスチック”とは私達が普段耳にするペットボトルなどの樹脂素材のことではなく、元々の英語の意味である”可塑的(形が自由自在であること)”という意味です。

デビュー当初は今で言うクオリティ・コミックスのキャラクターでしたが、60年代出版社の倒産に伴い版権を DC コミックスに買われ現在に至ります。

隠れた人気キャラとして知られており、過去にはグラント・モリスン時代のジャスティス・リーグに参加したり、20年の大型クロスオーバー DARK KNIGHTS: METAL で物語の鍵を握る重要キャラとして登場したりした他、何度か映像化もしています。

現在はミスター・テリフィック率いるテリフィックスに所属。

本作はそんな彼が主役を飾るタイトルで2004年から06年にかけて連載されました。

刊行時にはアイズナー賞を8つ獲得するなど高い評価を得ていたものの、単行本は長らく絶版・・・。

昨年ようやくシリーズ20号全てを収録した新装版が刊行されました。

カイル・ベイカー

本作のアートからライティングまで手がけているのはカイル・ベイカー

オリジナル作WHY I HATE SATURN を始め、数多くの作品で高い評価を得ているカートゥニストです。

批評性の高いストーリーやコミカルな絵柄が特徴として挙げられるかと。

マーベルや DC にも数多くの作品で関わっており、わかりやすいところでいえば最近「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」に登場したイザイア・ブラッドリーの生みの親の1人として知られています。


彼のアートはとにかく自由奔放。

特に最近の作品はストーリーも即興的なら絵柄も安定せず、コマによってはぱっと見”下手”と思ってしまう方もいるかもしれません。

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全て同じ人物の作画 出典: PLASTIC MAN #2, #20, #8 by Kyle Baker, DC COMICS

しかし破綻するギリギリのラインを走りながら、何故かきれいにまとめてみせてしまうのが彼の手腕。

支離滅裂に物語を広げまくるのに、結果として最後はうまくおさまっているという。

そんなカオスが彼の大きな魅力だと私は考えています。


そしてプラスチックマンのような(物理的にも)自由度の高いキャラクターを扱う本作はまさに彼の独擅場。

ハチャメチャなのにグイグイ引き込まれてストンと落ちる - そんな作品に仕上がっています。

DC コミックス

真面目な話、よく DC はこれ許可したなーと思うくらい自由にやってます。

そもそも DC やマーベルってあまり1人でライティングからアートまでやらせることを好みません。

基本的に別個で用意します。

なので本作のようにカラーやレタリングまで1人に任せる作品というのはかなり異例中の異例といえるでしょう。


中身もかなり自由で、本作が刊行された当時 DC ではちょうど INFINITE CRISIS が進行していたと思うんですが時事ネタを積極的に突っ込んでいくわ、バットマンの強敵である筈のラーズ・アル・グールをぞんざいに扱うわ、勝手に人気ヒーローをあっさり死亡させるばかりか、しまいには沈痛に描かれた葬儀シーンにおけるバットマンのモノローグがこれ。

THESE BLACK LEATHER BRIEFS MAKE MY BUTT ITCH.
(この黒革のブリーフ、お尻が痒い)

TOO MANY CAMERAS TO DO ANYTHING ABOUT IT.
(カメラが多すぎて何もできない)

出典: PLASTIC MAN #20 より

ただ、自由にしても良いと言われた時に多くのクリエイターが重要なキャラクターが死亡したり逆に凶行に及ぶようなシリアスな R-15 方面に進むのに対し、ベイカーは単純にハメを外しまくるっていうのはやっぱり好感持てますね。

スコット・モース

実は本作にはベイカー以外にスコット・モースによる短編も2つ収録されています。

単行本に収録されている解説によると、どうやら編集部がライティングからアートまで全てやるというベイカーに対して「絶対に締め切りを落とす」と予想して依頼した作品だとか(ただしベイカーは一度も締め切りを落とさなかったので逆にモースの話を掲載するため休むよう言われたという)。

モースの作品はカオスの権化ともいうべきベイカーと比べるとややうまくまとまっている印象があり、アートっぽい作品に仕上がっています。

こちらはこちらでベイカーに負けず劣らずのテンションの高さでもっと読んでみたいと思わせてくれる出来です。


どんなものか試してみたい方はまずこちらの分冊版を購入してみても良いかと。

またプラスチックマンについては現行の DC ユニバース内で2018年に刊行されたこちらのシリーズもあります。


それでは本日もよいコミックライフを。