I HAVE A PRESCRIPTION FOR YOU...
− FROM DOCTOR MID-NITE#2 by MATT WAGNER et al, DC COMICS
あらすじ
貧困により日々治安が悪化する都市、ポーツマス・シティ。
色素性乾皮症(日光などに含まれる紫外線で皮膚が過度にダメージが受けてしまう遺伝性の皮膚疾患) に悩まされるカーミラ・マーロウは苦しみから逃れるため違法薬物に手を出そうとしていたところを1人の医師に止められる。
彼の名はピーター・クロス。
天才的な頭脳と巨額の富に恵まれた彼はそれを社会に還元すべく、貧しさにあえぐ人々を救うため日々奔走していた。
カーミラはそんなクロスの人柄に興味を抱き、彼と行動を共にするようになる。
だがそんな中、街に蔓延している新型ドラッグ ”A39” の出荷元を調査していたピーターは返り討ちに遭い、失明してしまう。
一時絶望するもカーミラの叱咤激励もあり立ち直った彼は、やがてあることに気づく。
光を失ったと思われていた目は、闇であれば遥か遠くまで見渡すことができるようになっていたのだ。
やがてピーターは自分の元へ飛び込んできたフクロウと、かつて人々のために活躍したヴィジランテにインスパイアされ、新たな衣装を身につけるようになる。
夜はドクター・ミッドナイトの診療時間だ。
ドクター・ミッドナイト
ドクター・ミッドナイトは DC で1941年にデビューしたキャラクターです。
初代はチャールズ・マクナイダーという方で、こちらは二代目のベス・チャペルと共に実写ドラマ『スターガール』などに登場しているので御存知の方もいるかもしれません。
ですが、本作で活躍するのはその更に後を継いでドクター・ミッドナイトとして活躍したピーター・クロス。
彼のオリジンを描いた作品です。
正直、私自身ドクター・ミッドナイトって本作を読むまであまり詳しくありませんでした。
ジャスティス・ソサエティの一員としては知っていたものの、そこに出てくる彼は他のグリーンランタンやワイルドキャットみたく派手に活躍する人物ではありません。
戦うシーンも確かにあるものの、どちらかといえばチームの医療面で重要な役割を担い、ややサポートキャラ的な位置づけという感じでした。
しかし、本作で描かれるドクター・ミッドナイトは大違い。
ドクター・ミッドナイトはフクロウや夜をモチーフにしていることなどから、バットマンと対比されることもありますが、本作に登場する彼は闇の騎士に勝るとも劣らぬヴィジランテ。
ミステリアスで、アクロバティックで、知的な人物として描かれています。
本作はそんな彼が初めてのヴィジランテ活動に四苦八苦する様も含めて、ドクター・ミッドナイト版イヤー・ワンとでも言うべき作品。
ネオ・ノワール映画などが好きな方はきっと楽しめると思います。
ストーリー
馴染みのなかったドクター・ミッドナイトに手を出した理由はぶっちゃけライティングがマット・ワグナーだったからです。
マット・ワグナーのライティングをまともに酷評する人って基本的にみたことないですね。
オリジナル作品の GRENDEL や MAGE などが代表作の彼ですが、 DC などでもバットマンはじめ数多くのキャラクターを手がけており、特にストリート系ヴィジランテを扱った作品に定評があります。
ワグナーのストーリーは筋こそシンプルながら心情の掘り下げ方が上手で印象的なキャラクターを描きます。
モノローグと会話が入り乱れながら進むストーリーは往年のハードボイルド小説を読む感覚に少し似ているかもしれません。
ワグナーの作品にしては比較的短いので、彼の作品を読んだことがない方にも本作はおすすめです。
アート
本作でアートを担当しているのはジョン・K・スナイダー III。
アラン・ムーアらの MIRACLEMAN などにもカバーアートを提供するほどの凄腕アーティストではあるものの、正直初めて見るとやや見にくい絵柄です。
絵の具っぽいカラーリングって90年代から00年代初期くらいまでの間に一時流行ったんですが(デイヴ・マッキーンとか)、仕上がりがやや濁って見えるというか、ちょっとどぎつい印象を与えてしまうんですよね。
カバーアートのような一枚絵としてはいいものの、コミックなどでは若干不利。
本作にしてもぱーっとページをめくっただけだとごちゃごちゃした印象を受けるかもしれません
正直見やすさという点だけで言えば巻末に掲載されていた設定資料スケッチの方が見やすいかも(以下の画像参照)。
しかし、実際に読み始めるとそれほど苦でもなく、むしろワグナーのストーリーもあってぐんぐん引き込まれます。
それに従い、擬音や色使い、あるいはフキダシの形など随所に散りばめられたスナイダーの工夫も窺えるように。
やや人を選ぶアートではあるものの、ハマる人にはハマるかと。
DC やマーベルは長い歴史で培った豊富なキャラクターを擁しているにも関わらず、その全てがバットマンやウルヴァリンほど活躍の機会を与えられていません(特に最近は)。
しかし、だからこそこうしたマイナーなキャラクターにスポットライトを当てる際、特に DC などは強めにこだわってくる傾向があります。
本作もそんな例の1つ。
ネットが飛びつくような話題作ではないものの、読んだ人を確かに満足させる手堅さがあります。
是非読んでみて下さい。
巻末の設定資料はほんの2ページなのでまずは作品だけ楽しみたいという方は電子で以下の各号分冊版を入手した方がお安く済みます。
それでは本日もよいコミックライフを。