1945年、春。
ニック・フューリー軍曹率いるハウリング・コマンドーズの面々は次なる任務へ向かうべく輸送機の中にいた。だがそんな中、彼らは海上で味方の爆撃機と遭遇。次の瞬間、新型爆弾の実験に巻き込まれてしまう。間一髪難を逃れたハウリング・コマンドーズは近くの島に辿り着くが……。
一方、部下とはぐれたフューリーもまた島の中で不可思議な体験をする。
Journey Into Mystery: The Birth Of Krakoa (2018) #1
最近じゃ鎖を全身に巻きつけて現代のジェイコブ・マーリィとも称される(呼んでるの私だけか)ニック・フューリーの軍曹時代、まだ戦場でブイブイ言わせていた頃の姿を描いたワンショット。アイパッチもまだありません。
タイトルにもあり、今回フューリー達が訪れる舞台となる「クラコア」とは『 Giant-Size X-Men (1975) #1 (Uncanny X-Men (1963-2011)) 』に登場し、ウルヴァリンやストームが加わる新チーム結成のきっかけになると同時、その圧倒的なビジュアルとパワーで読者に強烈なインパクトを残した”生ける島”のこと。
また『 JOURNEY INTO MYSTERY 』ってのは主に1950年代から60年代にかけて刊行されたタイトルで、ソーが初登場したことでも知られるやつ。
正直刊行が発表された直後は「なんで今更フューリー&ハウリング・コマンドーズ?しかもクラコア?てか『 JOURNEY INTO MYSTERY 』?これ何かの伏線なん?」とか色々渦巻いてたものの、そのへんの疑問は何も晴れません。
いや、このまま引きずらないのもむしろ潔くて個人的には良いけれど。
いやあ、もうカバーからして渋いです。スーパーヒーローのアイドル化が進んでいる今日このごろ、メインキャラがこぢんまりと描かれている上に黒く塗りつぶされてる表紙って中々見られませんよ、奥さん!非常に痺れる。
ストーリーも核実験に巻き込まれたコマンドーズの不安と生まれたばかりのクラコアによる奇々怪々が絶妙に絡み合って良い感じ。ジブリル・モリセット=ファンによる太い線と濃い陰影の作画もあって、じわじわ来るようなホラーに仕立て上がっている。
蛍光色の土、追い詰められる兵士、忍び寄る苔……。
物語を読んでいるうち、ふとあることに気づきました。
「この感覚、どこかで覚えが……」
「……そうだ、『マタンゴ』だ!』
皆様ご存知でせうか。
1963年に公開された東宝の特撮ホラー『マタンゴ』を。とある島に辿り着いた若者らがそこに植生する「マタンゴ」なるキノコを食って恐怖の結末を辿るという一部の方々に大変人気な作品なのですが、本作もあれに似た生理的嫌悪と心理的不安の入り混じった雰囲気を大いに醸し出してくれています。
控えめに言って好物。大好物です。
良くも悪くもワンショットのため結末はやや駆け足で残念だったものの(というかこれ微妙に『 X-Men: Deadly Genesis 』と矛盾するような……)、そこまでの展開は戦場ものとねっとり系ホラーを組み合わせた上質な作品でした。
こういう派手じゃないけれど高品質な作品もっと増えないかなあ……。