2000年代初期は米国コミック業界にとって1つの転換機でした。
マーベルでは長い歴史を持つキャラクター達を新しい読者向けにアップデートした”ULTIMATE”ラインナップが始まり、グラント・モリソンがライティングを手掛ける NEW X-MEN 、ガース・エニスによる MARVEL KNIGHTS 版 THE PUNISHER 、 X-STATIX 、 ALIAS と衝撃的な作品が数多く開始されました。
DC でもいよいよ勢いをつけ始めた VERTIGO から FABLES や Y:THE LAST MAN といった現在まで語り継がれる大ヒット作品が続々とデビューする一方で STARMAN のようなカルトヒット作が有終の美を迎えました。
そうした新たな時代を予感させる作品達の奔流に揉まれながら、なお”ストーリー”と”アート”という伝家の宝刀で読者の心を鷲掴みにした隠れた人気作がこちら。
ストーリー・アートどちらをとっても巨匠級、83年から87年にかけて THOR のエポック・メイキングな連載を手掛けたウォルト・サイモンソン。
彼がニューゴッズ最強の戦士オライオンを描いたシリーズ ORION です。
母親から「お前はダークサイドの息子じゃねえよ」と言われ困惑、アポカリプスにカチコミをかけるオライオン。
真実を知るダークサイドはその頃、全宇宙を支配する”非生命方程式”を狙い地球で暗躍中。
かつてニューゴッズの陰謀に巻き込まれた地球人の刑事ダン・ターピンやニュースボーイ・リージョンの面々、また謎の資産家アーニカス・ウルフラムなども巻き込み新たな戦いの火蓋が切って落とされる。
……という感じのあらすじでスタート。
シリーズ大半のライティングと線画をサイモンソン自らが担当、他に50年代60年代から業界で活躍し続けているカラーのタティヤナ・ウッドがいたり、レターのジョン・コンスタンザがいたりと豪華豪華。
しかも本シリーズには様々なトップレベルアーティストが参加するバックアップが収録されており、本編には収まりきらなかったニューゴッズ達の過去や現在の活躍がフランク・ミラーやアーサー・アダムズやジム・リーの手で描かれています。
その中には2018年に亡くなったスティーブ・ディッコが大手で手掛けた最後の作品と言われるファン垂涎の短編”INFINITELY GENTLE INFINITELY SUFFERING”も。
(ただし難を言うならバックアップは本編とも密接に関わっているため併せて読む必要があるにも関わらず、自分が所持しているオムニバスでは本編後にまとめて収録されているのでページを行ったり来たりしなければならないことか。これについてはサイモンソン本人も苦言を呈していた)
以下は BLEEDING COOL の記事。
Walter Simonson On The Order Of Orion (UPDATE)
今から手に入れやすいこちらの TPB なら順番通りに収録されているかも?
本作の魅力はとにかく読んで体感するしかない!
コズミックアクションならではのド派手さと圧倒的規模によるダイナミックなイラスト。
ああ、これこれ、こういうのが読みたかった!という欲望を忠実に満たしてくれるアドレナリンラッシュ・ストーリー。
ドラマパートも丁寧で単なる場繋ぎ以上にきちんとオライオンの葛藤と成長が描かれます。
オライオンが平和のため邁進(迷走?)する前半と、(色々あって)どん底から這い上がる後半とに物語が大きく分かれるのはなんとなく神話的。
そうはいうもののヒャッハーしてようが泥水すすってようが基本的にちぎっては投げちぎっては投げで切り抜けるのでテンションが下がることはないのでご安心を。
なんといっても醍醐味は絶叫!爆発!殴り合い!
「最高!」と読みながら歯を固く食いしばり、最初から最後までテンションマックスで駆け抜けること間違いなし。
中でも注目すべきはオライオンとダークサイドの一騎打ちを描いた#5。
モノローグやセリフがほぼない22ページ、宿命の親子がひたすら拳を交わします。
え、なんでこんなすごいバトルが全然知られてないの?と驚くレベルの高純度な父子喧嘩。
是非是非、この号だけでも読んでほしい。
あ、ちなみに DC のニューゴッズといえば実はマーベルのアズガルドの遥か未来の話という裏設定があるんですが、本作でもそのあたりは踏襲されており、かつてどこぞの雷神が身につけていたであろうベルトが魔改造されて闇宝具として使われています。
なんにせよ、派手でぐんぐん呑み込まれるド級の作品。
これが埋もれているのはあまりに勿体ないので是非多くの方に読んでほしいです!!