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追悼 リリー・ルネ・フィリップス

米国コミック業界の黎明期である1940年代から50年代にかけて数少ない女性クリエイターとして活躍したアーティスト、リリー・ルネ・フィリップスの訃報が報じられました。

101歳だったそうです。

以下のリンクはニューヨーク・タイムズからの記事。

Lily Renée Phillips, Pioneering Comic Book Artist, Dies at 101 - The New York Times

1921年にオーストリアのウィーンで生まれたリリー・ルネ・ウィルヘイムは、幼い頃から絵を描くことに親しんできました。

しかしナチスの侵攻に伴いユダヤ系だった彼女は故郷を脱出、一時英国に滞在した後、ニューヨークへやってきます。

家計を助けるためフィクション・ハウスという出版社の求人に応募した彼女はそこでコミックの背景を描いたりメモを消したりするなどアシスタントのような形で働き始めます。

ですが当時のコミック業界はまだ社会的地位も低く、また同僚が男性ばかり(ただし他に女性スタッフがいなかったわけではなかった)という職場ではセクシャルハラスメントも横行しており、ルネにとって決して良い場所ではなかったそうです。

それでも頑なに勤め続けた彼女はやがてペンシラーとして作品を手掛けることになり、初仕事では男性ばかりの飛行機乗りがひしめく中で活躍する女性パイロット、ジェーン・マーティンというキャラクターを生み出します。

その後もアール・ヌーヴォー調の画風やドイツのおとぎ話を作風に取り入れたホラー THE WEREWOLF HUNTER や、女性スパイが南米でナチスらを相手に活躍する SENORITA RIO といった作品を手掛けました。

特に SENORITA RIO は海外にいる兵士などから好評を博し、彼女にとって最大の代表作となりました。

その後、リリー・ルネは同じくアーティストだったエリック・ピータースと結婚、フィクション・ハウスがニューヨークを離れたのを機に職場を移り、徐々にコミック業界から遠ざかっていきます。

ピータースと離婚し、ランドルフ・ゴドフリー・フィリップスという男性と再婚し2人の子供を産んだ後はほとんどコミック業界との縁がなくなっていたそう。

50年近く業界から姿を消していたリリー・ルネですが、その孫娘達がクリエイターで業界史研究家でもあるトリナ・ロビンスに彼女を紹介したことがきっかけで再評価されるようになり、2007年に初めてサンディエゴ・コミコンに出席し公の場に姿を現します。

さらに2011年には彼女の半生をコミック化した LILY RENÉE, ESCAPE ARTIST: FROM HOLOCAUST SURVIVOR TO COMIC BOOK PIONEER という作品が刊行され、注目を集めました。

ゴールデンエイジに女性クリエイターの先駆者として活躍したリリー・ルネ・フィリップス。

活動期間こそ短かったものの、彼女が業界に残した功績は図り知れず今後も讃えられ続けることでしょう。

ご冥福を心よりお祈り致します。