VISUAL BULLETS

アメコミをはじめとした海外コミックの作品紹介や感想記事などをお届け

オニ・ライオンフォージ騒動

タイミング的に日本で変に曲解されて利用されないとも限らないのでオニプレスとライオンフォージに関連する一連の報道を自分なりに整理してみました。

オニプレスとライオンフォージの合併

オニ プレスは97年に設立された出版社でオレゴン州ポートランドを拠点とする出版社です。

KAIJUMAX THE SIXTH GUN といったオリジナル物、あるいはリック&モーティやインベーダージムなどの版権コミックを刊行していました。

同社の最大のヒット作はブライアン・リー・オマリーによるアクションラブコメ(でいいのか?) SCOTT PILGRIM シリーズで、同作は2010年にエドガー・ライト監督の手により実写映画化された他、現在日本のアニメ会社なども参加するアニメ化計画が進行中です。


一方、ライオンフォージ コミックスは当時オリジナルコミックの隆盛などを背景に2011年設立された新興出版社の1つで、ミズーリ州セントルイスに拠点をおいていました。

”カタリスト・プライム”と呼ばれるスーパーヒーロー系ラインアップ作品を刊行したり、コミック情報サイト THE BEAT を買収(現在は関係を解消)するなどして事業を拡大していました。


さて、オニプレスとライオンフォージはライオンフォージの創設者であるデイブ・スチュワード二世が設立したポラリティという会社の傘下に加わる形で2019年に合併(ポラリティによる吸収という見方も)、新たに「オニプレス・ライオンフォージ・パブリッシンググループ(以下OLFPG)」を設立。

近年は LGBT 問題などアイデンティティにまつわるテーマを扱ったヤングアダルト向けオリジナル作品に力を入れ、積極的に刊行するなどしていました。


さて、そんな中で先日、長年オニプレスで務め、事業合併後もコミックを監修し続けてきたジェームズ・ルーカス・ジョーンズチャーリー・チューが OLFPG を離れることが報じられます。

理由は定かではないものの、コミック情報ウェブサイト BLEEDING COOL は2人が親会社であるポラリティに追放されたという見方があると紹介。

先に挙げた THE BEAT も本件に関連してポラリティが合併直後にも女性や LGBT の従業員をはじめとしたスタッフを大量解雇して問題視された過去があることを報じています。

現在までのところ、 OLFPG は本件について質問した BLEEDING COOL に対する回答で社内における様々な変更が行われていることを認めつつ、それ以上の言及はしていません。


また、過去にオニプレスから作品を刊行していたクリエイターのスティーンズが SNS で同社から作品のロイヤリティが支払われていないことに言及。

これが OLFPG の2019年の合併や最近の”変更”によるものかは定かではないものの、他にも多くのクリエイターが同じような扱いを受けていると示唆しています。

GENDER QUEER 騒動

さてこうした状況と時を同じくして話題となっていたのが GENDER QUEER という作品。

2019年にオニプレスから刊行された本作は著者であるマイア・コベーブがノンバイナリ(性自認が男性でも女性でもない個人)としての思い出を描いた自伝作品です。

本作は内容のテーマ性や描写力が高く評価され、アメリカ図書協会が若年層向け作品に与えるアレックス賞を受賞。

ただ一方で性器の直接的な描写などが一部の保守的な層から問題視されるようになり、いくつかの図書館で閲覧不可に。

2021年には再びアメリカ図書協会から今度はその年において「最も迫害を受けた書物( THE MOST BANNED OR CHALLENGED BOOKS )」としてピックアップされました。

特にヴァージニア州では本作を問題視した母親が自身の子供が通う高校の図書館から本作を排除するよう過激なパフォーマンスともとれる行動を起こし、保守系メディアを通じて大きな話題を呼びます。

結果、ヴァージニア州では一時本作が閲覧不可となりました(内容を精査した結果、現在は再び閲覧可能となった模様)。

このことは2021年11月に行われたヴァージニア州知事選挙でも候補者同士の舌戦で取り上げられ、誤解を生みかねない回答を出した民主党候補者の敗北に繋がったともいわれるほどです。

こうした一連の流れを踏まえた上で、2022年5月に本作の著者であるマイア・コベーブや出版社である OLFPG (訴状ではライオンフォージになっているようにもみえる)に対し、共和党系の弁護士らがわいせつな出版物を取り締まる州法に同作が違反しているという訴えを起こしていたことが先日明らかになったというわけです。

まとめ

こうした一連の経緯を踏まえた上で改めて状況を整理すると

1)オニプレス関係者が OLFPG から離れる。

2)オニプレスから作品を出したクリエイターがロイヤリティの不払い問題に言及している。

3)保守層が OLFPG から刊行された GENDER QUEER という作品に対して訴えを起こした。

となります。

現状において3つの事件は因果関係のないものであり、少なくとも私の調べた限り、相関性を示唆する内容の発表はありません

同じ会社に関連する別個の事件が同じ週に報じられたというだけの話です。


無論、後から OLFPG 、あるいはジェームズ・ルーカス・ジョーンズやチャーリー・チューから何らかの発表があり関連性が明らかになる可能性もありますが、現在求められるのはわかりやすい推論に惑わされず、とにかく冷静に経緯を注視する姿勢です。


以下、今回の記事を書くにあたり参考にした記事です。

Oni-Lion Forge Pushes Past the Pandemic
Major Changes At Oni Press - James Lucas Jones & Charlie Chu Out?
James Lucas Jones and Charlie Chu out at Oni Press
Ex-Staffers Accuse ‘Inclusive’ Comics Publisher Oni Press of Discrimination: ‘It Feels Targeted’
2020 Alex Awards | Young Adult Library Services Association (YALSA)

ちなみに話題を読んだ GENDER QUEER ですが近くデラックス版が刊行されるそうですので、興味が湧いた方は是非。