VISUAL BULLETS

アメコミをはじめとした海外コミックの作品紹介や感想記事などをお届け

2018年度上半期に刊行されたコミック個人的ベスト5

 今年も昨日で半分終了したので、ここで1度これまでのアメコミシーンを振り返る意味で個人的なベスト5を列挙してみようと思いまして。

5.X-MEN: RED #1 ( MARVEL )


X-Men Red (2018-) #1

Image Credit: Travis Charest / Marvel Comics

 ジーン・グレイ率いるゴールド、レッドに続く X-MEN 第3のチーム。

 ぱっと見た際の目新しさというのはないものの、長く奥深い歴史を有するX-MENはともすれば変化球的な展開が多く、むしろ今回のような直球ストーリー新鮮。「自分たちの身を守りながらミュータント差別をなくすため尽力する」という原点回帰ながらプログレッシブな姿勢が明確に打ち出されていて、続刊にも希望が持てる内容だった。

 とにかくジーンの存在感によってもたらされる安心感が半端ない。
  X-MEN のリーダーって程度の差こそあれ、大半がナイーブな奴と危うい奴、重圧に押しつぶされる奴と何しでかすか分からない奴とに大きく二分される印象がある。ミュータントを脅かす社会的脅威の規模を考えれば当然といえば当然なものの、逆にだからこそ信頼できるリーダーの活躍が目にしたいというもの。
 その点でジーンは空白期間を考慮しても経験を積んでいるし、また一方で能力を絶対に悪用しない倫理性も備えている。

 他のメンバーに関してもナイトクローラーウルヴァリン(ローナ)など、実力と人格を兼ね備えた者が多い。ハニーバジャーとか初めて目にしたけれど、すぐに好感が持てた。

 X-MEN に関しては近くまだ地殻変動が起こりそうで本作も今後の展開ではどうなるかわからないものの、#1以降も現状はかなり良い路線を突き進んでいるのでおすすめです。

 

4.ACTION COMICS #1000 ( DC )


Action Comics #1000: The Deluxe Edition

Image Credit: Jim Lee, Scott Williams & Alex Sinclair / DC Comics

 これを挙げないわけにはいかないだろう。

 別に記念碑的作品だから挙げたというわけではなく、実際に内容も良い。それまでシリーズを担当してきたダン・ジューゲンスによる話や本作が DC デビューとなるブライアン・マイケル・ベンディスによる話も載っていれば、スコット・スナイダーブラッド・メルツァーなんかの作品もある。
 個人的にはジェフ・ジョーンズオリバー・コイペルらによる『 THE CAR 』、それにトム・キングクレイ・マンらによる『 OF TOMORROW 』なんかがスーパーマンの始まりと終わりを描いており、良い対比を生んでいるように感じられた。
 
 どの作品もそれぞれの方法で直接的間接的に”スーパーマン”というキャラクターの存在意義についての回答を示しており、改めて彼だからこそ#1000という偉業を初めて成し遂げられたのだということを実感させられる。

 いやー、やっぱ赤いパンツは映えるなあ。

3.ÜBER: INVASION #12 ( AVATAR )


Uber: Invasion #12

Image Credit: Daniel Gete / Avatar Press

 「第2次世界大戦でナチスが超人の開発に成功していたら?」という問いをテーマにしたキーロン・ギレンの仮想戦記シリーズ『 ÜBER 』はぶっちゃけどの号も良い。今回挙げるコミックは5つにしたものの、ベストテンまで増やしたら絵面がもうちょい派手な#11もいれたい。

 #12は正直かなり地味だ。戦禍が米国本土にまで進出している間、ベルリンで何が起こっていたかを淡々と描く。アクションはほとんどないし、物語がこれといって大きく動くわけじゃない。
 だが第2シリーズも既に12冊め。ここまで読んできた者なら最早そんな瑣末事が何の意味も持たないことは十分理解している筈だ。
 
 真綿で首を締められるような気分になるにも関わらず、読み進めるのをやめられない。焦土と化した市街、生気を失った人々の目、終始事務手続きのような会話……”戦争の悲惨さ”などという言葉で片付けられない絶望感が全ページに渡って広がっている。
 敢えて話の中心から距離を置くため用意されたという今号だけの語り部、シールが迎えるラストも通常のコミックであればちょっと衝撃的だが、このシリーズの読者なら諦念と共に今やそれをあっさり受け入れられるようになってしまっている。
 いつの間にか自分の常識が覆されていたという事実は、 改めて考えるととても恐ろしい。
 
 戦争ホラーである以上に徹底した逆説的反戦作品である本作の真骨頂といえる1冊だ。

2.JUSTICE LEAGUE #1 ( DC )


Justice League Vol. 1

(これは単行本) Image Credit: Jim Cheung & Laura Martin / DC Comics

 スコット・スナイダーの手がける話はどれもクオリティが高く、『 DARK KNIGHTS: METAL #6 』『 JUSTICE LEAGUE: NO JUSTICE #3 』なんかも候補に挙げていたものの、やはり1つ選べと言われたらジャスティス・リーグ新シリーズの幕を開けるこれだろう。

 「こんなヒーローチームの活躍が読みたかった」という理想を地でいっており、門戸は広く、だが奥が深い。新規読者にも往年のファンにも手放しでおすすめできる新シリーズの導入となっている。
 ジョン・スチュワートホークガールなどといったカートゥーン版を意識したメンバー編成もにくい。

 今度のシリーズがこれまでと大きく異なる点は”アクセシビリティ”だろう。
 新生リーグはかつてのようなこぢんまりとしたエリート団体ではなく、広い世界と積極的に繋がろうとするスーパーヒーロー達のリーダー的存在だ。そのことはホール・オブ・ジャスティスの存在や、序盤の戦闘でプラスチックマンアダム・ストレンジなどと肩を並べている様子などから窺える。
 また、会議シーンで一定の荘厳さを保ちつつ、だが適度にリラックスしているヒーロー達の姿からは彼らが我々とそうかけ離れた存在ではないことを匂わせ、”身近な神”あるいは”触れられるシンボル”としての絶妙な距離感を演出する。

 刊行時期が比較的近いこともあってどうしても対比してしまうが、マーベルの『 AVENGERS #1 』でキャプテン・アメリカが「遅かれ早かれ世界はアベンジャーズを必要とする」とやや尊大な態度が鼻についたのに対して、本作でアーサーが「我々は世界に対する責任がある」と主張したりジョン(ジョーンズの方ね)が「私達はさらに良い存在を目指さなくてはならない」と自戒を促したりするシーンも好感が持てる。

 アクションとドラマもてんこもり、戦闘に一定の区切りをつけながら、今後の展開を予兆する。
 フラグシップタイトルの#1としては申し分ない1冊だろう。

1.GIDEON FALLS #4 ( IMAGE )


Gideon Falls #4

Image Credit: Andrea Sorrentino / Image Comics

 都市部でゴミを漁る青年と、新たに田舎町へやってきた神父とが少しずつ”黒い小屋”の謎に迫るホラー作品の第4章。
 
 ジェフ・レミーアは読者を裏切らない。彼の作品は基本的にどれもクオリティが高い。
 だが一方でレミーアの手がける物語の多くはスタートダッシュがやや鈍く、#1ではその面白さを掴みづらい。故に本作についても#1から何かすごい作品になりそうな”予感”こそ漂っていたものの、それが”実感”として手に取れるのはもっと後になると思っていた。いつもの例でいけば#7とか#8とか、TPBにした時の第2巻に入るあたり。

 一応言っておくとこれ自体は別に悪いことじゃない。単に彼の作風がビルドアップで引き込むのを得意とするというだけだ。むしろ最近多くの作品、とりわけスーパーヒーロー物では#1にショッキングな展開を無理矢理持ってきてその後失速するものが多いほうが問題と言える。

 しかし今回の『 GIDEON FALLS 』シリーズは予想していたよりはやいペースでのめり込むことになった。
 ただしこれは必ずしもレミーアのみに拠るところではなく、アーティストのアンドレア・ソレンティーノによる貢献が大きい。

 彼のアートは神経質なほど細い線やピッチブラックに細かい皺を刻んだような陰影で、また同心円状に配置するなど技巧を凝らしたコマ割りなどで読む者に薄氷の上を歩くようなサスペンスを煽る。

 そんな彼が#4で魅せた超絶技巧。それは鏡の内外が接触する瞬間を描いた場面。
 同じ瞬間をそれぞれ別々の面に配置した立方体がメビウスの輪を作るようにいくつも配置されているこの見開きページを見た瞬間にもうがつんとやられてしまった。これは何が何でも最後まで読み通す価値のある作品と思い知らされた決定的なシーン。アートでここまで叩きのめされるのって『 WE3 』の猫襲撃シーン以来かも知れない。
 
 ライティングもアートも1人が手がけている場合ならともかく、こういう演出は分担作業になると中々見ることができないし、かなり互いの意思疎通が図れていない限り難しい。レミーアとソレンティーノの相性の良さがあって初めて可能となる表現法といえる。

 文句なしの今年の上半期1位です。



 
 以上が今年上半期のトップ5でしたー。いざ候補を挙げてみるとキリがないということに気づき今回は5作品に限定したものの、他にも『 TERRIFICS #1 』だとか『 SOUTHERN BASTARDS #1 』だとか泣く泣く落とした良作がそこそこ。
 総じて今年は『 THE NEW AGE OF DC HEROES 』などの動きでアート面で盛り上がったんじゃないかと思います。

 さあ、今日から始まる2018年後半戦。
 まだまだ傑作良作が大量に見つかる予感に期待大!