さあ、今回ご紹介するのはこちらの作品!
わかってる。言いたいことはわかってる。
これ、アメコミじゃねえし。日本の漫画だし。
わかってますとも。
しかし、だ。
今月分のアメコミ購入予算に食い込んでも手に入れたかった本だったから仕様がないんだ。
アメコミ購入用の予算で買ったものは喩え日本の漫画であってもアメコミとする。それがこのサイトの方針です(今決めた)。
いや、実際のところですね。私が海外コミックばかりを読んで本邦の漫画をガン無視しているかと言われれば?いやいやそんなこともないわけで。ちゃんと調べたわけではないのではっきりとは言えないものの、人並みくらいは読んでいるんじゃないでしょうか。
ただまあ読むジャンルが偏っていたり、続き物が苦手で基本的に短編集や1冊で完結するような物ばかり読んでいるため幸い定期的な出費もなく済んでおりまして。年に1回か2回気になるのをごそっと買う程度。
逆を返すとこの時期にアメコミブリコミをちょっと抑えりゃコツコツ溜め込んでいた予備費用とかカードのポイントとかを使って十分乗り切れるわけです。
……この”ちょっと抑えて”が今回できなかったんですねえ。
そもそも自分の意志で買う量読む量を調節できるようなら私、この沼に沈んでないわけです。ええ、コミックは飲み物だとばかりにぐいぐいイッてましたよ。
んでそんな中、リイド社の運営するウェブコミックサイト『リイドカフェ』、そこで連載しているおおかみ書房 presents 『劇画狼のエクストリーム漫画学園』で知ったのがオガツカヅオなる人物。(普段から海外のクリエイターに対しても敬称略してるのでこっちも同様に処させて頂きます)。
サイトに掲載されていた作品を含む短編集『魔法はつづく』が発売されていると知り、すぐ近所の本屋で確保していただきました。
さてさて。以前、エッセイコミックでも述べたように海外のコミックと日本の漫画との違いというのは昨今じゃかつてないほど曖昧になっており、今もその差は刻一刻と縮まっておりまして。
なので正直日本の漫画でしか読めないものなんて最近はほぼないんじゃないかと思ってたんですよ。
ち、ち、ち(過去の自分に対して)。
日本の漫画にはまだ「ジャパニーズ・ホラー」という、それこそおばけみたいなヤツがいたんです。
そもそも「ジャパニーズ・ホラー」という言葉自体「萌え」なんかと同様、何をどこまでカバーしているのか明瞭じゃないのでこれはあくまで主観でしか語れないのだけれど、法に触れるわけでもなければ文化的に相容れないわけでもないにも関わらず、大変不思議なことに欧米のコミックでジャパニーズ・ホラー的な作品ってほとんど見かけない。
逆に国内の作品で欧米的ホラーがゴロゴロしてるから益々不思議。
何ていうのかな、あっちのホラーって悪霊だったり異常な殺人鬼だったりと恐怖の対象が大抵「異物」として扱われるのに対して、日本のホラーってやれ座敷童だの花子さんだのって妙に生活に溶け込んでいるというか「ほら、そこにいるやん」的な親近感があるじゃない(無論どちらの場合にも例外はある)。
いつも傍にいるけれど気づけない”なにか”がこちら側に触れてくる時に伴う”業”や”情”。
この”業”や”情”をひしひしと感じられるのがジャパニーズ・ホラーの醍醐味だと私は思っているんです(別にだから欧米のホラーより優れてるとかって言うつもりはないよ。みんなちがってみんないい。念の為)。
でも残念なことに最近は日本のホラーも欧米的な「異物」ものばかりが氾濫するようになってたから、私はちょっと寂しい思いをいだきながら『富江』とか読んでいたわけです。
そんな中での『魔法はつづく』ですよ。
収録されている9篇はどれも一歩間違えるとファンタジーやSFに含まれてしまいそうな幾重ものオブラートに包まれた怪談ばかり。
『エクストリーム漫画学園』の解説でも記されていた通り、本書の収録作には劇薬のようなスプラッタやジャンプスケアはほぼない。絵柄もどぎつくないキャラ造形とベタの少ない背景だし(一般的なホラー漫画と比べて使用するインクの量は格段に少ないのではなかろうか)、ところどころコミカルな描写も含むので普段ホラーが苦手という方も難なく読めるかと思われる。
またこの手の短編は種明かしとなる部分、つまり起承転結の”転”の部分をどれだけドラムロールなしにやってのけられるかが重要になってくるのだが、本書に収録されている作品は巧妙に伏線を忍ばせ、あっさりとそれまでの物語をひっくり返してくる。作者にしてやられたのを悔しく思うこともできないくらい、すっと。
とりわけ『かえるのうた』と『こくりまくり』は秀逸だ。
ウェブでも公開されていた『しあわせになりませう』も本書ではやや改稿の上で掲載されており、ウェブ版だとわかりにくかった部分が構成面で改善されていたためすっきり読むことができた。
そして個人的にお気になのが表題作『魔法はつづく』。
確かに”物語”として見るなら上に挙げた『かえるのうた』と『こくりまくり』の方が印象に残りやすい。けれど私はそれでもこの作品を強く推したい。
おそらく本作は収録作の中で最も解釈の余地が大きい作品だろう。ストーリーの断面ははっきりせず、本筋に直接関わってこないコマも他より多い。
しかし、餃子で言えば”ミミ”のようなこれらがむしろこの作品の魅力を格段に引き立てている。さりげなく差し込まれる鳥や蔦や虫を描いたコマがモンタージュ的な機能を果たしてこの作品に漂う”業”や”情”を膨らませて、読んでいるこちらに如何ともし難いせつなさを掻き立てるのだ。
(あと純粋にじんこさんの容姿が私の好みなんですね、うん。)
何にせよ、”漫画”としてはこの作品が個人的に最強です。大好きです。
胸を締め付けるような”情”と、首を真綿でしめるような”業”というジャパニーズ・ホラーの魅力を踏襲しつつも、現代らしいユルさと爽やかさで風通しが良い珠玉の9篇(+1)。
ホラー漫画の新時代をもたらすかもしれない本書を是非是非、アメコミ読者にも手にとっていただきたいものです。
さあ、そろそろいつもの沼に戻るかあ。(ズズ…ズズズ…)