先日DCのインデペンデント系作品を中心に扱う VERTIGO レーベルが新たに DC VERTIGO と改名し、再スタートを切ることを発表した。
そこで今回はリニューアルラインナップとして刊行が発表された7作品について紹介してみよう。
ラインナップに関するカバー画像などは以下のDC公式サイトからどうぞ。
『BORDER TOWN』
(W)Eric M. Esquivel
(A)Ramon Villalobos
アリゾナ州に位置する町デビルズフォーク。異世界との間に生まれた亀裂からメキシコの怪物や妖精が侵入してくるようになってから、古くからの住人と移民との対立は日に日に深まっていた。町の新参者であるフランクと友人達は真実を探るべく動き出す。
9月刊行予定の移民問題をテーマに扱ったホラー・ファンタジー。ストーリーはよくある少年少女のローカル冒険譚だが、メキシコの民話や伝説がどう解釈されるかという点が気になる。
Ramon Villalobos によるカバーは結構好きかも。
『HEX WIVES』
(W)Ben Blacker
(A)Mirka Andolfo
男どもによって洗脳され、田舎の貞淑な主婦にされてしまった魔女達。しかし彼女らが自らの真実を思い出すのは時間の問題だった……。
10月刊行予定のアーバン・ホラー。 SF の奇作『 THE STEPFORD WIVES 』の魔女版とでもいったところだろうか。今回のラインナップの中ではかなり唆られるタイトル。
アーティストの Mirka Andolfo はキュートな女性が特徴的な人物。
『AMERICAN CARNAGE』
(W)Bryan Hill
(A)Leandro Fernandez
落ち目の FBI エージェント、リチャード・ライトは同僚の死の真相を探るべく白人至上主義者の集団に潜入する。果たして彼はハーフであるという自らの出自を知られないまま真実にたどり着くことができるのか。
11月刊行予定の人種問題をテーマとしたクライムサスペンス。あらすじを読む限りでは Jason Aaron と R. M. Guera による名作『 SCALPED 』なんかを思い出させる。正直言って目新しさはないものの、ライターの Bryan Hill については最近メキメキと実力をつけている個人的に注目しているので是非ともチェックしたい。
『GODDESS MODE』
(W)Zoë Quinn
(A)Robbi Rodriguez
万能とも思えるAIによって人々の生活が賄われている近未来。カサンドラはその裏でテクニカル・サポートをする毎日を送っていたが、ある日未知の電子世界と遭遇する。そこでは超人的な力を誇る女性達が怪物共と現実世界へ侵入するためのチート・コードを巡って熾烈な闘いを繰り広げていた。
12月刊行予定の SF 。あらすじはそこそこ興味を唆られるものの、もっと電子世界の内情を目にしない限り判断がつけにくそうなので当面はプレビュー待ちかな。ただアーティストの Robbi Rodriguez は『 FBP: FEDERAL BUREAU OF PHYSICS 』で見た際も好みの画風だったのでそこそこ期待できる。
『HIGH LEVEL』
(W)Rob Sheridan
(A)Barnaby Bagenda
文明が崩壊してから数百年。人類が社会を1から立て直すことを余儀なくされた世界で、1人の密輸入業者が救世主となる子供を”ハイ・レベル”という伝説的都市に送り届ける仕事を請け負う。
2019年に刊行予定の SF 。マッド・マックス系ディストピアを舞台に女性スマグラーがヒャッハーな連中を躱しながらユートピアを目指す。
Barnaby Bagenda って『 THE OMEGA MEN 』の人か(カラリストの Romulo Fajardo, Jr. もカバーにクレジットされてる)。
一見すると今回のラインナップ中、一番エンターテイメント寄りな印象を受けるが、こういうのに出てくるユートピアは大概ユートピアじゃないのでそこにクリエイター陣の何らかの思想が反映されるものかと。
『SAFE SEX』
(W)Tina Horn
(A)Mike Dowling
人々の性が政府に徹底管理されるようになった近未来。セックス・ワーカーのでこぼこチームが自由な愛を求めて戦い始める。
2019年刊行予定。
何気に相性が良い性とディストピア。敏感な問題を扱っているせいか大々的には取り上げられにくいものの、隠れた名作がゴロゴロしております(『 OUR LOVE IS REAL 』とか)。
ライターの Tina Horn はジャーナリストで性をテーマに幅広い内容を扱っている。おそらく今回がアメコミデビュー作となるが、結構面白いことになりそう。
カバー画像は Tuta Lolay ですね。彼女の絵も好きなのでそれも含めて魅力的。
私的には買い。
『SECOND COMING』
(W)Mark Russell
(A)Richard Pace
神は再びイエス・キリストを世界に送り込む。だが”サン・マン”というスーパーヒーローが活躍する地上に戻ってきたイエスは、かつて自分の伝えた教義が歪められているのを見ると、それを修正すべく動き始める。
皮肉のきいたコメディで最近にわかに注目を浴びつつある Mark Russell 。今回も神の子とスーパーヒーローの面白いやり取りを期待できそう。 Amanda Conner と Paul Mounts によるカバーも良い。
全体的な感想
どの作品も何らかの社会問題を扱っており批評性が強い印象を受ける。特に性やフェミニズムをテーマにしているものが多い。
今回のラインナップに先立って展開される『 SANDMAN UNIVERSE 』と差別化を図ったのかもしれないが、社会派ネタが揃うことについては好き嫌いがはっきり分かれるので(私は大好きだけれど)、これが吉と出るか凶と出るか。
今回のラインナップを統括する Mark Doyle はかつてバットマン系タイトルを担当していた方。腕は確かなので、どれも一定のクオリティは期待できる。
90年代から2000年代にかけてアメコミのインデペンデント系作品界隈を大いに盛り上げた VERTIGO も最近ではすっかり勢いが下火になってしまっていた。今回のリニューアルで再び盛り上がることを期待したい。