Fourth World by Jack Kirby Omnibus
いつの間に『NEW GODS』の実写版の話なんて浮上してたのな(まだ監督が決まっただけで制作は初期段階みたいだけれど)。
そういやニューゴッズに関しては『エターナルズ』の記事とかカービィの記事でちらっと触れただけなので、ここらで一度ざっくり解説してみよう。
1.そもそも「ニューゴッズ」って何?
端的に言えば、伝説的クリエイター、ジャック・カービィがDCから世に送り出した『フォース・ワールド・サーガ(FOURTH WORLD SAGA)』と呼ばれる作品群の1つ(及び後に続いた同名シリーズ)、あるいはそこに登場するDCユニバースの神的種族。
もう少し詳しく解説すると。
マーベルでファンタスティック・フォーを始めとした数多くのキャラクターを生み出したことで知られるカービィ。主にアーティストとして通っていた彼だが実はかなりの作品でストーリーも手がけており(このあたりのくだりは昨日の記事も参照されたし)、そのこと自体は別に構わなかったものの、出来上がった物語にスタン・リーが度々介入してくることが我慢ならなかった。
そこで1970年、遂にマーベルと袂を分かったカービィはライバル社DCへ。そこで自由な作品作りを許された彼は『SUPERMAN’S PAL, JIMMY OLSEN』の新ライター兼アーティストに就任、続けて『THE FOREVER PEOPLE』、『THE NEW GODS』、『MISTER MIRACLE』の3シリーズを新たに創刊する。こ
れら互いに緩く繋がり合った4シリーズは『THE FOURTH WORLD SAGA(第4世界サーガ)』と名付けられ、そこでカービィが生み出した現代神話的キャラクター達が「ニューゴッズ」である。
2.古き世界とその住人
「ニューゴッズ」、そして「フォース・ワールド・サーガ」という単語から多くの人が「じゃあそれ以前の神(オールドゴッズ)、それにファーストからサード(第1〜3)ワールドは?」と疑問に思うだろう。
ぶっちゃけここはややこしい。
まずカービィが最初に「ニューゴッズ」という着想を得たのは、彼がマーベルで『THOR』(及びその前身の『JOURNEY INTO MYSTERY』)を担当していた頃。当時の『THOR』ではソーが活躍するメインストーリーの他に、アズガルドの小話『TALES OF ASGARD』が連載されていた。
そこで『RAGNAROK』(『THOR #128』に掲載)というアズガルドの終焉を描いたカービィはソーやオーディンといった北欧神話の神々に代わる”新たな神々”を考案。
これがニューゴッズの元になる。
そう、実はDCのニューゴッズはマーベルのアズガルドと地続きの神話として考案されたのだ。
「フォース・ワールド・サーガ」におけるオールドゴッズ(古き神々)とはソー達アズガルドの住人のことを指すのである。
その片鱗は「フォース・ワールド・サーガ」にも登場し、有名な描写が『THE FOREVER PEOPLE #5』に登場する古き神々の遺跡に転がっているソーの兜。
さてDCへ移籍したカービィは当初この新たな神々が登場する現代神話作品群の総称として「ニューゴッズ」という名前を用いていた。
しかし、ある時を境に予定されていたシリーズの1つ『ORION』のタイトル名が『NEW GODS』に変更(経緯は不明)。さらにDCがこれらを総称して『FOURTH WORLD』と呼び始める。
とどのつまり「フォース・ワールド」とはカービィの預かり知らぬところで誰かが勝手につけた名前で、当初は第1〜3までの世界など想定されていなかったのである。
「第4世界って……1から3番目の世界は?」
カービィ自身もこのナンバリングについてはよくわからなかったとか。
だがそんなハリボテみたいな設定も掘り下げてしまうのがアメコミ世界。後のシリーズなどで古き3つの世界を以下のように定義した(1998年に刊行された『NEW GODS SECRET FILES #1』に載っている年表などがわかりやすい)。
1番目の世界: 180億年前に自然発生した世界。別名ゴッドワールド。
2番目の世界: 1番目の世界が発生してから10億年後、初めての生命が誕生したゴッドワールド第2形態の世界。中でも人型種族はそれからさらに20億年ほどかけて神性を獲得する(これが”オールドゴッズ”)。
3番目の世界: 50億年ほど前にゴッドワールドが戦争により崩壊、その際宇宙に広がったエネルギー”ゴッドウェーブ”を浴びて新たな神が生まれた世界群。地球もこの1つで、3.5万年前にゼウスを始めとしたギリシア神話の神々が発生したことをもって第3世界スタートとなる。
4番目の世界: 崩壊したゴッドワールドが2つに分裂して生まれた惑星ニュージェネシスと惑星アポカリプス。そこで3万年前に人型種族が神性を獲得したことを起源とする。平和を望むハイファーザー率いるニュージェネシスと、専制君主ダークサイドが支配するアポカリプスは長らく対立していたが、300年ほど前に各統治者の息子を交換することで和平協定を結ぶ。
3.JACK KIRBY’S FOURTH WORLD SAGA
全宇宙を支配できる”非生命方程式(ANTI-LIFE EQUATION)”を巡ってニュージェネシスとアポカリプスの神々が地球を舞台に戦争を繰り広げる「フォース・ワールド・サーガ」。
上でも述べた通り、ジャック・カービィの手で生み出された最初のサーガは以下の4シリーズからなる。
『SUPERMAN’S PAL, JIMMY OLSEN』:
Jimmy Olsen: Adventures by Jack Kirby - Volume 1(旧版の合本。少し待てば新装版が出るかと)
デイリープラネット社のカメラマン、ジミー・オルセンが新たに知り合った少年達の集団「ニュース・ボーイ・リージョン」らと協力し、地球に目をつけたダークサイドが送り込んだ刺客を始めとした超科学的な脅威に立ち向かう。
4シリーズ中、最もDCとの結びつきが強く、スーパーマンやガーディアンといったヒーロー達も登場する。
『THE FOREVER PEOPLE』:
Jack Kirby's The Forever People(旧版の合本。少し待てば新装版が出るかと)
アポカリプス陣営に誘拐された仲間を追ってニュージェネシスから地球へやってきた若き神々が、ダークサイドの求める”非生命方程式”の謎に迫る。
何気にダークサイドとのエンカウント率が高い。
『THE NEW GODS』:
New Gods by Jack Kirby(シリーズごとにまとめた新装版単行本)
300年前の和平協定でニュージェネシスに連れてこられたダークサイドの息子オライオンが地球を舞台にアポカリプスの尖兵と対決。サーガの中核を成すシリーズ。
『MISTER MIRACLE』:
Mister Miracle by Jack Kirby (Mister Miracle (1971-1978))(シリーズごとにまとめた新装版単行本)
オライオンと入れ替わりにアポカリプスへ連れてこられたハイファーザーの息子スコット・フリー。成長して地球へ逃亡を図った彼がミスター・ミラクルとして送り込まれる追手に立ち向かう。
一般的なスーパー・ヒーロー誌とは一線を画す壮大な現代神話は、しかし当時の読者にはまだ受け入れられず1974年の『MISTER MIRACLE #18』で未完のまま打ち切られてしまう。
その後、10年近く経ってからようやく『NEW GODS』シリーズのみ続編となる『EVEN GODS MUST DIE!』、そして完結編『HUNGER DOGS』がカービィの手で作られたが、色々と話が繋がらない部分も多い。
なお、カービィが「フォース・ワールド・サーガ」でやり残したことの一部は彼が再びマーベルへ戻った際に手がけた『ETERNALS』に引き継がれた。
4.主な登場人物
・ダークサイド
惑星アポカリプスの専制君主にしてサーガの根幹を成す人物。全宇宙の生命を支配できるといわれる”非生命方程式”を入手するため、その一部あるいは全てがあるという地球、そして人類に目をつける。
・オライオン
ニュージェネシスを統治するハイファーザーの息子にして最強の戦士。”戦争の犬(THE DOG OF WAR)”という異名を持つ。ダークサイドが和平協定を無視して地球へ侵攻を開始したことを知り、自らもまた戦いの前線にやって来る。
実はダークサイドの実子で、和平交渉の材料として幼い頃にニュージェネシスへ連れて来られた。そのため父譲りの残忍な正確と醜い容姿を備えていたが、新たな父ハイファーザーや友人ライトレイらとの交流を経て立派な戦士としての自覚を持つようになり、また顔も生体コンピュータ”マザー・ボックス”によって整形された。
・フォーエバー・ピープル
ビッグ・ベア、マーク・ムーンライダー、セリファン、ヴァイキン・ザ・ブラック、そしてビューティフル・ドリーマーの5人によって構成される若き神々の集団。ビューティフル・ドリーマーがアポカリプス陣営に拐かされたことを機に、彼女の行方を追って地球へやってくる。彼女を取り返した後も地球に留まり、(ヒッピーに身を扮して)ダークサイドが探し求める”非生命方程式”の謎に迫る。
全員でマザーボックスに手を合わせて「TAARU」と声を揃えることにより”インフィニティマン”という強力な存在を召喚する。
・ミスターミラクル
本名、スコット・フリー。幼い頃に和平交渉の材料としてオライオンと引き換えにアポカリプスへやって来たハイファーザーの実子で、グラニー・グッデスの孤児院で歪んだ愛情を受けながら育てられた。
後にアポカリプスを脱出して地球への逃亡を図り、その際に出会ったエスケープ・アーティスト(脱出系マジシャン)からコスチュームと”ミスターミラクル”という称号を引き継ぐ。
グラニーが差し向けた追手の1人、ビッグ・バーダと恋に落ち、後に結婚した。
・メトロン
ニュージェネシス、アポカリプス、どちらの陣営にも属さない探求者。知識を追い求めてマザーボックスと接続した”メビウス・チェア”で宇宙を彷徨う。
ちなみにマーベルのサノスは当初このメトロンをモチーフにしたデザインだったものの「どうせパクるならダークサイドパクれよ」ということで今の容姿になったとか。
・マザーボックス
キャラクターというかキーアイテム(わざわざ別のところで解説するのも面倒なんで)。
ニューゴッズ、特にニュージェネシス側の神々が使う生きたコンピュータ。呼称は母性を宿していることに由来する。
持ち主の魂と呼応しなければ使用できないが、怪我を治癒したり顔を整形したり持ち主の盾になったりと使い道は多く、ぶっちゃけ携帯式のデウス・エクス・マキナである。
5.現在のDCUにおける位置づけ
カービィが離れた後もニューゴッズ達は様々な形でDCユニバースに登場した。
有名なエピソードとしては
・THE GREAT DARKNESS SAGA (1982)
Legion of Super-Heroes: The Great Darkness Saga
…31世紀のヒーローチーム、リージョン・オブ・スーパーヒーローズが未来に復活したダークサイドと対決。
・COSMIC ODYSSEY (1988)
Cosmic Odyssey: The Deluxe Edition
…ジャスティス・リーグを始めとした地球のヒーロー達とニューゴッズが共演するミニシリーズ。
・FINAL CRISIS (2008)
…ダークサイドが遂に非生命方程式を入手してしまう大型クロス・オーバーイベント。
などが挙げられる。
また、最近でも『MISTER MIRACLE』、『BUG: THE ADVENTURES OF FORAGER』などの作品が盛んに作られている。
現段階ではまだ来るべき実写版がどの作品をどう取り入れるのかまったくわかっていない。だがそれは逆を返せば予習の時間がたっぷりあるということだ。
コミックの帝王が遺した作品を読みながら現代の神々がスクリーンに登場するのを心待ちにしていよう。
関連記事: