経済とは魔術だ。
スーツを着る現代の魔術師達は悪魔に供物を捧げ莫大な富を得た。
彼らにとって人は歯車でさえない。歯車を動かす油だ。
世界は彼らの意のままに。
あらすじ
とある高級アパートのペントハウスで1人の男性が不可解な死を遂げた。
捜査に当たる刑事 Dumas は遺体がロスチャイルド家の現当主であることを知ると、壁に記されていた奇妙な文字列から何らかの儀式が執り行われたものと推理する。やがて監視カメラの映像から別の経済界の重鎮が容疑者として浮上するが……。
一方その頃、米国経済を牛耳る3家族はロスチャイルド家の空席を埋めるべく、かつて追放した末裔 Grigoria を呼び戻す。
入り交じる虚実が不安を掻き立てるホラー
ライターの Jonathan Hickman はかつてマーベルで『 AVENGERS 』などのメインライターとして活躍した人物で、当時から世界全体を巻き込むような大きな風呂敷を広げたストーリー展開が印象的だった。その傾向は本作でも如何なく発揮されており、ウォールストリートの大富豪達を中心に現代経済界を縦横無尽に網羅するストーリーが展開される。
また、作画を担当した Tomm Coker はホラーやノワール系作品を中心に手がけるコミック/アーティストとして知られると同時、映像作家としても知られている。本作でも会話シーンで話者の交代に合わせてカメラの方向をぱっと切り替えるやり方や、複数のコマにまたがる長台詞のシーンで映画の長回しみたいに話者を映す方向はそのまま遠近だけを調節してサスペンスを膨らませるやりかたなど、映像的な構図が多く見受けられた。
そんな彼らの手がける本作はやはり”大きな物語”の裏で暗躍する者達を描いたノワール/ホラー。終始一貫して暗く、重々しい。
米国ひいては世界の経済を支配する大富豪達が実は悪魔と契約するカルトだったという触れ込みから始まる本作は、タイトルにあるブラックマンデー事件をはじめとした数々の経済事件に関する”解説”を交えながら進行する。
魔法陣や儀式を執り行う神殿などいかにも陰謀論的な要素も登場する一方、歴史上の大恐慌が起こるタイミングの奇妙な周期性なんかも指摘しており、どこまでが現実でどこからがフィクションなのか、その境界線が非常に曖昧な作品となっている。
そしてその曖昧さが読んでいる側の不安を掻き立てる。
何度も「あるいは…」と思うシーンがあり、咄嗟にウィキペディアで検索をかけてしまうような、読んでいて落ち着かない作品だ。
緊迫感がひたすら募り、弾ける瞬間がない。物語が大きく動く派手なシーンもないではないが、それさえもサスペンスを上塗りする。
重く。
暗く。
苦く。
それが病みつきになる。
The Black Monday Murders 1(単行本)
こんな人にオススメ!
・経済史を齧ったことがある。
・オカルトホラーが好き。
・とにかく不安に掻き立てられたい。