半世紀以上の歴史があるマーベルや DC の世界にはスーパーマンのような誰もが知るヒーローもいれば、すっかり埃を被ってしまったマイナーキャラもいる。
そんなマーベルや DC のマイナーキャラについて調べたことを記事にしたコラム。前回はスターブランドだったが今回はマン・シングを取り上げようと思う。
ORIGIN
優秀な科学者だったテッド・サリスはとある新薬の開発に勤しんでいたところ、完成間近というところで研究を盗もうとする者達から襲撃を受ける。研究を守ろうとしたテッドは資料を全て廃棄し唯一残った試薬を自らに投与してその秘密を守ろうとする。だが逃亡中に車が転倒し、彼は近くの沼へ転落。やがて沼から這い上がったテッドは全身緑に覆われた巨躯の怪物に…
ってあれ、これ前にも別の記事でなかった?
違う、あれは DC のスワンプ・シングだ。
こっちはマーベルの”マン・シング”。
ややこしい?そう、ややこしいんだ。
MAN-THING / SWAMP THING
そもそも今回この記事を書こうと思ったのも、スワンプ・シングの記事を書く上で足りない知識 Wiki してたらやたらマン・シングが目に付いたからという次第で。
オリジンも似てれば容姿もそっくり。誌面デビューしたのもほぼ同じ年というこの両者のややこしいことややこしいこと。
ただ知名度のこともあって私も今までスワンプ・シングの方がてっきり先に登場したものと思っていたが、意外なことにマン・シングの方がデビュー時期は早い(といってもほんの数ヶ月の違いだけど)。
インタビューなどによるとマン・シングのコンセプトを最初に提案したのは例のごとく Stan Lee 。彼と当時の右腕的存在だった Roy Thomas によって詳細な設定が練られた。その後、実際にコミックとして世に送り出すべくアートを担当したのが Gray Morrow 、スクリプトを担当したのが Gerry Conway (パニッシャーなどの生みの親として知られる人)である。
話がややこしくなるのはここからだ。
1971年にマーベルのホラーアンソロジー誌 SAVAGE TALES#1 でデビューしたマン・シングだが、同誌は諸々の事情により僅か1冊で休刊(#2は2年後くらいに出る)。用意したのにお蔵入りしかけたマン・シングの第2話はジャングルの王者ケイ・ザーが活躍する ASTONISHING TALES #12 にゲスト出演した際、(結構強引に)ねじ込まれる。
DC のスワンプ・シングがデビューしたのはこのマン・シングの第1話と第2話の間で、このあまりに酷似したオリジンはマーベル内でも物議を読んだ。
マン・シングのデビュー作を担当した Gerry Conway はスワンプ・シングの生みの親である Len Wein と当時ルームメイトだったので(このことも事態をややこしくしたかもしれない)、スワンプ・シングのオリジンを変更するよう促したが、 Wein はそれをよしとしなかった。
マーベル編集内では訴訟に出るという話もあったが、 Wein がスワンプ・シングの話を手がけたのはマン・シングがデビューするより前だったのでパクったと考えるのは難しいし、そもそもこの手のマック・モンスターにはゴールデン・エイジに活躍した”ヒープ”のように前例がないでもなかった。
やがて出自こそ似通っていたものの、その後の方向性が大きく異なったこともあり、結局マーベルは裁判を起こすことなく現在に至る。
ちなみに件のお蔵入りしかけたマン・シング第2話を手がけたライターというのも Len Wein であった。
うん、ややこしいややこしい。
STEVE GERBER
Adventure Into Fear (1970-1975) #12
DC でスワンプ・シングを大きく進化させたのが Alan Moore なら、マーベルでマン・シングを躍進させたのは Steve Gerber だ。
当初 ADVENTURE INTO FEAR 誌の一部だったマン・シングの物語だが、 Gerber が着手した頃からその人気は大きく伸び、やがてソロタイトルを獲得するまでに至った。
Gerber はマン・シングをあくまでモンスターとして描いた。善良な性格をしているものの、言葉を喋ることはできず、そもそも知能が退行しているため、基本的に人間と意志の疎通は図れない。その行動や心理の多くは Gerber による淡々としたナレーションで語られる。
時として異次元の存在を相手にするなど SF ファンタジーの要素も加えた本シリーズは人気を博し、現在でもカルトクラシック作品として多くのファンがいる。
また、この連載中に初登場したハワード・ザ・ダックはその後 Gerber 自身の手によりソロタイトルが連載され、今では MCU にもゲスト出演する人気キャラクターとなった。
ABILITIES
マン・シングの力には2つ要因が存在する。
1つは彼がテッド・サリスだった頃に自ら開発し投与した試薬。そしてもう1つが、実はあらゆる異次元と交差する特異点であった沼の魔力である。
特に前者に関して、これはキャプテン・アメリカを生み出した超人血清を再現した薬品で、これ故にマン・シングは単純な身体能力でいえばキャプテン・アメリカを僅かに上回る怪力の持ち主である。
また、新薬の開発にはスパイダーマンのヴィランであるリザードことカート・コナーズも関わっており、マン・シングには驚異的な身体回復能力も備わっている。
さらに恐怖を感じた人間が触れると体の表面から毒を発し燃えているかのような痛みを与えるが、これは新薬/魔力どちらから来るものか不明。
なお、上でも述べたとおり人間と意志の疎通を図ることができないマン・シングだが、僅かにテッド・サリスだった頃の記憶も残っており、ドアを開けるなどといった人間の基礎的な動作は可能な模様。
RECOMMENDATION
ここでは2つの大きな入口を紹介する。
1.MAN-THING BY STEVE GERBER: THE COMPLETE COLLECTION
最初から読みたいという人はこちらから。
登場作の刊行が散発的なため歴史を辿るのがやや難しいマン・シングだが、この合本には上記 Steve Gerber が手がけた初のソロタイトルの他、 SAVAGE TALES 内のデビュー作などの初期作品も順序通り収録されているのでオススメ。
2.MAN-THING BY R. L. STINE
一番最近のソロタイトルがこちら。ライティングを手がけているのは GOOSEBUMPS などの児童ホラーで知られる R. L. STINE 。
人語を解せるようになったマン・シングが活躍する、ややヤング・アダルトな雰囲気のホラーアドベンチャー。テンポが良くテンションも高め。内容的には十分面白いものの、スワンプ・シング的なノリを期待して読むと面食らうかも。
以上がマン・シングに関する基本情報。
この際、スワンプ・シングと併せて読んでみよう。