ヒットマンの前に現れた愉快なやつ。
元刑事の Nick Sax は現在、ヒットマンとして落ちぶれた日々を過ごしている。ある晩、仕事であやまって撃たれた彼は病院へ搬送されるが、そこにはついさっき殺した標的の親戚が刺客を放って待ち受けていた。窮地に陥った Nick の前に現れたのは…青いユニコーン!?
NETFLIX で26日から配信されるという予告を見て興奮気味に Grant Morrison と Darick Robertson の HAPPY! を読み返すことに。何だか最近映像化作品に振り回されているような気がしないでもないものの、まあライターもアーティストも好きだし、作品自体も結構気に入っているので問題はない。
Morrison の作品は基本的にセラピーだ。
若い頃にカトマンドゥで神秘的体験を経て世界観ががらりと変わったという彼は、作品の多くでその思想というか意識をもっと開くことの重要性を啓蒙する。
故に彼の作品において多くの場合、主人公(あるいはその周囲)が異次元的な事象と遭遇してラストでは全くの別人となっているという筋の作品が多い。 FILTH も INVISIBLES も KID ETERNITY もそう。彼の Batman サーガもいくつかの段階を踏んで Bruce Wayne という人物を大きく変化させている。
ただ強すぎるメッセージ性は時として説教臭くなって物語が弛ませてしまったり、逆に説明が足りなくて何がなんだかわからない作品を生んでしまったりとさじ加減が難しい。故に Morrison の作品は自然と人を選ぶようになり、作中の意図を読み取れる者と読み取れない者、熱狂的な支持者と激しく嫌悪する者とに分かれる。別の作品は好きだけどこっちの作品は嫌いというパターンも多い。
本作はその点で言うとかなりわかりやすい。物語のわかりやすさという点では Morrison のあらゆる作品の中でもトップクラスだろう。万人受けする単純明快で痛快なストーリーは、そういう意味で映像化も納得できる。
メッセージ性という観点から読むとこれまでのようなスケールの大きさや解釈の深さはないが
、代わりに「視点1つ変えるだけで世界はガラリと変わるよ」という Happy の言葉は読者の心に響きやすく、ひいては広い変化を促すことに成功している。
これが Morrison の方針転換なのかそれとも気まぐれなのかは今後の作品を見てみないとわからない。
そう言えば Morrison の作品で「主人公が自らの分身のような存在に導かれ変化を遂げる」というパターンのものがもう1つある。
そう、 ARKHAM ASYLUM だ。
Batman が自分の影ともいうべき Joker に導かれて狂気/正気の館を歩き回り、出てきた時には別人になるという筋のこの作品は、しかめっ面の主人公と笑顔の案内役といったキャラクター的な面を始めとして驚くほど HAPPY! と共通点が多い。
そういう意味で本作は ARKHAM ASYLUM の姉妹作として読むことができるかもしれない。
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