Truth: Red, White and Black (2003) #1
あなたの知らない”キャプテン・アメリカ”の物語。
1942年。米軍は Abraham Erskine 博士の殺害によって失われた超人血清の再現を目指し、黒人兵士をその被験体として使用することを決める。実験の失敗により次々と仲間が命を落とす中、生き残って驚異的な身体能力を獲得した一握りの兵士達は密かに実戦に投入されるように。やがて最後の1人となった Isiah Bradley はコミックに着想を経て、青と白のスーツに袖を通す。
2003年に発表された Robert Morales と Kyle Baker によるリミテッド・シリーズ。米国政府が黒人男性に対してチフスを投与した悪名高い実験に発想を得たという本作は、その内容もさることながら黒人の Captain America を描いているということで刊行当時大きな議論を巻き起こした。
数あるスーパーヒーローの中でも、 Captain America ほど居心地の悪いキャラクターはいないだろう。
名前もさることながら、何よりあの露骨すぎる星条旗コスチュームには国籍関係なく誰もが最初は違和感を覚えると思う。
以前見た論評か何かで MCU の「 Steve Rogers が口にする”アメリカ”とは現実のアメリカではなく理想のアメリカである」とかという意見を目にしたが、それも含めて彼は人々がまだ”大きな物語”を信用していた時代のキャラクターなのであり、アメリカ合衆国が自ら標榜する「真実と自由と平和の国」から程遠い国であるということが露呈してしまった現代において、その賞味期限は既に切れてしまっていると思わざるを得ない。
本作もそんなアメリカの”大きな物語”に押し潰された者達の物語だ。
Steve Rogers という”大きな物語”をさらに大きくするための人身御供として使われた黒人兵士達、彼らの”小さな物語”である。
彼らはただ実験材料として利用されるだけに留まらず、そうされることさえ「肌の色が違う」というだけで白人将校から嫌がられる。
だがそういった自らの境遇に自覚的でありながらなお、最後の1人となった Isiah Bradley は自作の星条旗スーツに身を包む。それがコミックで Captain America の活躍を見た彼の単純な憧れだったのか、それとも他に何らかの意思が隠されていたのかは語られない。
だが60年後に Steve から渡されたスーツを再び手にする彼の笑顔は誇らしげである。
”大きな物語”という言い方はここで便宜上使ったが、私自身は物語に大小つけるのは好きではない。そういった評価は往々にして一般性や知名度といった、それは物語そのものとは関係のない定規で決められるからだ。
だから本作のラストに関して、私はこれを短絡的に”小さな物語”が”大きな物語”に勝利した瞬間などとは思わない。 Isiah の笑顔は、単純に2つの物語が繋がったことに対する喜びの表明だったのだと信じたい。
世界が分断されつつある今、改めて読んでおきたい作品である。
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